- 2017年06月13日 10:11
性犯罪の重罰化を含む刑法改正案のポイントとは / 刑事政策・犯罪学・被害者学、柴田守氏インタビュー
2/2子どもに対する性的虐待の「時効」
――今回の改正案には盛り込まれなかった課題としては、どんなことがありますか。
本改正案が国会に提出されるまでには、内閣府の女性に対する暴力に関する専門調査会(2011年5月~2012年7月)、法務省の性犯罪の罰則に関する検討会(2014年10月~2015年8月)、法制審議会・刑事法(性犯罪関係)部会(2015年11月~2016年6月)などにおいて専門的な議論がなされてきました。特に、性犯罪の罰則に関する検討会では、様々な論点が挙げられ、議論されてきました[表2参照]。
本改正案には反映されなかった点で、もう一度被害者や世間の声を聞いて再度議論されるべきことは、暴行・脅迫要件の緩和、いわゆる性交同意年齢(13歳)の引上げ、性犯罪に関する公訴時効の停止などいくつもあります。そのなかでも、私個人が特に再度議論が必要だと思っているのは、性犯罪に関する公訴時効の停止についてです。
性犯罪に関する公訴時効の停止というのは、低年齢時に性犯罪の被害を受けた被害者を救済するため、ある一定の年齢(たとえば成年)に達するまで公訴時効が停止される制度のことです。フランスやドイツなどではすでに導入されています。具体的には、被害者が自己の受けた性犯罪の被害を自らの判断で捜査機関等に届け出ることが可能と考えられる年齢まで公訴時効を停止させて、その年齢に達した時点から進行させるというものです。内閣府男女共同参画局が実施している「男女間における暴力に関する調査」によると、日本は低年齢時に家族や親族から性暴力(性的虐待)を受ける被害が多いことが分かっており、フランスやドイツと似た状況にあるのです。
このテーマについては、性犯罪の罰則に関する検討会でも議論されました。しかし、刑事法の専門家や実務家が多数を占めていたためか、「時間の経過による証拠の散逸」という時効制度を支える基本的な考え方を貫き、犯罪立証が困難であるなどとの理由から、それを導入することに消極的な意見が大半でした。確かに、時間の経過から証拠が得られにくくなりますし、被害者の供述についても、特に低年齢時の記憶は変容しやすいという特徴もあります。そのため、実際上、公判を維持できないということから、起訴できないということもあると思います。
しかしながら、性犯罪に関する公訴時効の停止については、被害者の保護・支援という側面から再評価されるべきではないでしょうか。より潜在化しやすい低年齢時の性犯罪被害について、勇気を出して声を挙げた被害者に対して、捜査機関が公訴時効の成立を理由に門前払いすることなく、その声を受けとめることは十分にできるはずです。もし仮に証拠が不十分ということで起訴できなくても、被害者を支援機関につなぐなどして、被害の回復を支援することは可能なのです。魂の殺人といわれる性犯罪という特質を踏まえた上で、被害者を保護・支援するという視点は必要不可欠であると思います。
110年間変わっていない刑罰の種類
――性犯罪に関する刑法の問題点の中で、これまで議論されていない点はありますか。
ぜひ今後議論していなければならないと思うことは、性犯罪に対する刑事制裁のあり方についてです。刑法に規定される刑罰の種類は明治40年以来変化がありません。しかし、犯罪の構成要件が変わる一方で、刑罰の種類や内容について議論があまりなされていないのは適切ではないと思います。性犯罪の性質も様々ですし、性犯罪者の犯行パターンも様々でありまして、一律に懲役刑がなじむとは言えません。たとえば、電子監視や治療処分の導入の可否について議論していくことは1つの考え方であると思います。
性犯罪とは別の議論になりますが、2017年2月に、少年法における「少年」の年齢を18歳未満とすること、ならびに(非行少年を含む)犯罪者に対する処遇を一層充実させるための刑事の実体法及び手続法の整備などについて、法制審議会に諮問され、少年法・刑事法(少年年齢・犯罪者処遇関係)部会が設置されました。そのなかで、自由刑の単一化(懲役刑と禁錮刑の一元化)や宣告猶予制度の導入などについて議論される見込みです。このように、刑事制裁のあり方について見直していこうという風向きは出てきたように思います。ぜひそうした流れに乗って、今後、性犯罪に対する刑事制裁のあり方についても、積極的に議論していくことが期待されます。
“性犯罪の顕在化”期待される
――今回の改正案によって、性犯罪の予防に効果が期待できると思われますか。
重罰化によって、一定の予防効果があがることが期待されます。前述しましたが、強姦罪では3年以上20年以下の有期懲役、集団強姦罪では4年以上20年以下の有期懲役であったものが、強制性交等罪では5年以上20年以下の有期懲役になります。単純に現行法と比較しますと相当な重罰化になります。もっとも、これまで強盗罪に比べて相対的に低かったということはありますが、それでもこのインパクトは大きいと思います。
他方で、質問いただいたことと観点が異なりますが、本改正案によって、性犯罪の顕在化が期待されています。性犯罪はその性質上、潜在化しやすく、暗数(捜査機関が犯罪被害を認知できない件数)の多い犯罪です。今回の改正によって非親告罪化がなされ、また監護者わいせつ及び強制性交等罪を新設によって、特に潜在化しやすかった家族・親族を含む知人間で行われた性犯罪が顕在化することが期待されます。中期的には捜査機関の認知件数が上がるかもしれませんが、長期的に見れば、暗数を含めた性犯罪全体の数が低下することが期待されると思います。
ただ、性犯罪の予防効果をさらに高めるためには、単に重罰化したことだけに満足するのではなく、刑罰の種類や内容を見直していくとともに、刑務所における性犯罪者処遇プログラムをさらに充実させていくことも必要不可欠です。刑務所にいる時間が長くなればなるほど、釈放された場合に社会復帰(適応)することが難しくなっていきます。ですから、再び逸脱させないためにも、それに向けた対応策を充実させることも大切なのです。
――海外における性犯罪に関する司法や被害者支援において、日本にとって参考になる取り組みはどんなものがありますか。
特に性犯罪に対する被害者支援に関して言いますと、喫緊の重要な課題はやはりワンストップサービスの充実です。男女共同参画基本計画において、ワンストップ支援センターの設置促進が挙げられており、充実してきたと評価できるのですが、まだ全都道府県にあるわけではありません。また、そのサービス内容も諸外国に比べると不十分と言えます。この点、諸外国の先進的な取組みを採り入れていくとともに、日本独自の内容を盛り込んでいくことが期待されます。
性犯罪の罰則規定の見直しだけに尽きるわけではなく、性犯罪という特質を最大限考慮した被害者支援を拡充させることもセットとして考えなければなりません。第190回国会において「性暴力被害者の支援に関する法律案」が提出され、今国会において現在審議中となっていますが、あわせて成立させることが検討されてもよいのではないでしょうか。
刑事司法における被害者保護や支援策、診断・治療等に関する支援策などについて、まだまだ諸外国に学ぶべき点は多くあります。この点は、私たち研究者がしっかりと調査して、日本に紹介していくことが責務であると思っています。
リンク先を見る性犯罪・被害―性犯罪規定の見直しに向けて尚学社
女性犯罪研究会
画像を見る 柴田守(しばた・まもる)
刑事政策・犯罪学・被害者学
専修大学大学院法学研究科博士後期課程修了・博士(法学)。専修大学大学院任期制助手、首都大学東京法科大学院助教を経て、現在、長崎総合科学大学共通教育部門長・准教授。専門は、刑事政策、犯罪学、被害者学。被害者保護の視点から刑事・少年司法への政策提言を続けている。



