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最低賃金は雇用を破壊するか

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 最低賃金の引き上げは低賃金労働者の所得増につながり、彼らの生活を改善させると一般に論じられることが多いが、必ずしも、ことはそう単純とは限らない。現在の賃金が労働者の能力に見合った形で支払われている場合、最低賃金を引き上げると企業は利益を得られなくなってしまうため、企業はより少ない労働者を雇うか、一人あたり労働時間を少なくすることで対応するからだ。こうした状況は、企業が労働者をめぐって少しでも高い賃金を提示し、労働者を引きつけようとしている際に当てはまる*1

 一方、企業が労働者の能力を下回る賃金しか支払っていないような場合は話が変わってくる。雇用主の数が少ない小さな町を想像してほしい。この町では働き口が少ないため、雇用主が能力に見合っていない低い賃金を提示しても泣く泣くそれを受け入れざるを得ない。*2 この場合、雇用主は賃金相場が上昇しないよう、なるべく人を雇わないことで利益をあげようとする。しかし最低賃金が引き上げられると、何人雇おうともその最低賃金を支払わねばならないため、賃金相場は上昇しない。このとき雇用主はこれまでよりも多くの労働者を雇うことで利益をあげようとする。

 このように最低賃金導入前の労働市場の状況によって、最低賃金の引き上げは雇用を増やしも減らしもする。その経済理論的な背景は上に書いたとおりだが、見ての通りなかなかややこしいので、川口大司氏の論考大竹文雄氏の論文も参考にしてほしい。

 理屈はともかく実際のところはどうなのか気になると思うが、実証的にもなかなか決着のついていない論点である。私も近年の論文を何本か読んだが、かなり細かい話に入り込んでいて専門家といえども話についていくのがなかなかしんどかった。とはいえ、これまでの最低賃金の引き上げは(大きくは)雇用に影響を与えなかったというのがひとつのコンセンサスになりつつあるように見えた。

 そんな中、最低賃金に関する興味深い論文が2本立て続けに発表されたとMarginal Revolutionというブログが伝えている。

デンマークでは18歳になると最低賃金が4割上昇

 一本目の論文は、デンマークの分析だ。デンマークでは18歳になると最低賃金が4割引き上げられるが、18歳になった途端、雇用率が激減していることを発見した。

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 左のグラフは年齢(横軸)とともに賃金(縦軸)がどのように変化するのかを示している。18歳になった途端(0のところ)賃金がジャンプしているのがわかる。右のグラフは年齢(横軸)と雇用率(縦軸)の変化を示してる。これを見ると18歳になった途端、雇用率が急落していることがわかる。

 このグラフを見れば、デンマークの18歳時点での最低賃金の引き上げは雇用を激減させていることは一目瞭然である。最低賃金についての分析でこんなにきれいに結果を出した論文を知らなかったので、初めて見たときには、これは最低賃金研究にとって大きな前進だ!と思ったけれども、そこまで大きなインパクトは無いだろう。

 18歳の最低賃金が上がるために彼らを雇うことをやめた企業はどのように対応したのだろうか。おそらく17歳の労働者の雇用を増やしたはずである。両者は質的に似通っており、容易に代替可能だ。しかし、最低賃金の引き上げが18歳以上だけでなく、労働市場全体に適用された場合にはどうだろうか。この場合、17歳の労働者の賃金も同様に高いのであるから、おそらく代替は起こらず、上のグラフで見られるような雇用の急落は起こらないであろう。

 多くの人々が知りたいのは、労働市場全体に適用される最低賃金の引き上げが雇用にどのような影響をおよぼすのかであって、年齢別最低賃金の効果ではない。このデンマークの事例の分析は美しいけれども、最低賃金論争に決着を着けるようなものではない。

シアトルにおける最低賃金引き上げ

 もう一つ紹介されていたのはシアトル市における最低賃金の引き上げを取り上げた論文だ。シアトル市で2015年から16年にかけて最低賃金を時給$11から$13に上げた結果、低賃金労働者の労働時間を9%減らした。おそらくこれは労働者が自主的に労働時間を減らしたのではなく、企業が雇用量を減らしたためだと思われる。低賃金労働者は自らの賃金が上がった場合、余暇時間を増やすよりも労働時間を増やして所得を増やしたがるためである。企業が労働者の働く時間を減らした結果、彼らの月収は$125減少したらしい。

marginalrevolution.com

 これまでの研究に比べてより正確な賃金と労働時間のデータが取れていることが主な利点で、その他にも統計分析上の工夫がなされているようだ。が、やはりだいぶ細かい話に入り込んでいて、とてもここで書ききれるような話ではない。おそらくはこの論文に対しても、今後様々な批判が加えられていくのであろう。最低賃金論争に決着がつくのはまだまだ先の話になりそうである。

*1:経済学の用語で言うと、労働市場が「完全競争的」である場合だ。

*2:労働市場が「買手独占的」である場合だ。

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