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【佐藤優の眼光紙背】第2回:プーチン大統領のユーラシア共栄

 ロシアでは、今年12月に国家院(下院)選挙、来年3月に大統領選挙が予定されている。この政治日程をにらんで、虚々実々の駆け引きが行われている。ロシア憲法では、大統領の任期は4年で、同一人物が連続して3回大統領に選出されることは禁止されている。一部にプーチン大統領が憲法を改正して、大統領3選に立候補するとか、ロシアとベラルーシが国家連合を形成し、その国家連合の大統領にプーチンが就任するという憶測がなされたが、その可能性はない。プーチンは、「法の独裁」を唱えて、自らの権力基盤を強化した。現行ロシア憲法では、大統領に強大な権限が付与されている。独裁者が生じないようにするために、同一人物が大統領に3期以上就任しないようにするとの憲法の歯止めは、国家の正統性を基礎づける重要事項で、それを変更した場合、国民世論が急速にプーチン離れを起こす。プーチン自身がそのことをよく知っている。ロシア政治専門家を看板に掲げてもロシアの事情をあまりよく知らない評論家は、プーチンは秘密警察や軍隊を使って、国民を脅しつけているので、権力の座についているのだと勘違いしている。

 例えば、袴田茂樹青山学院大学教授は、<「主権民主主義」とは、アフガニスタンやイラクでの政権崩壊だけでなく、グルジア、ウクライナ、キルギスなどソ連から独立した諸国の政権崩壊の背後にも欧米の干渉や陰謀があると疑い、米国による「民主主義の輸出」に危機意識を強めたロシアが内政干渉はさせないとの決意を滲ませた概念である。それは、ロシアの独自性を強調することによって、国家統制強化や民主主義後退への外からの批判を封じる方策でもある。ネオ・スラブ主義はこの「主権民主主義」擁護の理論で、何よりもロシアの強大化と国家統制を正当化し、ロシアの独自性あるいは特殊性を強調し、強い指導者に頼る個人崇拝の心理を重んじる。>(「プーチンのロシアに妥協の意思はあるか」『中央公論』2007年10月号)と述べているが、この議論は滅茶苦茶だ。第一にプーチン大統領は、ネオ・スラブ主義などという言葉を使ったことは一度もない。ネオ・スラブ主義という運動は、19世紀から20世紀初めに確かにあった。しかし、それはロシア帝国とハプスブルグ(オーストリア・ハンガリー)帝国のスラブ系諸民族が文化交流と経済貿易関係を発展させて、両帝国間に平和を維持しようとした運動で、「主権民主主義」とは何の関係もなく、むしろまったく逆の概念だ。日本外務省は袴田教授の稚拙なアドバイスを受けて対露外交政策を構築するので、失敗ばかり繰り返しているのだ。

 ロシア人には独特の秩序感覚がある。ヨーロッパとアジアにまたがるロシアは、ユーラシア国家であって、それは自己完結した世界で、独自の発展法則をもつという考え方だ。一種の棲み分け理論である。ロシアと日本の棲み分けは可能であると筆者は見ている。EU(欧州連合)のような共同体、より正確に言うならばEUよりは、軍事色の強いあえて例をあげるならば、大東亜共栄圏のようなユーラシア共栄圏の構築をプーチンは考えている。
 プーチンは憲法を遵守して、来年3月の大統領選挙には立候補しない。しかし、一休みして2012年の大統領選挙には立候補し、連続二期、2020年まで大統領の座にとどまることを計画しているのだと筆者は見ている。それは、個人崇拝への欲望ではなく、ユーラシア共栄圏構築という戦略に基づいているのだ。(2007年10月8日脱稿)


プロフィール:
佐藤優(さとう・まさる)…1960年、東京都生まれ。作家・起訴休職外務事務官。日本の政治・外交問題について、講演・著作活動を通じ、幅広く提言を行っている。
著書に「国家の罠」(新潮社)など。


眼光紙背[がんこうしはい]とは:
「眼光紙背に徹する」で、行間にひそむ深い意味までよく理解すること。
本コラムは、livedoor ニュースが選んだ気鋭の寄稿者が、ユーザが生活や仕事の中で直面する様々な課題に対し、「気付き」となるような情報を提供し、世の中に溢れるニュースの行間を読んで行くシリーズ。

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