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【赤木智弘の眼光紙背】第8回:流行は常にアサヒられている

 「株式会社はてな」は、11月14日の「はてなダイアリー日記」の中で、『現代用語の基礎知識』(自由国民社)の2008年度版に掲載される「はてなキーワード」を発表した。(*1)
 そのなかで、私は「アサヒる」という言葉に注目したい。

 「アサヒる」の出自は、安倍晋三前首相による突然の辞任劇の翌日、9月25日付けの朝日新聞の中で、コラムニストの石原壮一郎氏が「『アタシ、もうアベしちゃおうかな』という言葉があちこちで聞こえる。(中略)そんな大人げない流行語を首相が作ってしまったのがカナシイ」と、コメントを出したことに始まる。
 これに対しネット上では「聞いたことがない」「検索しても出てこない」などと、「流行している」という記事の内容と、ユーザーの実感に大きな齟齬が発生した。
 また、これを報じたのが、ネット界隈で特に嫌われている朝日新聞とあって、「アベするなんて言葉は捏造だ」「じゃあ、捏造することを「アサヒる」と呼ぼうぜ」と盛り上がり、この言葉が流行した。
 しかし、私は「流行」という言葉を、単純に「世間で流通している」という意味に取るべきではないと考える。

 皆さんは「インターカラー(国際流行色委員会)」という存在をご存じだろうか?
 この団体では、実シーズンの2年前に、トレンドカラーを選定して、それをまた各国の団体が自国に合わせた形で調整し、業界に流行色情報を提供している。
 業界では、それを参考にしながら、シーズン前にコンセプトなどを決定し、ファッション誌などのメディアと連携して流行を作り出しているのである。

 さて、ここでの「流行」が、完全に「アサヒられて」いることにお気づきだろうか?
一般では流行していない色が、インターカラーによって、2年も前に捏造されているのだ。
 ファッション業界における流行は、常に上位から下位に対する「トップダウン型」の「提案」として機能している。そしてその末端である私たちは、常に上位から「流行を提案」されている。
 そして私たちがファッション誌などを参考にコーディネートを決定する結果、あらかじめ捏造された流行色は、現実として流行することになる。
 単純に「流行などしていないものが流行として報じられた」ことを「アサヒる」というなら、流行の多くは「アサヒられている」のである。

 では、問題になった記事は無罪放免かと言えば、そんなことはない。
 報道業界において、私たちは「流行」という言葉を「一般で流通して、それが報道側に伝わり、報じられる」という「ボトムアップ型」として理解している。ニュースはあくまでも既に起ったことを報じるものだからだ。
 一方、報じられたものに対する「意見」というのは、論者の考え方を読者に提案するトップダウン型である。今回の石原壮一郎氏のコメントも提案である。
 ところが、問題の記事では、トップダウンであるはずの意見が、さも「世間の人たちがこう言ってますよ、安倍さん」という現実を元にしたボトムアップと読めてしまう。その点が、私にはとてもこすっからく感じるし、ネットユーザーからは「流行ってないだろ」と批判された部分である。
 突然の辞任劇で、局もドタバタしていたのだろうが、記者として記事を書く以上は、報じているものが「事実から生じたニュース」なのか「コメンテーター個人の意見」なのかぐらいは丁寧に区分けするべきであるし、コメントを出す側も考慮するべきである。
 全ての記事を書く人やコメントを出す立場にある人は、この件を「ネットの吹き上がり」などと考えるのではなく、他山の石とするべきである。もちろん、かくいう私もだ。

*1:http://d.hatena.ne.jp/hatenadiary/20071114/1195018275


プロフィール:
赤木智弘(あかぎ・ともひろ)…1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。近著:「若者を見殺しにする国 私を戦争に向かわせるものは何か

眼光紙背[がんこうしはい]とは:
「眼光紙背に徹する」で、行間にひそむ深い意味までよく理解すること。
本コラムは、livedoor ニュースが選んだ気鋭の寄稿者が、ユーザが生活や仕事の中で直面する様々な課題に対し、「気付き」となるような情報を提供し、世の中に溢れるニュースの行間を読んで行くシリーズ。

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