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民泊狂想曲ー住宅宿泊事業法(民泊新法)可決・成立に浮かれるなかれ

 6月9日、参議院本会議において住宅宿泊事業法、いわゆる民泊新法が可決・成立した。これで民泊が合法化される、民泊元年、民泊業界が活況を呈することになるといった、お祭り騒ぎのような楽観論が蔓延しつつあるようだ。

 確かに、これまで民泊と言えば、本来受けるべき旅館業法に基づく簡易宿所営業の許可を受けていない、無許可営業のものが多かった。簡易宿所に係る構造設備基準が一部緩和されたものの、手軽に小遣い稼ぎができる、副収入になるから自らが居住するマンションの一室等で民泊を始めたような人にとって、わざわざ簡易宿所の許可を受けるなどというのは大いなる手間である。

 しかも、無許可営業であっても旅館業法には立入調査を行う権限が規定されていない。(許可を受けて営業を行っている者の規律を保つことに力点が置かれた制度となっている。)無許可営業に対する罰則も規定されてはいるが、6月以下の懲役か3万円以下の罰金。これでは抑止力にはならないし、民泊仲介サイト等で営業の実態が把握できたとしても、立入調査ができない以上、任意での調査協力を依頼しても、「うちはやってない」とつっぱねられればそれ以上はなすすべがない。(実際、把握された無許可営業の宿泊施設のうち、関係行政機関からの指導を受けて許可申請を行ったり、宿泊施設を止めたりした割合は半分にも満たない。)

 これが民泊新法が成立し、施行されれば、自らの居住する住宅を宿泊の用に供する場合であれば届出により、自ら居住はしていない住宅を運営代行事業者に運営を委託して民泊を営む場合は、届出に加えて運営代行事業者(法律上は住宅宿泊管理業者)の登録により、簡易宿所の場合と比べて簡単に民泊を始めることができる、そう考えられている。

 しかし、それは単なる希望的観測、ご都合主義の考え方にすぎない。

 なぜなら、民泊新法は旅館業法の改正案とセットだからである。民泊新法は、同法に基づく民泊を旅館業法の適用対象から外すことが一つの柱ではあるが、それは人を宿泊させる日数が年間180日を超えない範囲での話。その日数を超えて事業を営めば旅館業法の適用対象になり、旅館業法に基づく許可を受けていなければ、無許可営業として罰則の適用の対象になる。しかも、この罰則、今回の改正案で大幅に強化され、立入調査に関する権限等も新たに設けられた。

 したがって、無許可民泊への立入調査も可能になる。そしてこの罰則及び権限の強化は今回の旅館業法改正の一つの大きな柱であり、その目的は無許可民泊の取締りである。つまり、一方で民泊を「合法化」してその数や実態を把握しつつ、他方で無許可営業を一網打尽にすることが企図されているということである。これは、民泊は気軽にできる、手っ取り早く稼げる性格のものではなくなるということでもある。

 加えて、住宅宿泊事業法に基づき民泊を営むことができるのは、あくまでも住宅である。住宅とは、実際に人が住んで生活の根拠としているか、賃貸住宅で賃借人は現に入居していないものの、募集はしているものであり、前者の場合は例えば自宅の空き部屋を宿泊に提供する、後者の場合は新しい入居者が決まるまでの間、宿泊に使用するといったことが想定される。

 つまり、儲け話として民泊業界でよく聞かれる、投資資金を集めてワンルームマンションを建ててそれを民泊にして儲けようといったモデルでは住宅宿泊事業を営むことはできないということである。(旅館業法に基づく簡易宿所の許可を受けて、という可能性はありうるが。)

 通常国会の会期も6月18日の会期末まであと残りわずか。旅館業法の改正案、衆院では6月に入ってやっと厚労委員会で審議入りしたが、6月7日に法案の質疑が行われた後、次の厚労委員会の定例日である9日には法案の質疑は行われず一般質疑が行われていることから考えると、衆院での採決まで行かずに継続審議となる可能性も高い。それ以前に、衆院で可決して参院に送付されたとしても、テロ等準備罪法案で荒れる参院では審議入りする可能性はないと言っていいだろう。

 住宅宿泊事業法と旅館業法の改正案はセットだと先に述べたが、住宅宿泊事業法が先に成立してしまったところ、罰則等の強化のないまま見切り発車となってしまいそうだが、秋に予定されている臨時国会で旅館業法の改正案を早期に成立させ、住宅宿泊事業法と同時施行させるか、住宅宿泊事業法の施行をギリギリまで遅らせるかのいずれかにより、なんとか片肺飛行のような事態は回避することになるだろう。

 さて、今回の住宅宿泊事業法と旅館業法の改正は、規制緩和ではなく、規制の厳格化を通じた業界の適正化と考えた方がいいだろう。そもそも、罰則や権限の強化、それに基づく無許可営業の取締り強化というのは当たり前の話であって、法令の隙間をぬった無許可民泊が雨後の筍のように大量に存在している方が異常。別に民泊を事業ベースで考えて、それで金儲けをしようというのを否定するつもりはないが、これを機に民泊というものの意味や目的、効果といったものを見つめ直し、考え直すべきではないかと思われてならない。

 筆者は以前から民泊は「地域コミュニティへの入口」であると考えている。観光地や歓楽街ではなく、地域の生活の現場に泊まる。生活している場で生活を疑似体験する。そうすることで、これまでのホテルや旅館では体験することができなかったその地域や地域コミュニティに接し、知ることができる。これが民泊の最大の意味であり、地域の側から見た場合の効果であるように思う。そして、地域を知ること、地域コミュニティに接することが民泊に宿泊することの目的となっていけば、それが長期滞在、更には移住にもつながるかもしれない。

 現在はインバウンド云々の文脈で民泊は語られることが多いが、将来的には日本人がいわゆる観光地以外の国内の地域を動く、動きが活発化する、そのためのインフラとして機能するのではないか。そう考えると、今回の住宅宿泊事業法と旅館業法の改正による規制の厳格化を通じた業界の適正化、将来を見据えつつ、時宜にかなったものであると言えるのではないだろうか。

 いずれにせよ、民泊については考え方や認識を大転換する必要があることは確かだ。

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