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【赤木智弘の眼光紙背】第4回:亀田という「家族」

 亀田一家が問題になっている。
 私も便乗してこのことを問題にしたいと思うのだけれども、これまで散々亀田一家を讃美しておきながら、唐突に手のひらをひっくり返したマスコミと同じような、みっともない批判をしても意味がない。だから別の視点でこの問題を考えてみたい。

 現状、これだけ亀田一家的なものが批判されている一方で、私が見た限りでは、決して批判されていない亀田一家を構成している要素がある。それは彼らが「家族」であるという点だ。
 亀田一家の暴言や見苦しさは、決して今回の内藤戦で初めて露呈したわけではない。挑発的な言動や日本人選手との試合を避けたマッチメイクは当たり前だったし、2006年9月27日におこなわれた大殻選手の試合では、父の史郎氏が、批判した観客に激怒し、飛びかかろうとするようなこともあった。
 それでも世間が亀田一家を徹底的に批難できなかったのは、彼らのバックストーリーとして、父親が子供を世界チャンピオンにしようと夢を託し、子供も父親の期待に答えようと必死に練習をする姿というものがあったからである。世間はこれを望ましい家族のありようとして受け入れたし、また受け入れる土壌があったからこそ、早いうちからTBSなどの一部マスコミは、彼らの生活に密着して取材をしていたのである。

 しかし、私はそのような家族関係を決して好ましい形態であるとは思わないし、こうした閉鎖的な家族関係にこそ、今回の問題の最大要因があると考えている。
 それは、現在の日本社会では「家族のためなら、なにをやっていい」という基本的合意が形成されつつあるのではないかということだ。

 今回、亀田一家は、「家族のため」に他者を貶め、反則行為まで行なった。
 また、昨今「自分の子供をえこひいきしろ」というようなとんでもない要求を学校教師に対して行なう親が増えていると報じられていが、これも「家族のため」である。
 他にも、「子供が危険に晒される事件が増えている」などと主張して、通学にバスを出すことを要求したり、人を配置して、他人に対して疑いを目を向けるようなことも「家族のため」として肯定される。(子供が路上で見知らぬ他人に危害を加えられる事件が、昔と比べて増えてなどいないのは、心ある学者の間では、もはや常識である)
 そう考えていけば、今回の問題が、決して亀田一家特有の問題ではなく、「家族の暴走」という社会全体の問題であることが見えてくる。
 家族の暴走を社会が許し、家族は暴走の権利を求める。そのような「家族のためなら、なにをやっていい」社会では、個人は家族の構成要素としてしかみなされず、人同士の関係性は家族や親族という自明のものばかりになり、他者との対話や協調の必要性は薄れてしまう。それは、血筋や地縁といった固有の格差から脱却し、経済や個人の自由を追求してきた近代社会の敗北ではなかろうか。

 この問題は、決して亀田家個人の問題ではない。
 社会において、どのような人間関係を好ましいと考えるべきかという、社会そのものに直結する問題ではないかと、私は考えている。


プロフィール:
赤木智弘(あかぎ・ともひろ)…1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。

眼光紙背[がんこうしはい]とは:
「眼光紙背に徹する」で、行間にひそむ深い意味までよく理解すること。
本コラムは、livedoor ニュースが選んだ気鋭の寄稿者が、ユーザが生活や仕事の中で直面する様々な課題に対し、「気付き」となるような情報を提供し、世の中に溢れるニュースの行間を読んで行くシリーズ。

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