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THAAD問題で米中板挟みの文在寅大統領 - 澤田克己(毎日新聞記者、前ソウル支局長)

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 韓国の文在寅大統領が6月10日で就任1カ月となった。韓国ギャラップ社が9日に発表した世論調査の支持率は82%に達した。就任後初の調査だった前週は84%だった。1987年の民主化以降に就任した歴代大統領の就任直後の支持率は、金泳三、金大中両氏の71%が最高だったので、文氏の支持率は頭一つ抜けている。

 好感を呼んでいるのが「脱権威主義」という姿勢である。民主化されて以降も、韓国の大統領は権威主義的な存在であり続けてきたし、朴槿恵前大統領の権威主義的な傾向はその中でも際立っていたからだ。

 同社の調査は支持理由を自由回答で聞いている。最も多かったのが「コミュニケーションをよく取っている。国民(の思い)に共感しようとする努力」の19%で断トツだった。別項目として集計されている「権威主義的でない。気さくだ」も5%あった。どちらも、朴氏とは対照的な親しみやすさへの共感だと言えるだろう。

 順調な滑り出しではあるが、親しみやすさというのはイメージの話である。現実を見ると、内外ともに地雷を抱えていることは否定しがたい。対外的には在韓米軍への終末高高度防衛(THAAD=サード)ミサイル配備を巡る米国との温度差という難題を抱え、国内では閣僚人事が停滞し、与野党対立が激化する兆しを見せる。内政問題も重要なのだが、今回はまず対外的な課題について考えてみたい。

同盟派路線で始まった対外政策

 日本では文在寅政権について「反日反米親北」などという短絡的なイメージで語る人もいるが、一国の政権をそれほど単純に色分けできないことは当然である。選挙前から文氏を支えてきたブレーンも、さまざまなグループに分けられた。

 対外政策で言えば、米韓同盟を重視する専門家グループ(同盟派)と民族主義的志向の強い運動家グループ(自主派)に大別できる。同盟派は理想を抱きつつも、現実的なアプローチの必要性を重視する。一方で自主派は現実の制約を認めつつも、理想論に走りがちな傾向が強い。保守に対抗する進歩(革新)としての理想は共有するものの、方法論には違いがあるということだ。

 ただ、実際に政権を取ったら現実的なアプローチを取らざるをえない。文在寅政権の対外政策も同盟派路線が比較的、前面に出ている印象だ。国際情勢を無視して自分たちの思い通りの対外政策を展開できる国など存在しないのだから当然ではある。しかし、自主派の影響力が皆無になるというわけでもなく、むしろ自主派の巻き返しが起きる可能性もある。そうなると日米との関係は、ぎくしゃくしてしまうことになるだろう。

助け船となっている「北の挑発」

 文氏は北朝鮮との対話に前向きではあるが、北朝鮮が挑発を繰り返す現状では厳しい態度を取らざるをえない。政権発足直後のミサイル発射を受けて「北朝鮮の態度変化があって初めて対話が可能になる」と述べ、その後も「挑発によって北朝鮮が得るものは国際的孤立と経済的な難局だけだ」と批判した。

 北朝鮮の挑発を「文在寅政権に対する揺さぶり」だとする解説もあるが、むしろ文氏にとっては「助け船」である。北朝鮮が挑発を続けていれば、融和志向の支持者には「この状況で対話は難しい」と言えるし、政権に批判的な保守派には「断固たる対応」をアピールできる。日米と足並みをそろえる姿勢を見せられる点からも、文氏にはありがたい状況だ。

 文政権は人道問題などでの民間対話を許可したが、北朝鮮は今のところ応じる姿勢を見せていない。これも「北朝鮮が応じないのだから仕方ない」となるので、文氏のダメージにはならないだろう。北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長が意図しているとは思えないが、文氏にとっては悪くない状況だ。

 対日政策も同盟派路線でのスタートとなっている。焦点となるのは慰安婦問題に関する日韓合意の扱いだ。文氏は選挙中に「再交渉」に言及したが、政権発足後は「国民の大多数が情緒的に合意を受け入れられないのが現実だ」と主張しつつ、日本への再交渉要求は口にしないという線でそろえている。これも、内容的に変わっていないにもかかわらず、意図的になのか不勉強なのか、韓国側が態度表明を繰り返した時に「態度を硬化させた」などと書く日本メディアがあるので要注意である。

 合意への批判世論を考えれば肯定的評価に転じるリスクを取るわけにはいかないが、泥仕合になること必定の再交渉も無理だという現実的な判断だ。釜山の日本総領事館前に建てられた少女像の問題を考えると日本側には強い不満が残るものの、北朝鮮情勢などを考えれば当面は「塩漬け」にせざるをえないだろう。

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