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米イージス艦衝突事故が日本の安全保障にもたらす影響 - 小谷哲男

 6月17日午前1時半ごろ、静岡県の伊豆半島沖で米海軍のイージス駆逐艦「フィッツジェラルド」とフィリピン船籍のコンテナ船「ACXクリスタル」が衝突した。イージス艦は右舷側、コンテナ船は船首左側がそれぞれ損傷した。イージス艦の艦長を含めた3人が負傷し、行方不明になっていた乗組員7人については全員の死亡が確認された。衝突でイージス艦の船底付近に4メートルの穴が開き、一気に浸水した居住スペースに7人は取り残された。

 イージス艦といえば屈強なイメージがあるが、実際は機動力を重視し、艦の装甲は軽くなっている。特に今回はイージス艦が8000トン、コンテナ船が3万トンと3倍以上の重量差があり、またコンテナ船の球状船首と呼ばれる固い部分がイージス艦の比較的弱い船腹部分に衝突したため、イージス艦に大きな損傷が出たと考えられる。

 また、イージス艦のフェイズドアレイレーダーは高性能であるが、経空脅威に対応するためのものであり、航行に関してはイージス艦も普通の船と同様のレーダーと当直員による目視に頼っている。今回は事故発生が真夜中であったが、夜間に船は右舷に緑、左舷に赤、船尾に白の灯火を掲げるため、当直員は相手の船のライトを見てその船がどのような状況にあるのか判断しなければならない(http://www.mlit.go.jp/jmat/monoshiri/houki/houkinyumon/yorutouka.htm)。

どちらに回避義務があったのか

 これまでにわかっていることを整理してみよう。

 300トン数以上の国際航海する船舶には自動船舶識別装置(AIS)を搭載する義務があり、その情報はインターネットで公開されている。今回の事故についても、コンテナ船のAISデータから事故発生時のコンテナ船の動きがわかっている(https://twitter.com/GregAtkinson_jp/status/875940020514734081?ref_src=twsrc%5Etfw&ref_url=http%3A%2F%2Fwired.jp%2F2017%2F06%2F21%2Finternet-of-ships%2F)。コンテナ船の動きが示すのは、午前1時半頃衝突が発生し、コンテナ船がUターンをして衝突の相手がイージス艦であることを確認し、海上保安庁に通報するまで約1時間かかったことがわかる。なお、イージス艦もAISを搭載しているが、軍艦はその位置を知られるのを避けるため、AISを切って航行することが多い。「フィッツジェラルド」のAISも切られており、航行データは公開されていない。

 その間、イージス艦では、艦の沈没を避けるため、懸命の作業が行われていた。乗組員は、艦長ら負傷者を救助し、仲間が取り残されている可能性があるにもかかわらず浸水区画を閉鎖した。一方、通信手段が損傷を受けたため即座に救援を要請できず、復旧に1時間程度かかった。このため、当初米海軍は事故発生を午前2時半頃と発表したのであろう。

 今回の事故発生場所が日本の領海内であったため、第3管区海上保安本部が業務上過失往来危険容疑で事故の調査をしている。しかし、国際法上軍艦には主権免除の原則があり、この原則に基づく日米地位協定では、公務中の犯罪に関しては米軍が司法権を持つため、米側の同意なしにイージス艦の捜査を行うことはできない。このため、海上保安庁はコンテナ船側を調査しながら、イージス艦については米軍に捜査協力を依頼している。

 2009年に横須賀港内で米イージス艦「ラッセン」がプレジャーボートと接触した事故では、米海軍が日本側にイージス艦の写真撮影のみを許可し、損傷部分の実況見分や艦長らの事情聴取には応じなかった。このため、今回の事故でも米側がどこまで日本側の捜査に協力するかはわからない。しかし、それは米側が事実を隠蔽するということではなく、米海軍は自らすべての真相と責任の所在を解明し、適切な処分を行うことになる。それは、事故の再発を防止するためにも必要な作業である。

 事故原因解明の最大のポイントは、どちらに回避義務があったかである。陸上とは異なり、海には道路がないため、軍艦も民間船も「海上における衝突の予防のための国際規則に関する条約(CORLEGS)」に従う義務がある。今回の事故は、状況から見てどちらかが相手の航路を横切ろうとしたか、追い越そうとした中で発生したと考えられる。横切る場合は、相手を右側に見る側に衝突を避ける義務があり、追い越しの場合は追い越し側に衝突を避ける義務がある。今回のケースでは、横切りであればイージス艦側に、追い越しであればコンテナ船に回避義務があった可能性が高い。

 回避義務と合わせて、当直員に問題はなかったのか、レーダーは正常に作動していたのかなど、事故発生時の当直体制の検証も重要である。事故発生現場は1日400隻が往来する交通量が多い輻輳海域である。非常に多くの船が周りにいた場合、レーダーが正常でも当直員の判断次第で危険な状況が起こることはある。コンテナ船側は、衝突の前にイージス艦側にライトで接近を警告したという証言もあり、イージス艦側の当直体制が特に注目される。また、イージス艦の艦長は自室で負傷したが、輻輳海域を通航するに当たって、艦長が艦橋にいなかったことには疑問が残る。

目に見えない形で日米協力に影響が出る可能性も

 今回の事故は、一方の当事者が軍艦であった点を除けば、通常の海難事故である。しかし、安全保障上の影響がないわけではない。

 まず、「フィッツジェラルド」は、現在横須賀基地で修理を受けているが、横須賀基地は非常に高い艦船修理能力を有しているとはいえ、「フィッツジェラルド」を修理するために、他の艦船の修理に遅れが出る可能性がある。横須賀を母港とする米第七艦隊は米海軍の中で最も忙しい部隊であるが、その修理が遅れることは日本の防衛と地域の安定にとって望ましいことではない。このため、「フィッツジェラルド」は米本土で修理することになるであろう。なお、2000年にイエメンで小型ボートによるテロ攻撃を受けた米イージス艦「コール」は、重量物運搬船に乗せられ、米本土で修理を受け、復帰には3年かかった。

 また、「フィッツジェラルド」は、米海軍が横須賀に配備している弾道ミサイル迎撃能力を備えた7隻のイージス艦のうちの1隻で、北朝鮮のミサイル対応のため、4月に朝鮮半島近海に展開したばかりである。日米は、海上自衛隊の4隻のイージス艦と合わせて、合計11隻をローテーションさせ、北朝鮮のミサイル対応を行っているが、当面これが10隻となる。1隻減っても、ローテーションを工夫することで即座に影響が出ることはないが、長期的には残り10隻の作戦期間が延び、乗組員の負担が増え、それによって士気が下がる可能性がある。

 このため、米海軍は「フィッツジェラルド」を修理する間、米本土から代わりのイージス艦を派遣すると考えられる。しかし、単に数を合わせればいいというものでもない。「フィッツジェラルド」は長年横須賀に配備されており、海上自衛隊との協力やアジア地域での作戦に慣れ親しんだ乗組員も多いが、新しいイージス艦の乗組員が西太平洋での作戦に慣れるには、時間がかかるであろう。このため、「フィッツジェラルド」がしばらく作戦から離脱すれば、目に見えない形で日米協力に影響が出る可能性がある。

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