- 2017年06月18日 10:04
警察の訪問は、表現の自由への抑圧そのものである
2/2僕は今回の件において、少なくとも警察は、その同人誌から漫画家を割り出したということ。それはどういう法的権限によって行われたのかをハッキリさせる必要がある。
まだ牧歌的な頃には、同人誌の奥付に住所や氏名を載せるようなこともあったけれども、今、そのようなことをしている人はいないであろう。であれば当然、その漫画家が執筆したメディアなどを対象に、住所の調査が行われたと考えるほかはない。
当たり前だが、容疑者がその作品を見てマネをしたからといって、その漫画家が犯罪に加担した可能性があるなどとは、とても考えられないし、社会通念的にもそう考えることは認められないだろう。では、警察はどのような権限でもって、調査を行い、訪問をするということになったのか。そうした疑問にはまだ埼玉県警は答えていないのである。
ふと、先日起きた「pixiv内のBL小説が、学術論文に引用された問題」を思い出した。
詳細についてはBuzzFeedの記事(*5)を見てもらうとして、この件で同人作家たちが、その公開を取り消すなどの反応をみせたことが重要である。
論文に記されたのはペンネームと、その文章が記載されたpixiv内のURLであったが、作者たちはそれを「公衆に晒された」とみなし、活動などを辞めてしまったのである。当然、ネットでは論文の著者たちに対する非難が集まった。
この時の非難と比べれば、今回の「漫画家が同人誌から住所と氏名を割り出され、警察がやってきた」件に対するネットの反応は、恐ろしいほどに静かである。
ログインが必要なpixivの中とは言え、誰でも無料で登録できるサイトに公開されていたペンネームと作品URLが晒されたことに対する反応と、住所氏名が暴かれ、警察がやってきたことに対する反応。前者に憤りを感じる人が多く、後者は比較的静かというのは、とても変である。
もし、今回の件が鬼畜BLの作品を元にした犯罪で、警察官が女性BL作家の家に訪ねてきたらどうだろうか? 女性は屈辱を受けたと感じ、もうBLは描かないと考えるのではないか。ならばそれは当然、抑圧なのである。
今回は、漫画家が大人の対応を見せたために、大きな批判は発生していないが、それにしても警察の訪問が表現に対する抑圧として働くことは明らかであろう。それにしては反応が静かすぎて奇妙である。
この奇妙さが表すのは、最近のネットに慣れた人たちの「権力に対する一方的な信頼」ということなのだろう。
先の小野田議員の報告に「警察の人が低姿勢だったので、説明も本当であろう」という意味合いの一文があった。僕はこれをすごく奇妙な文章だと思うし、言ってしまえば権力へのおもねりでしかないと思うのだけれども、最近の人たちは、これをごく自然に書けてしまうし、それをごく自然に受け入れてしまうのだ。
僕は別に警察を敵視したいわけではない。ただ、警察は敵でもなければ味方でもないのだ。彼らは目的に従って、持てる権力を最大限に使う存在だ。
「こんにちわー」と、ある日にこやかに家を訪ねて去っていった警察官は、次の日には家の中を徹底的に探る警察官になるかもしれないし、いつかは自分に手錠をかける警察官になるかもしれない。
それは警察官の仕事が上からの命令や令状などによって動く仕事だからであり、警察官は職務の上ではあくまでも任務を遂行する存在であり、決して個人ではない。
だから、少なくとも警察官個人のにこやかさや、へりくだった様子を理由に「本当に自衛を提案しただけ」などと理解するのは、受け手側の一方的な思い込みであるとは確実に言える。
住所や名前を調査し、直接訪れるという権力の行使を、個人的な話やすさや物腰の柔らかさで中和するような考え方は誤りである。
今回の件で警察は明らかに表現者たちに対して「お前たちの作品、そして住所氏名はすべて把握できるぞ」というメッセージを見せている。この事態に対して適切に対応しなければ、警察は更に深くまで、表現の自由に踏み込んでくるだろう。
警察を一方的に敵視するのではなく、また警察を一方的に信頼するのではなく、注意深く考えていきたい。
*1:強制わいせつ容疑の男「漫画を真似」 県警、作者に異例の申し入れ (埼玉新聞) - Yahoo!ニュース
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170613-00010004-saitama-l11
*2:埼玉県警:成人漫画作者に「配慮を」 わいせつ事件受け - 毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20170614/k00/00e/040/260000c
*3:上記はあくまで僕個人の思ったことなので、「表現の自由が脅かされた」とか「警察の圧力に屈した」とか「前例ができた」とかいう類の話だとは思ってほしくないと思っています。(クジラックス Twitter)
https://twitter.com/quzilaxxx/status/875276410708836352
*4:「埼玉県警 成人漫画作者に「配慮を」」上記の記事案件につきまして、表現の自由を憂慮するお声を多数頂きましたので、個人的に行っていた事実確認結果等を下記不完全ですがご報告させて戴きます。(小野田きみ Facebook)
https://www.facebook.com/OnodaKimi.Okayama/posts/875116832627866
*5:【追記あり】「モラルを疑う」pixiv上のR-18小説を“晒し上げ” 立命館大学の論文が炎上 今後の対応は
https://www.buzzfeed.com/jp/harunayamazaki/jsai2017-r18?utm_term=.dngMlONnD#.dkmPQg4Zm



