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百田尚樹、香山リカと相次ぐ講演会中止事件の波紋

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 さらにその後の展開はいささか深刻だ。香山リカさんの講演会に対して抗議や脅迫が始まったのは桜井誠さんの6月15日のツイートがきっかけと言われるが、そこにはこう書かれていた。
「パヨク側はこちら側の講演会をレイシスト講演会だと叫び叩き潰しています。だったら同じことをされても文句はないですよね?」。
これを受けて香山さんの講演を行う予定だった江東区社会福祉協議会にメールや「電凸」が一斉になされたという。そして講演会中止が発表された21日、再び桜井さんはこうツイートした。

《香山リカが予定していた豊洲での講演会が中止になったそうです。講演会が開催されることが判明してから各所からの猛抗議が寄せられていたようです。これまで桜井誠の早稲田大学講演会、百田尚樹氏の一橋大学講演会などを全く同じ手法で潰してきたパヨク側は当然批判は出来ませんよね?因果は巡る...》

 何やら報復の連鎖といった嫌な予感がする。前述した映画『ザ・コーヴ』上映中止騒動では、当初、抗議する側がネットなどを使って行動を起こした途端にめんどうなことを恐れて映画館や大学が次々と上映中止に踏み切ったため、それに味をしめて攻撃が明らかにエスカレートしていったことだ。戦果があると思えれば攻撃する側は勢いづくのだ。
 気になるのは、報道を見る限り、今回の講演会を中止した社会福祉協議会があまりにも簡単に中止を決めてしまった印象が否めないことだ。もちろん担当者に心労があったのは確かだろうが、これまでの講演会中止や上映中止事件の経緯を知っていれば、ここで踏ん張らなければいけないという気持ちももう少し持てたような気がする。

 ちなみに2010年6月9日、映画館が次々と『ザ・コーヴ』の上映中止に踏み切ったために、結果的に『創』が全国初の上映会を行うことになってしまった時には、会場となったなかのゼロホール周辺には、多数のパトカーや警察が警戒にあたるという騒然とした状況だった。上映中止問題を議論する上映会とシンポジウムが中止というのでは全くシャレにならないので、どんな事態になっても中止はしないと決めていた。会場に在特会メンバーなどが入ってくることは予想できたので、武器になりそうな自動販売機の缶やペットボトルは全部事前に撤去した。

 そういう騒動については『創』などでさんざん書いてきたから、ここで繰り返すつもりはない。ただ触れておきたいのは、その緊迫した上映会にサプライズゲストとして登壇してもらった映画『ザ・コーヴ』の主人公が会場で発言した内容だ。警備態勢をとりながら司会も務めていたせいで、私も事前打ち合わせなどできなかったのだが、彼が手書きのパネルを持っていたのは舞台裏で目にしていた。そして彼は壇上に立ってそれを会場に掲げたのだが、何と日本国憲法21条の条文が書かれていたのだ。映画『ザ・コーヴ』の内容についての評価はいろいろあるし、私も賛同してはいないのだが、上映自体が封殺されるという事態に、彼は、日本国憲法の言論表現の自由の条文を掲げてみせたのだった。

 私は隣で司会していて、恥ずかしいという気持ちにとらわれた。憲法はまさに「不断の努力」によって実現せねばならないものだが、その憲法の説明を外国人にされるという事態は日本人として本当に恥ずかしいと思った。

 この一文を終えるにあたって、百田さんのこの間の抗議内容についてもうひとつ言及しておきたい。百田さんが手記でこう書いているのを見た時には、思わずのけぞった。

《恐ろしいのは、ARICは自分たちが「差別主義者」と認定した人物は、発言を封じて構わないと考えていることです。そこにはヴォルテールの有名な言葉、「私はあなたの意見には反対だ、だがあなたがそれを主張する権利は命をかけて守る」という精神はどこにもありません。》

 このヴォルテールの言葉をまさか百田さんから聞かされるとは思わなかった。というのも、百田さんはこれまで、朝日新聞バッシング事件の時や、2015年の「沖縄の2紙は潰さなあかん」発言に見られるように、対立する言論を「潰せ」と言ってきた人だ。後になっていやあれは冗談だよと言ったりもするのだが、気に入らない言論に抗議ないし批判するということと、それを潰せということの違いは、この問題の重要なポイントだ。批判するのは自由だが、潰せと言ってはいけない。それを言ったのが先のヴォルテールの言葉だ。でも百田さんは残念ながら、いろいろな局面で、批判するだけでなく潰せと言っているとしか思えないような発言を、これまでしてきている(それと再度言うが、ヘイトスピーチについては犯罪だとして、上記の言論のルールは適用されないことになっている)。

 抗議することと講演会を潰せということの違いをきちんと認識しないと、講演会の中止や自粛は今後どんどん拡大する恐れがある。安倍政権のもとで「忖度」が日本を支配し、権力ある者に逆らっていると見られないようにしようとの心理が社会を覆っている。そんな状況があるからこそ、今回のふたつの講演会中止事件には、深刻な思いを感じざるをえないのだ。 (月刊「創」編集長・篠田博之)

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