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「若き勤務医」が取り組む日中「貧血対策」の民間研究

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復旦大学との合同会議。右から4人目が山本佳奈医師、5人目が赵根明教授、7人目が森田知宏医師(筆者提供)

 前回、公的研究の削減が続く我が国で、「税金に頼らない『自由な民間研究者』を育成すること」の必要性を述べた(2017年6月6日「医療崩壊」第1回参照)。

 今回は、我々の活動の一環をご紹介したい。我々は、上海の復旦大学との交流を続けている。きっかけは、前回、ご紹介したとおりだ。

 6月の1カ月間、相馬中央病院の森田知宏医師と南相馬市立総合病院の山本佳奈医師が、共同研究のために短期留学した。受け入れてくれたのは、公衆衛生大学院の赵根明教授だ。

 森田医師のテーマは、上海の高齢化対策、特に認知症だ。山本医師は貧血である。いずれも彼らがライフワークと考えているテーマだ。今回は、山本医師の研究をご紹介したい。

戦後「食糧難時代」より低摂取

 女性が高学歴化し、社会進出が進む先進国で、貧血は古くて新しいテーマだ。山本医師は自らが貧血に悩んだ経験もあり、大学時代からこの問題に取り組んできた。昨年には『貧血大国・日本 放置されてきた国民病の原因と対策』(光文社)を上梓した。

 意外に思われるかもしれないが、日本での貧血の現状は不明な点が多い。多くの医師や研究者が関心をもっていないため、そもそもデータがない。

 最も新しいデータは、2007年に虎の門病院血液科の久住英二医師(現・鉄医会理事長)が『日本血液学会誌』に発表したものだ。

 これは都内の2つの病院で、1998年から2005年の間に健診を受けた1万3147人の女性を対象としている。50歳未満の女性の22%が貧血と診断され、そのうち25%は重度に分類された。これ以降、調査研究は実施されていない。

 ところが近年、女性の健康を取り囲む状況は大きく変わった。痩せる志向が高まり、ダイエットが流行しているからだ。この結果、20代の女性の1日の平均摂取カロリーは、1995年の1886キロカロリーから、2013 年には1628キロカロリーに減少した。いまや女性の摂取カロリーは戦後の食糧難の時代よりも少ない(1946年で1696キロカロリー)。

 この結果、女性の鉄の推奨摂取量は大幅に不足している。推奨摂取量は10.5mg/日だが、20代女性は平均して6.6mg/日しか摂取していない。

貧血対策のない日本

 今後、この傾向は益々加速するだろう。女性の社会進出が進み、その地位が向上すれば、独自の価値基準が形成されるのが、先進国では共通の傾向だからだ。

 キャリアウーマンの象徴である女医の場合、容貌や装飾品以上に体型が重視されやすい。フォーサイトの常連筆者で米国在住の女性医師である大西睦子氏は、「米国では、スリムであることは自立した女性の最低条件と考えられている」と言う。

 このような気質は、時に病的になる。キャリアウーマンの典型とも言える女医の中には、拒食症(摂食障害)に陥る人が少なくない。我が国の女性が、摂取カロリーを増やし、鉄の摂取も充足するとは考えにくい。

 これは少子化対策の観点からも問題だ。なぜなら鉄不足は、妊娠可能年齢の女性に甚大な影響を与える可能性があるからだ。

 近年、世界各地でこの分野の研究が進んでいる。米国ハーバード大学の研究者らの報告によれば、妊娠初期・中期に貧血だと、低出生体重児を出生するリスクが1.29倍、早産のリスクが1.21倍に上昇するという。

 胎児の臓器や器官は、妊娠初期から中期にかけて急速に発達する。妊娠が判明してから鉄剤を内服したとしても、すでに遅いし、また妊娠初期は悪阻を発症する妊婦が多く、鉄剤の服用は困難である。このように考えると、貧血は個人の問題だけでなく、公衆衛生上の問題でもある。

 世界では様々な貧血対策がとられている。代表的なのが、食品へ鉄を添加することだ。たとえば、米国や英国では小麦粉に、フィリピンでは米に鉄を添加している。このような対策が採られ始めたのは1940年代のことだ。ところが日本では、このような対策は一切なされていない。

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