- 2017年06月18日 11:25
なぜ、すべての教員に部活動指導が強制されるのか 「全員顧問制度」の拡大とその背景に迫る
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「全員顧問制度」を採用する中学校の割合とその推移
■自主的なのに強制される
部活動は、生徒にとっても教員にとっても基本的に「自主的な活動」である。
ところが、生徒さらには教員も、部活動への加入が強制されている場合が少なくない。とりわけ中学校教員に対しては、部活動指導を強制する学校の割合が、全国で9割に達している。
だが、過去の調査との比較検討から、以前はこれほどまでに部活動指導が教員に強制されてはいなかったことが、明らかになった。今日、教員の長時間労働が問題視されるなか、なぜすべての教員に部活動指導が義務化されるようになったのか。全教員による部活動指導の拡大とその背景に、最新のデータを用いつつ迫っていきたい。
■「全員顧問制度」という指導体制

教員全員による部活動指導の体制は、学校文化のなかでは「全員顧問制度」とよばれている。
厳密にはこれは「制度」とよぶには語弊がある。そもそも部活動顧問の任務自体が教員の自主的な関わりにより成り立つものである。したがって、全員顧問の「制度」というきまりが成り立つ根拠がない。だから、全員顧問は「慣行」にすぎない。
それにもかかわらず、全員顧問の体制が「制度」とよばれていること自体が興味深い。つまり、なんとなく学校のなかでそうなっているはずの「慣行」が、もはや「制度」という強い拘束力をもったものとして認識されているということである。
■拡大する「全員顧問制度」

2016年度のスポーツ庁による全国調査では、87.5%の中学校で教員全員による部活動の指導体制がとられている。希望制は、たったの5%である。教員に部活動指導をするかしないかの選択の余地はほとんどない。
全員顧問制度は、学校の常識になっている。だが、その歴史はさほど古くはない。
運動部活動に関する3つの全国調査から、全員顧問制度を採用している学校の割合の推移を見ることができる。部活動の指導に「全教員が当たることを原則」としている中学校は、1996年度は57.0%、2001年度は66.3%、2016年度は87.5%と大幅に増加している[注1]。
全員顧問制度を採用するかどうかは、基本的には校長の判断である。教員の長時間労働が常態化しているなかで全員顧問を強制すれば、さらに教員の負担を増大させることにつながるのではないか。なのに、なぜ指導が強制されるようになってきたのか。
■部活動指導は自主的な活動
上記の問いに答える前に、部活動指導が教員に強制されてはならない理由を、ここでごく簡単に説明しておきたい。
じつは教員は法制度上において、特殊な場合を除いて原則、勤務時間外の職務ができない(残業代が支払われない)仕組みになっている(詳しくは拙稿「教員の出退勤 9割把握されず」)。勤務時間を超えて作業しているとすれば、それは好き勝手にやっているということになっている。
そして通常の学校の時間配分において、部活動の活動時間の大半が勤務時間を超えておこなわれている。つまり、部活動の指導は自主的なものと位置づけざるを得ない[注2]
■なぜ、すべての教員で指導を担うのか
自主的な意志によって指導されるはずの部活動が、なぜ「全員顧問制度」によって強制されているのか。
答えの一部を先に言うならば、全員顧問制度の背景には、教員全員で負担を均等に分かち合いましょう、みんなで協力して部活動を運営していきましょうという考え方がある。子どもの教育は教員全体で分け合って担うものであり、そう考えることで自校の部活動を存続・発展させようとするのだ。
だが、これは答えの一部にすぎない。なぜなら、全員顧問制度が拡大してきた理由が説明できないからだ。上図で示したとおり、少なくとも20年前の時点では今日ほど全員顧問制度が徹底されていなかった。なぜ今日になって、全員顧問制度なのか。
- 学校リスク研究所 内田良
- 名古屋大学准教授,教育社会学。