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キリスト教のアメリカ(1)

 トランプ大統領誕生の背景は何か?アメリカのキリスト教が、その1つである。

 私の履歴欄には1年半以上の長期留学(フランス、スイス)のみを記し、その体験はいろんな機会に語ってきた。しかし、その他の国にも行く機会があり、とくにアメリカは私の思索に多くの影響を与えている。人生の大きな決断は、ほとんどアメリカ滞在中に行っている。

 日本とヨーロッパという伝統社会からアメリカに渡った私は、トクヴィルが『アメリカのデモクラシー』を書いたときのような気分で、大きなカルチャーショックを受けたものである。

 東大助教授時代の30代前半にインディアナ州の大学に招かれて政治学の授業をしたときのことを、今も鮮明に記憶している。バプテスト教会に属するキャンパスの瀟洒なゲストハウスに泊まったが、「神が日本から友人を派遣してくれた」と大歓迎で、同僚教授たちと、お祈りの後、質素な、しかし楽しい夕餉の時間を持った。

 夕食後、寝室に移動したときに、私は、世話係の学生に「お部屋の鍵はありますか」と尋ねてしまった。「神が守って下さっているこの町に、他人のものを盗んだり、危害を加える人はいません。鍵など必要ないのです」と微笑みの答えが返ってきた。穴があったら入りたいくらいに、恥ずかしい思いで一杯であった。

 政治学の授業の後は、講堂に全学生が移動して、学生たちが聖書に記されたシーンを寸劇で再現する。キリスト教の理念が、生活にも教育にも生きている。

 その当時は、キャラバンのように幾つかの大学を移動しながら授業をしていったが、学生が自分の車で私を次のキャンパスに送ってくれる。私の大きなスーツケースを積んで駐車場に置いてある車ももちろん施錠をしない。ニューヨーク、ワシントンDC、シカゴ、サンフランシスコのような大都市とは違うアメリカがそこにはある。

 そのようなアメリカを知らなければ、トランプ現象は理解できないであろう。

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