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【赤木智弘の眼光紙背】一億総モンスター時代の考え方

社会問題にはさまざまなキーワードがあるが、そのうちの1つに「モンスター」がある。
「〇〇がモンスター化している」という言説はかつては90年代に少年犯罪が盛んに報じられるなかで「モンスター化する少年たちの恐怖」という文脈で使われていたと記憶している。
ところが今では、教師に理不尽な要求をつきつけるモンスターペアレント(両親)、意志や看護士に対して病気がよくならないことに対する当てこすりや、診療料金を支払わないモンスターペイシェント(患者)などにも使われるようになっている。
そのようなモンスターがはびこる社会を憂いて、「この国は一体どうなってしまったのか」などと嘆く人も多いのだが、そのような単純化は少し考えものである。

まず少年犯罪の文脈で使われていた「少年たちのモンスター化」でのモンスターというのは、少年による凶悪犯罪に対して使われていた言葉である。言葉が適用されたのは、殺人や強盗といった、私たちの生命そのものに関わりかねないクリティカルな範囲に限られていた。
しかし、昨今使われるモンスターの適用は「クレームをつける」「無理な要求をする」「わがままを言う」といった、生命の問題に関わらないものに変質している。
かつて少年犯罪をモンスターと呼んだ頃は、人殺しでもしない限りは人間であったものが、昨今ではクレームや要求を通そうとするだけでモンスター、すなわち人間扱いされなくなったのだ。

では、なぜ「モンスター」という言葉は変質したのだろうか?

1つは「徹底的な社会の道徳化欲求」の発露であると考えることもできる。
つまり、凶悪犯罪の報道が増えたことにより、体感治安の悪化に代表される社会不安が醸成され、他人の逸脱した行動に対して不安を感じるようになり、他者に対して過剰な道徳的行動を求めてしまい、それに従わぬ者をモンスターであると捉える。という考え方だ。まぁ、スタンダードな考え方だろう。

で、私としてはもう1つ示しておきたいのが「単なるやっかみ」という考え方である。
もちろん現場レベルでは、実際に理不尽な要求を受けているという事情があるのは承知しているが、その一方でその問題が社会問題化する、すなわち教職や医療現場にいない人間がその問題を考えるときに真っ先にでてくるのは、「教師や医者も大変だな」という理不尽な要求そのものに対する問題意識ではなく、「ゴネて得をしている人間がいる」という、単純なやっかみではないかと思うのだ。
モンスターペアレントは、自分の子供だけを優先させようとする両親に対するやっかみ、モンスターペイシェントは治療費を踏み倒したりすることに対するやっかむ。
例えば道路特定財源の問題なんかも、制度的な問題そのものよりも国土交通省の人間が道路特定財源でマッサージチェアを買っただの、アロマグッズを買っただのといった、小さな問題ばかりがクローズアップされがちなのも、やっかみであると考えれば納得がいく。

やっかみが面倒なのは、極めてシンプルな心情だけに解消のしようがないということである。
やっかみは満ち足りない社会に当然のようにもぐりこみ、名も知らぬ豊かで幸せな他人と、自分小さな不平不満を見比べ、「私は不幸である。正当に扱われていない」と囁く。
そして満ちたりぬ人間が要求する正当性は、要求される人間や要求している様をみる他人の目には「モンスター」となって映る。

私の目から見れば、幸せな家族をもって、500万ぐらいの年収を得ながら、労働争議でベースアップを叫ぶ連中は、まさしくモンスターである。
近くに火葬場や刑務所出所社の厚生施設ができると聞いて、反対運動をくりひろげるような連中だって、地域エゴの固まりのモンスターである。
会社の業績は上がり、自らは大量の役員報酬を得ながら、グローバル社会を前に会社の体力うんぬんと、労働者の給料に還元しない権利を振りかざす経営者もモンスターである。
さらにひどいのになると、自分がフリーターであるために収入が少なく、家族を持つことすらできないからといって、戦争が起きて多くの人間が死んでくれればいいなどと論壇誌で主張する者までいるという。これもまさしくモンスターである。
そう考えていくと、もはやこの世界で生きてなんらかの主張をする人間は、全員モンスターということになる。

つまるところ、人々のモンスター化を懸念する言説というのは、その実は「現状に対してなんら不平不満をもつことに対する嫌悪感」なのではないかと、私は考えている。それは大きく捉えれば「道徳化欲求」ではあるのだけれど、その主因はマスメディアに先導される体感治安の悪化よりも、各自のやっかみという素朴な心情の方が大きいように思う。

じゃあ、そのような社会で私たちはどうするべきなのか。
いかなる格差にも不平不満を押さえ込んで、皆が道徳的に生きる社会なんてのは愚の骨頂である。人間が人間であるかぎり、他人が幸福で自分が不幸な人生など、耐えられるはずがない。必ずどこかで破綻する。
では、みんながみんな不平不満を口にし、欲求をくり返すような社会がいいのか?
それはそれで欲求の通し方がうまい人間を救うのみの社会であり、実態としてはメリトクラシー(能力至上主義)となにも変わりはしないだろう。
ならば、目指すべきは道徳的に生活しながらも、主張するべきは主張する社会なのだろうが、それが前者の2つと明確に違うということではなく、単なる程度の問題にすぎない。
程度の問題であるならば、各自が自らの中に巣くうモンスターや、やっかみの心を、それこそ「ある程度」抑えこんで生活していくしかない。無茶な要求をする人間は少し主張を抑え、無茶な要求する人間を批判する人間は、すこしは相手の心情を慮る必要があるのだろう。

ここまでごちゃごちゃやっておいて、結局そんな玉虫色の答えしかないのかと呆れられるかもしれないが、こうした問題において「限界」をおおざっぱにでも捉えておくことは大切である。つまり「モンスター化」という問題が、誰もが望むような明確な解決が望めないものであるとわかっていれば、必要以上の力をつかう必要なんかないことは明白になる。
モンスター化のように人々の困った行動にレッテルを貼って「どうにかしよう」と考えるのは、それをどうにかできると思い込んでいるからだ。
では、どうにもしないで、モンスターの欲求を社会は受け入れ続けろというのか?
別に私はそういうつもりはない。モンスターの襲撃をうける人たちにとっても、モンスターの理不尽な要求がそもそもどうにもできないものだと分かっていれば、それを無視することだってできるのだ。

私たちは今の社会の諸問題を、あまりに「解決できるもの」として考えすぎていないだろうか?
世の中には解決できない問題はいっぱいあるし、私たちはそうした問題から逃げ出してもいいのだ。
そして不平不満を抱えながらも、別のものに満足を感じて生きていければ、本当はそれで十分なのではないだろうか。
もっとも、お金の問題だけは、そうはいかないのだけれど。


赤木智弘(あかぎ・ともひろ)…1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。近著:「若者を見殺しにする国 私を戦争に向かわせるものは何か

眼光紙背[がんこうしはい]とは:
「眼光紙背に徹する」で、行間にひそむ深い意味までよく理解すること。
本コラムは、livedoor ニュースが選んだ気鋭の寄稿者が、ユーザが生活や仕事の中で直面する様々な課題に対し、「気付き」となるような情報を提供し、世の中に溢れるニュースの行間を読んで行くシリーズ。

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