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「孤独のグルメ」というスモールハピネス革命

■静かな革命

前回「スモールハピネス社会」というコラムを当欄で書いたのだが(スモールハピネス社会)、あれからぼんやりと考え続け、これはもしかして若者たちによる静かな「革命」なのではないかと僕は思い始めた。

前回も書いたとおり、少子高齢社会のなかで子どもが増えない原因は、子育て環境の不整備(待機児童や病児保育等)は二次的な問題であり、「結婚しない」「家族をもたない」若者たちが増加していることにある。

たしかにまわりを見渡すと、子どもを授かった夫婦は、2人目3人目と続けて産む傾向にあり、僕のまわりにも3人きょうだいや4人きょうだいの子たちをもつ親はそれほど珍しくはない。むしろ一人っ子のほうが珍しいくらいで(これはこれで理由があるのだろうが)、最初に生まれた子どもの立場に立つと、やはりきょうだいがいたほうがその子にとってはプラスだろうという判断から複数の子を親たちは目指すようだ。

また貧困世帯においては、シングル親の一人っ子も当然たくさんいるものの、ステップファミリー(シングル親同士の再婚による家族)化の結果、大勢のきょうだいが形成される家族というパターンも珍しくはない。

セレブにおいては、残念ながら亡くなってしまったあの小林麻央さんも3人目を望んでいたという。

このように、セレブから中流・下流世帯まで幅広く複数子は志向される。それはステップファミリー化の結果という場合もあるし、希望してたくさんの子をつくるという場合もあるが、いずれも「子は複数」というのが多数派のように僕には思える。

つまりは、少子社会とは、夫婦が一人っ子を志向する社会ではなく、「結婚して子を持つ若者が減少している社会」のことだ。

■『ワカコ酒』と『孤独のグルメ』

若者の人口そのものが減り続けていることも関連する。一学年200万人以上が続いた70年代生まれの団塊ジュニア時代とは違い、バブル時代以降に生まれた「ゆとり世代」は120万人前後、去年生まれた子どもはついに100万人を切り、そもそも若者の人口が団塊ジュニアの半分である。

これは、日本経済の不安定化とともに拡大した雇用システムの大変動(非正規雇用2,000万人)がそもそもの始まりだった。その結果、我が国は階層社会となり、従来のような「結婚→出産→住宅購入」的な典型的ライフプランが描けなくなった。

おカネがないことと結婚(あるいは同棲)しないことはそもそも比例しないと僕は思うのであるが、世の若者の多くは、「おカネがないと愛も生まれない」ようだ。

前回引用したマンガ家・新久千映氏の描く「ひとり飲み」マンガ『ワカコ酒』の主人公には彼氏がいるそうだが(人気マンガ『ワカコ酒』作者が語る“ひとり飲み”の幸福論)、それはあくまでも恋人であり、また、ひとり飲みワールドを強調するための役回りにしかすぎないと作者は語っている。

人気ドラマ・マンガ『孤独のグルメ』の主人公(主人公は年齢的に若くはないが、その自由なあり方は「広義の若者」に含めていいかもしれない)も独身だという。独身で真面目に働きつつ、趣味のひとり飲み・ひとりグルメを楽しむ生活。これが現代の幸福のかたちだ。

■食事とお風呂と眠れる場所

『ワカコ酒』の新久氏は上のインタビューの中でこのように言う。

【実は、『ワカコ酒』の主人公ワカコが「ひとり酒」を楽しむスタンスというのは、私が10代の時にたどり着いた幸福論が根底にあるんです。

幸せっていうのは、毎日普通に食事ができて、お風呂に入って、眠れる場所がある…。そういうのが、やっぱり「幸せ」なのだと。それは決して向上心を失っているという意味ではありません。

普通の生活をするために日々頑張り続けることって、大切なことだと思うんです。そうやって何気なく思えることが一番の幸せだなって思うんです。】

食事とお風呂と眠れる場所。このささやかな行為のつながりが「幸せ」だという。

この、「スモールハピネス」への志向こそが、そもそも経済と社会構造の大変動から始まった「大量シングル社会」ではあるものの、その社会構造が定着したあとやってきた幸せのカタチである。

現代の幸せは、『ワカコ酒』や『孤独のグルメ』に見られるようなスタイルであり、それは20~40代前半の人々の隠れた欲望になってきているように僕には思える。

■「ま、このままでもいいか。わりと楽しいし」

人生において「仕事」が第一ではなくなったのは、最初は仕方なかったのかもしれない。また結婚しなかった結果子どもをもたなかったのも望んだ生き方ではなかったのかもしれない。

が、それでも日常は続き、働き休み、何かを食べて何かを聞いたり見たりし、誰かとどこかに小旅行に行ったりささやかなものを買ったりはする。

そうした日常を送るうち、「ま、このままでもいいか。わりと楽しいし」的心境に落ち着いてくる。

この小さな幸せ感こそがスモールハピネスであり、我々の社会には、1~4人の子をつくって家族を形成する人々とは別に、スモールハピネスをまったり楽しむ人々が確実に増殖しているように僕には映る。

そのような人々の増殖が、結果として我が国の人口を8,000万人にし、6,000万人にまで減少させるかもしれない。産業は衰え小さな街が消え、イオンさえも減っていくだろう。

けれども、そこで生きる人々は「幸福」なのかもしれない。

『ワカコ酒』や『孤独のグルメ』のブームは、このような人口減少社会の中の人々のあり方を描いているように僕には見え、そこで追求されるのが「食」だということも興味深い。

子をもたない生き方、結果としての人口減少、そして何よりも「食べる」という愉しみの追求、これらはやはり「革命」と呼んでいい気がする。★


大和東高校「ホーダーカフェ」(高校生居場所カフェ)での手作り抹茶ケーキ。美味しそう。\(^o^)/

※Yahoo!ニュースからの転載

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