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 特集:マンネリ気味の日本経済論

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●輸出増加がもたらす生産の増加

今回の景気回復局面において、もう一つ重要な役割を果たしているのが輸出である。以下は6月の月例経済報告から、「地域別輸出入数量指数」を切り貼りしたもの3



2012年後半以降の円安局面では、「もはや円安になっても日本の輸出は伸びない」ことが何度も指摘されてきた。数量指数を見る限り実際にその通りであった。しかし昨年後半からは、着実に増加していることが見て取れる。金額ベースで見ても、輸出は5カ月連続で増加を続けている(前年同月比、季節調整値)。

この間、為替は1ドル110円を挟む展開であった。つまり、貿易に対する為替の影響力は小さくなっている。それでも海外経済が回復し、「外需が増えれば輸出は増える」という当たり前のことが確認できたと言える。

海外の好調さは、①中国経済が昨年後半から持ち直している、②シリコンサイクルが上向き、電子製品関連が伸びている、③石油などの資源価格が底入れした、という3点に支えられている。依然として水準が高いわけではないけれども、世界経済は2016年に大底を打って回復過程にあるように見える。

好調な輸出は国内生産を加速している。業種別の鉱工業生産(次ページ)を見ると4、今年春頃から電子部品・デバイス、輸送機械、汎用・生産用・業務用機械のいずれも高い伸びを示していることが分かる。



ただしこの調子がずっと続くかというと、若干の留保が必要であろう。「中国、半導体、資源」の3点セットは磐石というわけではない。①中国は今年夏以降も6.5%以上の成長を目指そうと思ったら、昨年以上の投資を行わなければならない。その場合、財政は確実に悪化する。それを見越したかのように、ムーディーズは先月、中国の国債を格下げして「A1」とした。②今は自動車、家電などへの半導体使用量が順調に増えているけれども、シリコンサイクルはいずれどこかの時点で調整に向かうだろう。③5月に行われたOPEC総会は「減産の9カ月延長」を決めたが、その直後に石油価格は反落している。OPECの減産分は米国シェールの増産で打ち消されてしまう。

もう一点、今後は国内の人手不足が輸出余力を制限する可能性もある。なにしろ4月の有効求人倍率は1.48倍と1974年2月以来の高さ。懸案とされてきた正社員の有効求人倍率も、4月には0.97倍と1に迫っている。この間、高齢者や女性の就業率は増加している。 ということで、足元の好調さは信頼できるものの、これが来年以降も続くかと言えば、そこはやや不安が残る、というのが全体観ではないかと思う。

●グローバル化は日本経済の追い風

最近の景気を語る際に、かならず出てくる話題のひとつが「インバウンド」である。今週発表された5月の訪日外国人客数は前年比21.2%増の229.5万人であった。昨年の熊本地震で失われた分を取り戻した形である。

これで1~5月の累計は1141.1万人と前年比17.3%増となった。2016年の実績が2403.9万人であるから、今年は2800万人台には届きそうな感じ。東日本震災があった2011年の実績が621.9万人であるから、まことに隔世の感がある。

確かに今やどの地方都市に行っても、外国人観光客を見かけないことはない。あるいは「当県で力を入れている分野は?」と尋ねると、昨今はしばしば「観光と農業」という答えが返ってくる。以前は「端パイ扱い」されていたツーリズムが、今では産業政策の中心に位置づけられているのだから様変わりと言える。 6

なにしろ日本は人口減少社会であるから、外からの需要を積極的に取り込んでいかなければならない。そういう意味でインバウンドの活況は貴重な機会と言えるのだが、ひとつ間違えば「外国人嫌い」や文化摩擦を誘発しかねない。それでも今のところは、「外国人観光客」は全国各地でポジティブに受け止められているようである。

実は日本で生活している外国人も急速に増えている。今週、総務省統計局が発表した人口推計によれば5、今年1月1日時点の総人口確定値は1億2682万人(前年同月比▲20.6万人)である。ところがこれは外国人を含んだ数値であり、「日本人人口」は1億2501万人(同▲32万人)である6その差、約180万人が日本で暮らす外国人ということになる。総人口ではわずか1.4%に過ぎないが、「ずいぶん増えたな」という気もする。 「移民」という言葉は、政策論議ではほとんどタブー視されているけれども、実態はどんどん進行しているのではないか。いかにも「日本的」なやり方と言えるだろう。

●5年目のアベノミクスに必要なこと

以上のように、日本経済にはいくつもの変化が生じつつある。「雇用情勢は改善しても賃上げが遅れている」とか、「物価がほとんど上昇しない」などのお馴染みの論点はあるけれども、総じて言えばプラス方向である。

ただし、経済政策をめぐる論議はかなりマンネリ気味である。日銀の出口戦略はもちろんのこと、財政再建は先送りであり、成長戦略は毎年の恒例行事となってしまい、いかにも「小粒」なものが多くなった。昨今かまびすしい「働き方改革」も、理想論と現実の間で堂々巡りをしている印象がある。

考えてみれば、「期待に働きかける政策」であるアベノミクスは既に5年目に突入している。「新しいキーワード」を打ち出すことはできても、「新しい期待」を盛り上げることは容易ではあるまい。安倍首相は今回、「人づくり」と言っているけれども、「一億総活躍」や「女性活躍社会」のときのように、あまり心に響かないように思える。少なくとも黒田総裁が登場して、「2年で2%」と言ったときのような驚きはない。そしてその手はもう使えない。むしろ金融政策は仕切り直しが必要で、それは今秋にも明らかになる「ポスト黒田」の仕事となるのではないか。

新機軸を打ち出せないのだとしたら、現在の「緩やかな回復基調」を辛抱強く続けていくほかはない。その上でいちばん重要なのは、「グローバル化という追い風を止めない」ことであろう。輸出でもインバウンドでも、海外経済の好調さは間違いなく日本経済にプラス効果をもたらしている。間違ってもマンネリズムを恐れて、「日本版トランプ」を登場させてはならないのである。

1 「シニアは消費者の半分以上だった」(Economic Trends 第一生命経済研究所)
2 『金融ジェロントロジー』(清家篤編/東洋経済新報社)を参照。
3 http://www5.cao.go.jp/keizai3/getsurei/2017/06shihyou/shihyou1-6.pdf
4 http://www5.cao.go.jp/keizai3/getsurei/2017/06shihyou/shihyou1-7.pdf
5 http://www.stat.go.jp/data/jinsui/new.htm
6 「1.25億人」の大台を間もなく割り込みそうである。

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