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【MiAUの眼光紙背】同じ被写体を撮ったら著作権侵害!? 廃墟写真で著作権訴訟のワケ

ここ数年、インターネットなどを中心に「廃墟」ブームが盛り上がっている。人々の記憶から消えようとしていた朽ち果てた廃墟を探し出し、写真として残すことで新たな廃墟の美術的な価値を世に知らしめたのがいわゆる「廃墟写真」だ。プロの写真家から、素人の廃墟マニアまで、様々な好事家がこの珍しい被写体を撮影している。

最近、そんな「廃墟写真」にある著作権問題が持ち上がった。ある写真家が撮影した廃墟写真を、別の写真家が似た角度から撮影し、それが表現の「模倣」として問題視され、今年1月9日に裁判が起こされたのだ。

提訴したのは、廃墟写真の草分けとして知られる写真家の丸田祥三氏。群馬県松井田町の旧国鉄丸山変電所跡を撮った作品で1994年に日本写真協会新人賞を受賞し、以来テレビや雑誌、写真集『棄景』シリーズなどで廃墟や廃線の写真を発表してきた。そして、今回訴えられた小林伸一郎氏も、『廃墟遊戯』『廃墟漂流』『亡骸劇場』などの廃墟写真集を代表作としている写真家で、2007年に第38回講談社出版文化賞(写真賞)を受賞している。

今回の争点は丸田氏が先がけて発表した写真で知られるようになった廃墟を、小林氏も似たような構図で撮影し発表したこと。丸田氏側は、氏が新人賞を受けた旧国鉄丸山変電所跡を始め、栃木県・足尾銅山、静岡県・大仁鉱山など写真5点が「模倣」されたと指摘。報道によれば、小林氏側は「事実無根」とのコメントを出した。

今回のような表現の「模倣」を争う著作権裁判では、今までの判例で一般的な基準は確立している。その際基準となるのは、模倣したとされる方の作品が先行作品の表現を参考にした事実があるのかという「依拠性」と、先行作品を強く連想させるほど似ているのかという「類似性」の2つ。これら2点を裁判所が認めれば著作権侵害と判断されるわけだ。

一般論としての話をすれば、写真は個人の思想や感情の「表現」を保護する「著作権」の世界で立派な著作物として扱われている。著作権法の概説書によれば、被写体の選択、アングル、構図やトリミングなどの撮影技法によって、撮影者(著作者)の思想・感情が表れると説明されている。写真が保護に値する「表現」だという社会的コンセンサスは取れているということだ。写真が「著作物」である以上、それをそのまま出版物やインターネットへ転載したり、写真の表現を「模倣」して後発の著作物を発表したりすることは、元の写真の著作権者へ断わらずには行えない。丸田氏は小林氏の写真を自分の作品の模倣(二次的著作物)と考えているので、著作権侵害として提訴したということになる。

しかし、写真の場合、文芸や絵画、音楽のように一般的な著作物とは事情が異なる。「そこにあるものを撮影する」という著作物の特性上、同じ物体を撮影したときに類似する部分がどうしても多くなってしまうからだ。同じ被写体を撮影した写真が、互いに似かよってしまう性質があることはどうしようもない。これが著作権侵害と認められれば、先行作品から「被写体の存在と場所を知ったにすぎない」程度だったとしても、同じ被写体を撮影することで、後発の写真が結果的に「模倣」したものと認定されるおそれが出てくる。

この裁判がどうなるか。それは「依拠性」「類似性」を裁判所がどう判断するかということにかかっている。また、裁判の過程でこれら2つの基準に関して、どういった証拠を原告被告側が出してくるのか、また、写真特有の事情が汲み入れられるのかといったことでも大きく流れは変わってくるだろう。現時点ではシロ(著作権侵害ではない)という結論も、クロ(著作権侵害)という結論も、どちらもあり得る。

以下は、仮定の話になるが、もし小林氏の作品が「模倣」だと判断されれば、多くの写真家にとっては困った事態につながりかねない。

確かに、訴えられた小林氏の作品に不利な点も感じないわけではない。5点の写真はいずれも、小林氏の撮影が丸田氏の発表よりも後のようであり、また同じ建物を似た角度で撮影している。しかし、両氏の作品は厳密には「表現」として異なる部分もある。たとえば丸田氏の写真がモノクロームであるのに対し、小林氏はカラーで撮影している。この違いにより、写真から受ける印象もかなり変わってくる。

加えて、両氏の作品ではカメラの位置にも違いが見られる。もし今回のようにトリミングや撮影位置を変えた程度では「模倣」と判断されるのが避けられないのなら、写真撮影が“陣取り合戦”のようになってしまうのではないか。「依拠」が疑われないなら別だが、早い者勝ちで、ある角度からの被写体を他の者に撮影させない“権利”が発生してしまうなら、写真という表現に大幅な制約が加わることになりかえねない。

今回訴訟で問題とされている5点のうちの1枚、旧国鉄丸山変電所跡では、丸田氏も小林氏もこの写真の他、別角度から撮影した作品を発表している。問題の写真では、室内の同じ壁を丸田氏が左隅から(1987年)、小林氏が右隅からの撮影だ(1995年)。別作品では、丸田氏は側面から(1996年)、小林氏は問題の写真で写る壁の側から撮影した(1999年)。訴訟にあたって小林氏の作品をチェックしたであろう丸田氏は、この小林氏と同じ地点から今後撮影できなくなるのだろうか。

表現への萎縮効果を考慮すれば、ある程度の違いが見られる写真を「模倣」だと判断する副作用は大きい。裁判所もそのあたりは配慮しつつ判断を下すことだろう。

しかし、そうした配慮が過度に働くと、今度は丸田氏が苦労して廃墟を見つけ、作品として作り上げた労力や、丸田氏の作品を「模倣」したかのような写真の存在をどうにかしたいという思いは汲み入れられにくくなる。「著作権」というものが、著作者のそうした思いに応えようにも、他への影響が強大になりすぎてしまっているため、非常に難しい問題になってしまっているのだ。

今回のケースは判断が難しい著作権に頼らず、和解や一般的な「不法行為」としての解決を裁判所が選ぶ可能性もある。いずれにせよ、どんな判決が出ても、多くの写真家にとっては喜べない結果になる可能性は高い。どのような結果が出るか、裁判の行方を見守りたい。(谷分章優/MIAU事務局長、フリーライター)


プロフィール:
MiAU 2007年設立。ネット上の世論を集約し、政策提言などを行う団体。著作権法関連の動きについて、ネットユーザが意見表明するためのサポートを行っていくことを目的として設立された。
公式サイト:MiAU

眼光紙背[がんこうしはい]とは:
「眼光紙背に徹する」で、行間にひそむ深い意味までよく理解すること。
本コラムは、livedoor ニュースが選んだ気鋭の寄稿者が、ユーザが生活や仕事の中で直面する様々な課題に対し、「気付き」となるような情報を提供し、世の中に溢れるニュースの行間を読んで行くシリーズ。

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