記事
  • MIAU

【MIAUの眼光紙背】小室事件に残る最大の疑問

先月4日、音楽プロデューサーの小室哲哉氏が詐欺の疑いで大阪地検特捜部に逮捕された。逮捕後の取り調べでは容疑を大筋で認め、11月21日に起訴。同日午後に大阪拘置所から保釈されたが、保釈後に会見した担当の佐藤貴夫弁護士によれば、裁判では小室被告に実刑判決が下される可能性が高いとのことだ。

TM NETWORKのキーボーディストとして名を馳せた80年代から、プロデューサー兼職業作曲家として一世を風靡した90年代に至るまで、日本のポピュラー音楽を語る上で決して欠かすことのできない存在である彼がなぜ、このような犯罪に手を染めてしまったのか。真相は法廷で解明されることとなるだろうが、これまでの報道を見ている限り、不可解な点も多く残されている。

今回問題になったのは音楽著作権の譲渡をめぐる詐欺である。小室被告が被害者となった投資家に「自作曲の著作権を譲渡する」と持ちかけ、5億円をだましとったとされている。通常、著作権は国際条約で何か作品を作った時点で発生する「無方式主義」を採用している。同じ知的財産でも特許権や意匠権、商標権などは「方式主義」で、特許庁に登録しなければ権利として発生しない。土地や特許であれば登記簿や特許データベースを参照することで、所有者が明確にわかるが、著作権の場合は公的なデータベースに登録する義務がないので、誰かに譲渡されていた場合でもわからないという問題があるのだ。今回の詐欺はこのスキマを突いて、既に譲渡済みの著作権が自分にあるように説明し、5億円をだましとったということだ。

しかし、一般にはあまり知られていないが、作詞作曲といった音楽(楽曲)の著作権は他人や会社に対して「譲渡」を行ったうえでその他人や会社から「作家取り分」を一定の割合で受け取るということが日本の音楽業界の慣例になっている。音楽の場合、放送や演奏、配信、カラオケなど、二次利用される機会が多いため、アーティストが自分で著作権を管理するのが難しい。だからメジャーのレコード会社と契約するようなアーティストは楽曲を作った際、音楽出版社に全部または一部の著作権を譲渡し、譲渡された音楽出版社は、その著作権使用料の徴収を日本音楽著作権協会(JASRAC)やイーライセンス、JRCといった著作権管理団体に委託するという形を取っているのだ。一口に著作権といっても、このコラムのような文章や小説から、マンガ、絵画、写真、映画、ゲームなど、さまざまなジャンルのコンテンツに与えられるものだが、唯一音楽というジャンルの著作権については「譲渡→著作権管理団体に徴収を委託」というプロセスが数十年にわたって定着していたため、実質的に民間のデータベースが構築されていたのだ。つまり、今回被害にあった投資家はJASRACなどに小室被告の楽曲の著作権の所在を尋ねることで、著作権の所在を知ることができたのである。

音楽業界ではこうした著作権譲渡を持ちかける詐欺はしばしば起こるそうだが、JASRACが存在するおかげで、詐欺を水際で防げたというケースも多いという。今回の件は、だまし取られた金額が金額なだけに、被害者の投資家がなぜ事前に著作権の所在を調べなかったのか、そこに最大の疑問が残されている。

被害額が大きいといっても、この程度の詐欺事件であれば、大阪府警の捜査2課(知能犯担当)が扱うべき案件ではなかったのか。いくら知名度のある音楽プロデューサーが関与した事件とはいえ、通常汚職や企業犯罪などの大規模事件を扱う地検の特捜部が動くというのは現時点では異例のことだ。音楽業界が歴史的に芸能界や裏社会と少なくない関わりを持ってきたというのは今更指摘するまでもない事実だが、法廷でどこまでこの事件の背後にある闇が明るみに出るのか。今後の行方が注目される。(津田大介/MIAU代表理事、ジャーナリスト)


プロフィール:
MiAU 2007年設立。ネット上の世論を集約し、政策提言などを行う団体。著作権法関連の動きについて、ネットユーザが意見表明するためのサポートを行っていくことを目的として設立された。
公式サイト:MiAU

眼光紙背[がんこうしはい]とは:
「眼光紙背に徹する」で、行間にひそむ深い意味までよく理解すること。
本コラムは、livedoor ニュースが選んだ気鋭の寄稿者が、ユーザが生活や仕事の中で直面する様々な課題に対し、「気付き」となるような情報を提供し、世の中に溢れるニュースの行間を読んで行くシリーズ。

トピックス

ランキング

  1. 1

    全裸女性丸出し NHKの攻めた番組

    NEWSポストセブン

  2. 2

    普天間基地の騒音をテレビで流せ

    毒蝮三太夫

  3. 3

    秋元康監修のSushi劇場が大爆死

    木曽崇

  4. 4

    田中耕一氏「ノーベル賞は苦痛」

    文春オンライン

  5. 5

    ヘイト年金所長更迭 被害者語る

    BLOGOS編集部

  6. 6

    いきなりステーキは日本の未来

    MONEY VOICE

  7. 7

    東芝監査1兆円請求 周囲に飛び火

    山口利昭

  8. 8

    徴用工訴訟で韓国は勝手に自滅へ

    MONEY VOICE

  9. 9

    歴史ばかり持ち出す文政権に批判

    高英起

  10. 10

    欧米の1周遅れな日本は「幸運」

    橘玲

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。