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夏目ブログ「手塚先生、締め切り過ぎてます!」へのトラックバック

ちょっと亀トラバですが、夏目房之介氏の11月20日のエントリ「福元一義『手塚先生、締め切り過ぎてます!』」へのトラックバックを書きます。

http://blogs.itmedia.co.jp/natsume/2009/11/post-dc99.html
↑夏目房之介の「で?」

夏目さんのこのエントリは、福元一義氏の著書『手塚先生、締め切り過ぎてます!』(集英社新書)への感想を書かれたものです。福元一義氏は、昭和20年代にまず手塚治虫の担当編集者として仕事を始めました。ところが日大芸術学部出身だったこともあって「手塚アシスタント第一号」にもなり、のち自分もマンガ家になりましたが、70年代初頭に手塚のアシスタントに舞い戻り、それから手塚が亡くなるまでチーフアシスタントを続けた人物であります。

いわば担当編集者・同業者・チーフアシスタントとして手塚治虫が昭和20年代から晩年までの裏も表も知る人物であり、集英社新書のこの本は、手塚関係者のなかでも唯一無二の存在である人物が書いた唯一無二の本として、大変貴重な文献といえます。

さて、夏目さんは上のエントリの中で、

《ただ、ひとつ気になるのが『新宝島』の全集版についての記述です。

少し詳しい人間であれば、酒井七馬原案になるこの作品が、全集版では手塚によって全面的に描き改められ、コマ構成、描線、あらゆる点で初出単行本と異なることは知っているはずです。

「手塚ファンマガジン」でも、そのことは書かれているし(Vol.220)、何より手塚自身が全集版あとがきで〈リメーク〉であることを詳細に書いている。つまり周知の事実です。『新宝島』の初出が、小学館クリエイティブの復刻シリーズによって、ようやく古本以外で見られるようになった現在、ふつうにその異動は確認できます。
にもかかわらず、この本では手塚が初出単行本をアシスタントに渡し、それをトレースして原画を起こしたように書かれています(116、136P)。ぎりぎりの段階で手塚が〈「『新宝島』の最終部分の話を変えますので、切り貼りをします」〉と宣言し、〈キャラやコマを手際よく切り、原稿用紙に乗せて〉いったとの記述(140P)はありますが、実際は冒頭から完全に描きなおされており、一体どこで、いつそうなったのか、この本からは読み取れないのです。
なぜ、そうした書き方を今更したのか、ちょっと理解に苦しむところです。》


と書かれています。実はこのことについて、僕は別の人物からほとんど同じ証言を得ています。その人物とは、80年代に手塚のアシスタントをしていた吉住浩一さんで、彼は、まさに講談社全集版『新宝島』復刻のために、手塚の指示で旧版の『新寶島』全ページのトレースを担当した人物なのです。この証言は、僕が編集に参加した『一億人の手塚治虫』(JICC出版局、1989)に収録されている「元アシスタント座談会・われら手塚学校卒業生」のなかに出てきます。以下、その部分を引用します(ちなみに司会進行は竹熊です)。

《 吉住 僕なんかだと、一番大変だったのは、全集に収録した『新宝島』の話になりますけど。

―― 描き直し、ですか。

吉住 ええ。当初はね、原画がないから、あの赤本版のをコピーして使おうって言ってたんですけど、ちょっと原稿にはならないっていうことで――汚くてね。しょうがないからそのまま全部、汚いままコピーをとって、まずアシスタントが全部をトレースしたんです。鉛筆で、背景から、何から何まで。その時は一ヶ月ぐらいずっとトレスに明け暮れててね。それを先生が全部主線入れ直したんです。本当にね。

堀田 ほう、全部先生が。

吉住 全部。だから、あれはまったく別のものになってますけどね。

堀田 とりあえず昔の絵に似せようとする努力はしたんでしょ?

吉住 すごく絵は似せてましたね。

―― 当時の赤本自体、書き版という、職人がトレースして版を作るシステムだったんで、先生のタッチとはずいぶん違ってたはずなんですけどね。

堀田 その頃って、江戸時代とあまり変わってないんだなあ。

吉住 その意味じゃ、『新宝島』は、これだけの年月をかけて、ようやく先生のオリジナルが出来たってことになるんですね。》 (「一億人の手塚治虫」JICC出版局 1989年 473p)

上の対談中、堀田とあるのは元手塚アシスタントのマンガ家・堀田あきお氏のことで、――で示されている発言は竹熊のものです。これだけ読んでも、結局、夏目さんの疑問への答えにはなっていません。しかし、少なくとも 『旧・新寶島』をアシスタントが全ページトレースして、それをもとに手塚がペンを入れていた事実はあったと考えて間違いないと思います。

それでは、なぜ完成した「全集版・新宝島」は、コマ構成から絵柄まで「別物」といっていいほど違ってしまったかということですが、ここは想像になりますけど、オリジナルをトレースした下書きを見ているうちに手塚の気が変わって、そこからどんどんコマを増やして別作品に描き変えてしまったのではないでしょうか。

これについては、吉住氏に連絡をとって確かめてみようと思いますが、すいません、今すぐには吉住さんの連絡先がわかりませんので、しばらくお待ちください。吉住さん、もしこれをお読みでしたら竹熊まで連絡してください。メール送信はサイドバーからできます。

しかしこの件、「何がオリジナルか」を考えると複雑な問題をはらんでいると思います。まず、「オリジナル」とされる旧『新宝島』じたいが職人がトレースした描き版であり、作者の絵そのものではない。その37年後に出版された「全集版・新宝島』は、百パーセント手塚の絵であるものの、37年前とは絵柄がまったく違っていて、さらにコマ構成まで変えた「新作」といっていい作品になっている。では、この場合の「オリジナル」とはいったい何なのかということですね。この問題については、何か思いついたらまた書きます。

  

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