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  • MIAU
  • 2008年03月17日 11:00

【MiAUの眼光紙背】同人音楽を知っていますか?

「同人」という文化があります。オタク系文化を背景としたアマチュア的な自主制作作品/コンテンツと、そういった作品を主に取り扱う自主流通が複合したシステムです。MIAUの守備範囲ではしばしば「二次創作」つまり既存の原作を元にした作品の著作権問題が語られますが、実際にはオリジナルのもの(=既存作品の権利が関係しないもの)も決して珍しくはありません。

昔は紙による作品(いわゆる「同人誌」が中心になります)が主流だったのですが、今はそれに加えてメディア作品も一定の地位を獲得しています。メディア作品の代表的なタイトルとしては、ゲームですと「月姫」「東方紅魔郷」「花帰葬」、音楽では「東方乙女囃子」「Chronicle 2nd」などが挙げられます。……もちろん数え切れないほどのタイトルが他にありますが、紹介には執筆者の趣味も入っています。

さて。先ほどいくつかのタイトルを挙げましたが、音楽で創られた同人作品が実はかなりの量存在しています。さらに、権利問題が発生しないオリジナル作品の創作者の場合はメジャーレーベルへの所属を果たすケースも続々と出てきています。いまや、新しい音楽文化だったはずの同人音楽にはメジャーレーベルへの一つの登竜門としての地位さえ獲得したと言うことができるでしょう。

こんな旺盛な・そして新しい音楽文化が、実は「同人」の影に隠れていたのです。

さて。

こんな独特の文化をめぐって、学術的に大まじめに考えようという研究会「同人音楽研究会」が大阪市立大にて先日(2008/3/10)開催されました。さまざまな発表がありましたが、そのうち1つの発表を掘り下げてご紹介。

初心者による音楽創作は、決して生やさしいものではありません。たとえばVOCALOID「初音ミク」は、多くの創作者に「声」の可能性を提供しました。経験の少ない初心者にとっては、あえて歌手への依頼に踏み切らなくてもたった15,000円弱で「初音ミク」を買ってくればボーカル曲を創作できるという形で「声による創作」そのものが提供されることになりました。

しかし、可能性だけ与えられてもそれだけで創作できるものではないのは当たり前で、特に「初音ミク」の場合は「単に歌わせる」ところまでの敷居は下がりましたが、元々「良いものを創る」ことのハードルは決して低いものではありません。そこで、今回の同人音楽研究会では、「遺伝的アルゴリズムに類似した手法を用いて、音楽それ自体を自動生成させる」というコンセプトに関する発表がありました。提案された手段を使えば、GarageBandよりも遙かに広大な「音楽の可能性」を自動生成させることができそうです。そうすることで、「音楽を一から創る」ことができなくても「良い音楽と悪い音楽を聞きわける」ことさえできれば創作段階自体はかなりの部分まで情報技術に任せることができます。

この発表を、MIAUの立場から見てみましょう。

新しい創作のためのツールが生まれることで新しい創作文化の可能性が見えてきたケースは過去にも多数ありましたが、同人音楽もその好例と言うことができます。具体的に見ますと、20世紀末から21世紀に起きた「PCの性能向上と低廉化」「CD-Rの普及」が同人音楽の草創期を生み出し(JASRACによる個人サイトMIDIへの課金が始まる以前の話です)、2007年にはVocaloidの発言で「歌」自体が低廉化したことによる再度のDTMブームが起きています。

今回の発表は、さらに「音楽創作」のプロセスの一部を自動化してきわめて容易にすることで、初心者による「音楽創作」への敷居を遙かに引き下げる効果があるでしょう。

思い直してみてください。MIAUは、法的に表現の可能性を抑制することが決してプラスではないという意識をひとつの出発点にしていました。その観点から見ると、以前手がけたパブコメは、表現に課される規制の強化に反対するものと言うことができます。

表現規制強化に反対することもある文化を守ることに繋がりますが、実は表現の新しい可能性を創ることも文化の拡大に役立つのではないでしょうか。どのような文化でも、可能性が広がることは喜ばしいことですし、新しい可能性にはとても面白い作品の芽が眠っているかもしれません。

同人音楽研究会では、「文化の可能性」が未来に開かれている風景を目の当たりにすることができました。文化の可能性を「狭めない」だけではなく積極的に広げることにも、MIAUの守備領域として無視できるものではありません。
(北島哲郎)


プロフィール:
MiAU 2007年設立。ネット上の世論を集約し、政策提言などを行う団体。著作権法関連の動きについて、ネットユーザが意見表明するためのサポートを行っていくことを目的として設立された。
公式サイト:MiAU

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本コラムは、livedoor ニュースが選んだ気鋭の寄稿者が、ユーザが生活や仕事の中で直面する様々な課題に対し、「気付き」となるような情報を提供し、世の中に溢れるニュースの行間を読んで行くシリーズ。バックナンバー一覧

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