- 2017年06月22日 10:00
摂食障害 100人100色の『回復』 / 鈴木眞理×信田さよ子×鶴田桃エ×荻上チキ、NHKハートフォーラムシンポジウム
1/2体型への強いこだわりから陥る摂食障害。日常の報道では「痩せたい女性がなる病気」との印象が強いが、本来その原因は複雑で、患者により回復へのアプローチもさまざまだ。誤解や偏見を招く言説ではなく、正しい理解を広めたい。NHKとNHK厚生文化事業団は2016年10月2日にシンポジウムを開催。医師、臨床心理士、当事者方の話をもとに、100人100色の摂食障害との向き合い方、回復のあり方について考えた。その全容をお届けする。(構成/増田穂)
食べること、吐くことで落ち着く
荻上 摂食障害については、日々の報道や言説を通して、さまざまな誤解や偏見が流通してしまっています。こうした状況を鑑み、本日は内科医、臨床心理士、自助グループの方々をお迎えし、専門的な知識に基く意見交換の場を用意しました。根拠に基づいた議論を通じ、摂食障害への正確な理解、そして具体的な問題解決策について考える機会にしたいと思っています。
まずは、摂食障害の基本的な知識と患者支援について、政策研究大学院大学教授であり、日本摂食障害協会理事の鈴木眞理先生にご解説いただきます。鈴木さん、お願いいたします。
鈴木 よろしくお願いします。摂食障害には3つのカテゴリーがあります。1つ目は自分で抑えられない過食発作がある「過食症」。医学的には「神経性過食症」といいます。2つ目は「拒食症(医学的には「神経性やせ症」)」。病型は小食で痩せている「制限型拒食症」と、飢餓の反動で過食するようになって、それでもやせたいのでおう吐や下剤を使っている「むちゃ食い/排出型拒食症」の2種類があります。むちゃ食い排出型の拒食症と過食症は共に過食をしますが、過食症の体重は正常です。3つ目はストレスでむちゃ食いしてしまうタイプです。一般的に摂食障害は女性に多いのですが、こちらは中高年の男性に多く、男女比は1対1です。
過食症の方は対人関係に苦手意識があり、自己評価が低い方が多いです。ストレスを溜め、それが上手く発散できない傾向があります。すると嫌な気分になって、無性に何か食べたくなる。この時、脳が喜ぶ甘いもの脂っこいものを食べます。過食の最中だけ嫌なことを考えない解放感があります。
しかし、食べ終わると「太った自分には価値が無い」という歪んだ認知から、おう吐や下剤で痩せようとします。おう吐は食べて太らないだけでなく、嫌なものが出ていくような気分になり、身体だけでなく心もすっきりした気になります。しかし、おう吐による飢餓状態になり、脳は食事をするように指令を出して、再び過食します。過食やおう吐も後で嫌な気分になり、その不快感からまた過食するという悪循環に陥ります。
過食症の場合体重は正常です。動こうと思えば動けるし、脳もきちんと働きます。この状態であれば、認知行動療法や対人関係療法、抗うつ薬などで治療、対処できます。
たとえば認知行動療法は、ものの見方を変えることで行動の変化を促す治療法です。過食症患者の多くは、朝食・昼食を食べません。夜に過食するので、痩せるために昼間は制限する心理が働くんです。
ところが帰宅するとホッとして、1日の憂さを晴らすように過食してしまいます。憂さの原因は「ゼミの発表が散々だったから、教授に嫌われるだろう」といった思い込みのようなものが多い。教授はその人一人ひとりなんて覚えてないのに、気になってしょうがない。挙句ダラダラ夜中まで食べてしまったりする。
患者さんにはこうした食事の記録をつけてもらいます。記録をつけることで、一定の傾向が見て取れるようになる。試験前などストレスが溜まりやすいときは過食し、逆に友人との楽しい食事会の後は過食しないなど、自身の気分と過食の相関関係が自覚できるようになるのです。
同時に、ひと月で過食に使った金額を算出して、少しずつその金額を減らすよう提案したりします。過食はとてもお金がかかります。「辛い気持ちはお金では代えられないけど、これじゃあ経済が持たないから、少しずつ減らしていこう」といったアドバイスをします。
「回避」行動としての摂食障害
鈴木 過食症はこのようにいろいろな対応があります。一方、拒食症の方は薬が効きません。これは痩せることにより、脳内物質の分泌が阻害され、薬を飲んでも効きが悪くなるせいだと考えられています。マスコミでは歌手やモデルが拒食症で亡くなったこともとりあげられ、病気の社会的な認知のきっかけにもなりましたが、拒食症は死亡率が高い病気です。6年間の追跡調査で6~11%の患者が亡くなっています。早急に対処されなければなりません。
モデルや芸能人の方が多く亡くなっているので、「目立つ人が痩せたくてなる病気」「行き過ぎたダイエットのせい」と誤解されている部分があります。しかし、日本の普通の女子高生でも0.17~0.56%が摂食障害を抱えており、また、摂食障害を発病した時点でダイエットをしていた人は半数に過ぎません。
摂食障害になる多くの方々はストレスを抱えていました。ダイエットをしていなかった人も、無理が重なっていたときや、風邪にかかった後に食べれなくなり、それをきっかけに発病しています。摂食障害は美しくなるために起こるのではないのです。
治療後の患者さんへのアンケートからは「体重や食べることだけ考えるのは楽」「痩せてくると辛いことをあまり考えない」といった回答が見られます。言い訳ではないですが、頑張っても理想通りに出来ない自分に「病気だからしょうがないよね」と自分を許せたり、「治ったらまた頑張らなきゃいけなくて辛い」といった潜在的な意識が見て取れます。発病の原因は「回避」といわれています。ビジュアルを重視したり、ファッション性のためではなく、心を守るための行為として起こっているのです。
摂食障害を発症すると、痩せに伴う二次的な症状を持つことがわかっています。食べ物への執着や、気分の変調で、人柄まで変わってしまいます。
こうした変化については、1940年代に実験が行われています。被験者には、本来摂取するべきカロリー量の半分強のカロリーの食事しか与えず、その変化を観察しました。元は強制収容所に入れられ痩せ細ったユダヤ人の治療の参考として行われた実験です。半年続けたところで、被験者に大きな精神的変化が見られました。
たとえば、食に関することしか話さない、変な味の食事を作るようになる、イライラや抑うつ、無気力、過度な不安感が見られた被験者もいました。異性への興味がなくなったり、独りを好むようになったり、集中力、注意力、判断力なども低下し、実験後、全員が過食になりました。結果として、拒食状態が過食症を引き起こすことがわかったのです。
最近は脳科学の進歩で、拒食症の方に認識の障害が出て来ることも指摘されています。痩せ細った方が「自分は太ってる」というのですが、あれは冗談とか思い込みではなく本当にそう見えてます。
同時に、痩せているということは栄養失調状態です。これで身体の合併症がでます。低血糖で意識を失う、低カリウム血症で手に力が入らない、骨粗しょう症や月経不順による不妊症、おう吐している方だと歯が抜けてしまったり、拒食の影響で後遺症が残ったりすることもあります。
拒食に関して、厚生労働省は体重ごとに症状の指標を出しています。たとえば、標準体重の40%しか体重がない方は意識障害や運動障害が出る。55%になると、緊急入院の必要性がある。65%で免疫低下、精神的にも不安定になり、会話が困難な状況に陥ります。75%では骨粗しょう症が進行。85%以下まで体重が落ちると、月経が止まる。こうした症状を食い止めるためにも、会話が可能な初期の段階で治療を受けていただきたいです。
脂肪を嫌うお嬢さんが多いですが、脂肪はとても大切なものです。この脂肪からレプチンというホルモンが分泌され、月経の周期をつくっている。女性らしいプロポーションもこうしたホルモンの作用です。女性の壮年期の心筋梗塞による死亡率が低いのも女性ホルモンが心臓を守っているからで、骨粗しょう症の予防にも関わっています。こうしたホルモンの関係もあり、拒食症は合併症を引き起こしやすい危険な症状です。
安心して体重を上げられる環境作りを
鈴木 加えて、摂食障害は患者が治療に協力しない唯一の病気です。というのも、そもそも患者は先述の回避心理から、拒食を止めたくない心理状況にあります。ところが医者に行くと吐くなといわれる、太れといわれる。本人の望むものと全く相反することをさせられるので、当然治療には気が進みません。
摂食障害の治療では、患者との良好な関係性が重要です。はじめは治療というより、困ったことが相談できる雰囲気をつくる。本人がなりたくてなった病気ではないこと、頑張った結果なってしまったことを説明します。医療者が本人を責めたり、無理やり体重を増やしたりしないことがわかってくると、ある程度の信頼関係ができます。その後、症状を引き起こしているストレスの原因を聞いてみて、その要因を取り除いたり、対処方法を工夫するために具体的な提案をしたりしていきます。
次に、体重をあげる「動機」を一緒に見つけます。拒食症の治療は80%が「動機付け」といわれています。「入院したくない」「学校に行きたい」「仕事を続けたい」など、本人が体重増加と引き換えにしても叶えたい現実的な目的を探します。現実生活に疲れ果てていたり、現実社会に戻りたくない場合は、なかなか体重は増やせません。体重増加の動機がある場合は、安心して療養できる環境をつくる。その中で、自助グループや、家族支援、学校関係者の勉強会などが重要になってきます。周囲も含め、環境を安定させて、はじめて体の治療や、ストレス耐性力を鍛える治療、社会復帰が目指せる。
摂食障害にはなりやすい人がいます。遺伝や、人に気を使ってストレスを発散しにくい性格の人などです。また、1970年代以降この病気が増加している背景には、社会的・文化的な要因があるとされています。たとえば挫折した若い女性が、ちょっとやせると自身がもてるかも、と刷り込むような社会的文化がある。
ストレスに対応する力を「コーピングスキル」といいます。予定が狂ったときなどに、理想通りではなくても、そこそこ上手くいくように対処する能力です。摂食障害の方々はこうした状況への対処能力が高くありません。ストレスへの対処が「頑張る」か「我慢する」しかなく、うまく逃げたり人に頼ったりすることができません。みなさん真面目で善良ないい人ばかりです。ただ、真面目すぎて「〇〇すべき」というのがとても強い。治療では、こうしたストレスを増幅する思考パターンを修正していきます。10年間の追跡調査では、8割の患者さんの体重は戻っています。
日本の治療環境について
鈴木 海外には、入院型、通院型、居住型などの形態を持つ治療施設があります。入院施設は摂食障害特有の設備や規則があります。ごみ箱がない食堂で、治療者の監視があり、食事は30~45分で食べ終わり、食後1時間はトイレ禁止などです。トイレは看護師しか流せない装置が設置され、シャワー室はシースルーなどです。居住型はリゾートホテルのような場所に集団で数か月滞在し、アクティビティをしながら治療します。
ところが、日本には摂食障害を専門に治療・支援する施設はひとつもありません。そこで、治療施設の設立を目指し、摂食障害学会の有志で「摂食障害センター設立準備委員会」を立ち上げ、陳情や署名運動などをしました。2015年には国立精神・神経医療研究センターに摂食障害全国機関が創設されました。ただここは統計や政府への提言を主な目的として運営されており、治療自体は行っていません。
当初全国に10箇所程度設立される予定だった摂食障害治療支援センターは、現状では東北大学、浜松医科大学、九州大学の3箇所にしかありません。現在「摂食障害センター設立準備委員会」は「日本摂食障害協会」と名を変え、他地域での治療センター設立を目指し活動しています。今後は署名活動やロビー活動を通じて活動を拡大し、電話での相談業務や、世間の誤解を解く啓発活動も行っていきたいと思っています。
荻上 医学的視点からの病気と治療制度の概要をご説明いただきました。鈴木さん、ありがとうございます。
「アディクション」としての摂食障害
荻上 続いては、40年にわたって摂食障害の患者や家族と向き合っている、臨床心理士で原宿カウンセリングセンター所長の信田さよ子さんから、「カウンセリングから見えてきた本人と家族の関係」をテーマにお話しいただきます。
信田 私が最初に摂食障害の方と出会ったのは、70年代に民間の精神病院で働いていた時です。当時は「神経性食思不振症」と呼ばれていましたが、今でいう過食おう吐型の摂食障害の女性にお会いしました。彼女の状態自体とても驚きましたが、それよりも奇妙に思えたのが、精神科医たちの反応です。まるで上野動物園のパンダみたいに「ほら、噂の、見てきなさいよ」みたいな感じだったんです。
80年代には別の民間カウンセリング機関に勤め、摂食障害の娘を持つ母親のグループ・カウンセリングを担当しました。その機関では他にもアルコール依存患者やその家族へのグループセッションも行っていたのですが、それぞれのグループに独特の雰囲気がありました。中でも摂食障害の娘を持つ母親のグループが持つ雰囲気は、なんていうか強烈な圧力でした。「なんとしても娘を普通に戻したい」というエネルギーなのか、とにかく異様なほどでした。
摂食障害、アルコール依存、薬物乱用、自傷行為などは併発することがあります。他にも窃盗を繰り返して警察に通報されたり、問題が実に多様なので何から手をつけたらいいのかわからないことも多く、摂食障害の症状のみに焦点を絞って対処すべきなのか、複合的に考えるべきなのか、迷う事例が非常に多かったです。
心理相談活動をする上で特に気をつけていたのは、目の前で起きていること以上の解釈をしないことです。治療を行う精神科医の中にはご本人に対する治療への有益性、つまり効果より、治療者自身の立場や解釈に重きを置くような動きもあり、疑問を感じていました。私は医療の外での援助を行っていますが、ずっとそうしたことはしないよう心がけていました。
もう一つ心がけていたのは、患者が危機的な状況の時、どの医療機関に紹介すべきか把握することです。評判のいい病院を探してアンテナを張ってきました。拒食症の方は痩せが進行すると本当に危ないので、いざという時すぐに対応できるようにしています。また、カウンセラーとして、病理の程度や症状にもとづく診断は行わず、「今ここ」の問題へ対応する事に集中してきました。こうした背景を踏まえ、今日は「アディクション」としての摂食障害についてお話ししたいと思います。
「アディクション」は「依存症」や「嗜癖」と言い換えてもいいでしょう。「アディクション」にはまず、行動の悪習慣といった意味合いがあります。そしてもう一つ、とりあえず今を生きるためにある行動を繰り返していると、それが皮肉にも自分を破滅に追い込んでしまうという意味合いもあります。眠るために酒を飲んでいるのだが、そのうちに酒がないと寝付けなくなってしまう。現在の苦しみから脱したいと思って行う行為が、むしろ自分を痛めつけてしまう。こうした「アディクション」特有のパラドックスが、摂食障害にもあると考えています。カウンセリングではこうした側面を理解していないといけません。
同時に、「アディクション」とセルフコントロールは深いつながりがあります。世間ではよくアルコール依存や摂食障害は「意志が弱いから止められない」と誤解されますが、これは全く的を射ていません。摂食障害、特に拒食症の場合には、自分の食欲をコントロールしている満足感や快楽がつきものです。過食の場合も、とことん食べてしまっても吐くことによって体重をコントロールする、体型をコントロールしているのです。意志が弱いのではなく、あまりにも意志の力を信じ、自分をコントロールすることにとらわれてしまうのがアディクションなのです。
また、「アディクション」には心理的鎮痛効果、つまり心の痛みを感じなくしたり和らげたりする効果があるといわれています。アルコールやギャンブル、薬物、買物依存などと同様に、摂食障害の行動にも同じく鎮痛効果があると考えられます。過食をしていればすべて忘れられる、痩せることに集中していればそれ以外のことはどうでもよくなるのです。だからなかなか止められない。いっぽうでそんな状態は本人にとっては苦しいことは間違いありません。わかっているのにやめられないのです。
家族や周囲は命の危険があるからとにかくやめろといいますが、本人のそんな複雑な葛藤が理解できるはずもなく、その無理解さがまた本人と家族との対立につながります。その悪循環が定着してしまうと、症状はひどくなる、家族と本人との対立は悪化の一途をたどる、という地獄の状態につながっていきます。
本人の口からはあまり表現されることはありませんが、家族や専門家たちは、こうした摂食障害がもたらす本人へのメリットについても知っておく必要があります。その視点を与えてくれるという点でも、アディクションとしての摂食障害と言うとらえ方は意味があると思います。
周囲の理解にもつながるアディクションアプローチ
信田 アルコール依存症に代表される「アディクション」にかかわる人たちが経験的に生み出した援助の方法を「アディクションアプローチ」と呼んでいます。その特徴は、一番困っているひとたち、つまり周囲の家族をまず最初に援助することです。専門家の援助を求めることを拒否している本人よりも、その母親にアプローチします。その際に基本になっているのは「本人と家族の予定調和的一体感」を疑うことです。つまり本人のためだと思って行うことが、必ずしも本人の役に立つどころか時には有害になってしまうこともあるということです。誤解を恐れずに言えば、時には本人に対して家族は「何もしない方がいいかも」という考えです。家族が必死に行動しても、これがプラスに働かないことが結構多い。どんな時にどんなことが必要か、どんな時には本人から家族が距離をとったほうがいいか、しばらく何もしないでいたほうがいいのはどんな時か。私たちはそのような点について、家族(母親)に対してカウンセリングの場で提案したりアドバイスしたりします。
また我々専門家による援助・治療には限界があることを知るべきだと思います。「ここから先は当事者の問題だよ」という線引きを理解する必要があります。これは自助グループとの連携につながってきます。長年の経験から、多くのアディクションの当事者が、自助グループに参加することで回復していく姿を見てきました。このように、専門家が自らの限界を知り、自助グループに見られるような当事者の力を信じることが、アディクションアプローチの重要な要素です。
もうひとつ、「イネーブラー」(enabler)という重要なキーワードがあります。かなり前ですが、NHKの番組に出演した際に、このことばを「助長者」と訳していただき、適切な日本語だと思い、それ以来助長者と訳すようにしています。周囲の人間が良かれと思ってする行為が、かえって問題を深めるという逆説(パラドックス)についてはすでに述べましたが、良かれと思って行う行為が症状を助長してしまうこともあるし、その場合家族はイネ―ブラー(助長者)であると言えます。子どものためを思ってしてあげることが、結果的に摂食障害を助長してしまうとすれば、そんなことはやめなければならないでしょう。
過食の食事代は1日に1万円にも上るケースがあります。月額で言ったらすごい額です。こうした代金を親が出し続けていたり、トイレでは流し切れない吐物を車に積んで川に捨てに行ったりする。親がそこまでしていても、子どもは「自分はあんたらのせいでこうなった!」と怒鳴ったりする。これらの良かれと思ってする行為を親がこのまま続けるのか、止めるのか。そこをはっきり見分けなければなりません。
状況を変えようとしたとき、親がこれまで愛情と思ってやってきたことをどう変えるか、そのための方針を提示するためにカウンセラーは存在している、そう言っても過言ではありません。家族は何を続けていくか、何をやめるべきなのか、自助グループの先輩や、専門機関の医者・カウンセラーに相談してみてください。
回復過程を長期的な視点でとらえることができるという点でも、「アディクション」という考え方は役に立ちます。他の依存症同様に、摂食障害の回復には長い期間がかかる人が多いのが事実です。症状がすべてなくなり、他人からは普通に食事ができて、体重も戻ってから、突然亡くなったり、自殺を図る人もいます。食べ吐きやふつうに食事するといった問題から、
人とどのように付き合うか、職場の人とそのように距離をとるか、どう家族と和解するかなど、回復の段階でその都度課題が変わりながら、だんだん成長していくものだと思っています。
自助グループでは互いに経験を打ち明けたりします。そうすると、自分の痩せや挫折、成功への強迫だけがすべてという世界から、もう少し他者の目線を取り入れるようになってきます。摂食障害の根幹にあった、セルフコントロール万能という世界観が、少しずつゆるんでくるのです。
そして、摂食障害に関しては、「ジェンダー」についても言及しなければなりません。「ジェンダー」とは、社会的につくられた男らしさや女らしさのことです。本来私たちには生まれながらに男女に二分されるわけではなく、もっと多様であることが近年わかってきました。しかしまだまだ日本では、2つにすっぱり分けられてしまっている。そんな固定的な女性らしさと同様に、女性であっても活躍しなければならないという家族からの期待もあり、どう生きていいのかわからないというジェンダーにまつわる生きづらさ・不自由さが影響していると思っています。そのためにはフェミニズムや女性学がこれまで積み上げてきた、女性としての生き方に対するさまざまな提案や考え方を知ることが役に立つと思います。
親からは女らしくいい結婚をしていい母になり孫を生むことを期待され、同時にいい大学から有名企業に入って業績をあげるよう求められる。こうした達成不可能な目標と、それができない自分への嫌悪や自責は、さらなる「がんばらなければ」というセルフコントロールにつながっていきます。
同時に「脱母親原因論」も重要だと思います。摂食障害はよく母親が原因といわれます。実際、母親が果たす役割は、回復・成長への影響も含め非常に大きい。しかし、彼女たちには彼女たちなりの苦労もあるのです。夫との関係に悩んでいたり、娘の状態を全部自分のせいにして責めていたり、場合によっては夫からDVを受けている場合もあります。私たちは摂食障害の原因追及には意味がないと思います。まして母親をバッシングするのは、百害あって一利なしであり、一生懸命それなりに努力してきた母親に対して失礼ではないかと思います。本人にもっとも大きな影響力を持っているのが母親なのですから、彼女たちを評価し、新しい対応ができるように援助していくかが、大きなポイントになるでしょう。
荻上 カウンセリングを通じて、患者や家族のさまざまな心象風景が見えてくるのですね。信田さん、ありがとうございました。皆さんの話を踏まえて、最後にディスカッションを行いたいと思います。鈴木先生と信田先生に加え、ご自身も摂食障害の経験を持つ、自助グループ「NABA」代表、鶴田桃エさんをお招きしています。具体的な症状や実感、そして支援の枠組みなどについて、議論を進めて行きたいと思います。



