- 2017年07月05日 17:13
米韓首脳会談でも強調、文大統領がこだわる「韓国の主導的役割」とは? - 澤田克己 (毎日新聞記者、前ソウル支局長)
「心配されていた文在寅大統領の初めての韓米首脳会談が無難に終わった」(韓国・中央日報7月3日社説)
6月30日に行われた文氏とトランプ米大統領との会談は、北朝鮮の核問題解決へ向けて北朝鮮への圧力を強めることと「適切な条件」の下で対話解決を図るという方針を確認した。北朝鮮に対する向き合い方が全く違う2人だけに、意見の食い違いが表面化しない線で折り合えたことは良かったと言えるだろう。不安は残るものの、初会談として悪かったとは言えない。
韓国メディアの受け止め方で目立ったのは、「当事者である韓国の主導的役割が認められた」というものだ。韓国では進歩派(革新)を中心に強調される民族主義的な考え方で、大国が自分たちの頭越しに物事を決めていくことへの不満が根底にある。
朝鮮半島は19世紀末から20世紀初めにかけて、中国(清)と日本、ロシアが衝突する場となった。日清、日露戦争は朝鮮への影響力を巡る日本と清、日本とロシアの争いだった。そして米国も、日本の朝鮮支配と米国のフィリピン支配を相互に認めるという形で朝鮮半島情勢に関与した。当事者能力を十分に持てなかった朝鮮は、大国に翻弄された結果として日本の植民地に転落した。
そうした歴史を考えれば、「当事者である韓国の主導的役割」にこだわる気持ちも不思議ではない。心情的には十分に理解できるのだが、周辺の大国が朝鮮半島情勢に深い利害を持つという現実は変わっていない。現在の韓国は一世紀前には考えられなかったほど大きな国力を持つようになったが、それでも米中両大国とは比べものにならない。韓国人が「主導的役割」に複雑な思いを抱くゆえんである。
「韓国が運転席に座る」ことへの強い願望
だからトランプ氏が「当事者である韓国の主導的役割」を認めたことが、韓国では大きな意味を持つ。
米韓両首脳の共同声明には「トランプ大統領は朝鮮半島の平和統一へ向けた環境を作るにあたって、韓国の主導的役割を支持した」「人道主義的な事案を含む諸問題に関する南北間の対話を再開しようとする文大統領の熱望を支持する」と盛り込まれた。
トランプ氏にそこまで深い理解があったかは不明だが、文氏はかなり勇気づけられたようだ。文氏は首脳会談翌日に出席した在米韓国人との懇談会で「周辺国に頼るのではなく、我々が運転席に座って南北関係を主導していく」と意気込みを見せた。
文氏は5月の大統領選直前に行ったワシントン・ポストのインタビューでも「米中の議論や、米国と北朝鮮の対話を後部座席から見ているという状況は、韓国にとって望ましいものではない」と語っていた。2000年に行われた初めての南北首脳会談から17年となったことを記念する6月15日の記念式での祝辞では、金大中大統領(当時)の業績について「朝鮮半島問題の主人は我々自身であると身をもって実践的に見せてくれた」と指摘し、「我々が運転席に座って周辺国との協力に基づいて問題を引っ張っていけることを見せてくれた」と称賛していた。
「韓国の主導的役割」について米国の了解を取り付けたと理解した文氏はこれから、北朝鮮との対話により積極的な姿勢を見せるようになりそうだ。ただし、北朝鮮が簡単に応じるとは思えないので、すぐに何かが進展することはないだろう。北朝鮮は、韓国の政権が対話に前のめりになると足元を見て揺さぶろうとするのである。
米韓で食い違う?「対話のための適切な条件」
トランプ政権も、北朝鮮との対話を否定しているわけではない。「すべての選択肢」を検討すると言ってきたトランプ政権だが、先制攻撃が非現実的であることや金正恩政権の転覆が政策目標に入っていないことは明確だ。日本海への空母派遣などで4月には緊張が高まったものの、5月になるとマティス国防長官やティラーソン国務長官がそうした穏当な発言を繰り返すようになった。
だからこそ米韓首脳会談では、韓国側の希望も受け入れて対話に関する言及が厚めになったのだろう。トランプ政権にとっても「適切な条件」の下で北朝鮮との対話に応じると表明することは全く問題ないからである。
ただし、「適切な条件」についての理解が米韓で一致する保証はない。
文氏は首脳会談翌日に韓国人記者団との懇談で「対話の条件」について説明している。聯合ニュースによると、文氏は、対話の条件について「トランプ大統領は、変化する情勢の中で『感覚』で判断するしかないのではないか、近くにいる韓国の方がよく感じ取れるのではないかと言いながら、むしろ(韓国を)信頼する様子を見せた」と話した。文氏はそのうえで「現段階では(条件を)特定しないのが賢明だ」と延べた。
文氏の発言を額面通りに受け取ると、トランプ氏は韓国に大きな裁量を発揮してもらいたいと言ったことになる。ただ、トランプ氏であるだけに真剣に考えた末の発言なのだろうかという疑念が残る。米韓は高官級の協議体を設置して話し合うというが、事務レベルで話を始めたら簡単に結論が出るとは思えないのである。
両首脳の共同声明は圧力路線も強調した。国連の全加盟国が安保理制裁に参加することが必要だと訴えるとともに、「北朝鮮が挑発的行為を中断し、真摯で建設的な対話の場に復帰するよう最大の圧迫を加えるため、既存の制裁を忠実に履行しながら新たな措置も取っていく」という具合だ。「重要な役割」を担うと中国を名指ししてもいる。
米国は首脳会談直前、北朝鮮と取引していた中国の地方銀行に対する制裁措置を発表した。このタイミングでの発表には、「今は制裁局面だ」ということを韓国に見せるという意図もあったと考えられる。対話に前向きな韓国側との温度差をうかがわせるものだ。
米国は日韓関係の悪化を警戒か
共同声明には「両首脳は、域内関係を発展させ、韓米日3国の協力を増進していくという公約を再確認した」という文言も入った。日韓関係の悪化を警戒する米側が入れたようだ。
米国の東アジア政策は、日韓それぞれとの同盟関係に立脚している。日韓の協力がスムーズに進まないと米国には不要な負担となる。その考えは、1960年代前半に早く国交正常化を進めるよう日韓両国に圧力をかけた時から一貫している。オバマ前大統領は、慰安婦問題を巡って険悪な状況に陥っていた日韓関係を改善させるよう両国に働き掛けた。
直近の状況では、日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)と慰安婦問題を巡る日韓合意の関係が分かりやすいだろう。米国の外交官は、「日韓がGSOMIAを締結することは米軍にとっても利益となる。そしてGSOMIAが(16年に)締結できたのは、前年末に慰安婦問題の合意があって日韓関係が好転したからだ」と話す。
だから、日韓合意を維持することは米国にとっても望ましいということになり、文氏が「再交渉」を言い出すことは歓迎できない。
損得勘定の話だから、この認識はトランプ政権でも変わっていないのだろう。日本側も留意すべきポイントである。
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