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特集:パリ協定離脱後のトランプ政権

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 先月の G7 サミットあたりから匂わせていましたが、6 月 1 日、とうとうトランプ大統領がパリ協定からの離脱を宣言しました。内外から非難轟々といった感じですが、おそらくは計算通り。もっともその狙いはいかにも「トランプ流」で、なかなか理解しにくい部分があるようです。政権内部の力学も、これに伴って 2 度目の変化が生じている様子。政権発足からまだ 5 カ月足らず、まことに変化の激しい政権と言えます。

 本誌としては、けっして「トランプ流」を擁護するつもりはないのですが、それでも最近は「まあ、ここまでは理解できるな」という部分も出てきました。本号はたぶんに「私見」が多く入っていることをお許しください。

●別子銅山で見た企業経営の原点

 6 月 1~2 日にかけて、商社業界の調査担当者による「水曜会」恒例のアウティングツァーに参加して、愛媛県の別子銅山を視察してきた。かつては東の足尾銅山と並び称され、江戸時代から高品質な銅を産出してきた場所である。というより、「住友グループ 400 年の源流」と呼ぶ方が、通りが良いかもしれない。

 別子銅山自体は 1973 年に閉山しており、現在はむしろ産業史跡ツァーの拠点となっている。「別子銅山記念館」「広瀬歴史記念館」などの資料が充実しており、往時を偲ぶことができる登山コースも整備されている。半日かけて山道を登ってみると、案の定、ヘトヘトになってしまったが、江戸時代の人々は「男は 45 キロ、女は 30 キロ」の荷物を担いで登ったそうである。おそらく当時の四国において、もっとも良い就業機会を提供する場所だったのではないだろうか。

 特に感心したことを記しておくと、別子銅山は元禄年間から掘り始められたので、明治期には周囲は完全にはげ山になっていた。銅の精錬には大量の燃料を必要とするためで、当時の写真を見ると愕然とさせられる。明治 32 年(1899 年)には大水害が発生し、122戸が流されて 513 人が死亡するという痛ましい事故が起きている。それくらい山の保水能力が低下していたのであろう。

 ところが今では、山はごく普通に緑に覆われている。当時の住友家は森林の回復に努力し、そもそも別子銅山を植林するために作った会社が今日の住友林業なのだそうである。だからといって、人工林のような気配はまったくない。100 年と少しでここまで自然な緑が戻るということは、まずは四国の温暖湿潤な気候に感謝すべきなのであろうが、ここまで徹底した関係者の努力にはつくづく頭が下がる。

 その昔、佐渡の金、石見の銀、足尾と別子の銅など、日本列島は世界でもまれなくらいに貴金属を産出していた。こういう資源国は、そのことに甘えて経済発展が止まったり、公害が野放しになったり、為替が高止まりしたり、ついには他国の企業に支配されたり、といったことが珍しくないものである。

 ところが日本の場合は幸いなことに、銅山から発展してさまざまな産業がフルセットで発展し、ひとつの企業グループを形成するに至っている。別子銅山の経営は、煙害などによる公害との戦いの歴史でもあった。その過程で優れた経営者が登場し、住友グループ各社が育ってきたわけだが、こういうところに日本型資本主義の原型があるのであろう。

 以下はいささか暴論に聞こえるかもしれないが、筆者は最近流行のコーポレート・ガバナンスの議論に胡散くさいものを感じている。企業を動かす動機は本来、内発的なものであるべきで、他者が働きかけたからといって、それで会社が良くなるものではあるまい。端的に言えば、投資家が企業に対して「ROE をもっと上げましょう」というのは当然の要求というべきだが、「社会的責任を重視しましょう」というのは大きなお世話ではないか。

 「社員や地域のために環境問題に取り組もう」という動機は本物だが、「会社のイメージアップと IR のために」行う努力など、たかが知れていると思うのである。

 つい先日も、ある株式ストラテジストに「ESG(環境・社会・ガバナンス)投資って、投資尺度として意味あるんですか?」と尋ねてみたところ、非常に含蓄のある答えが返ってきた。「スコアリングをとってみると、下位 10%の企業は明らかに投資に適していません。だから足切りの手段としては役に立ちます」。

 裏を返せば、ESG のスコアがいいからと言って、それでいい企業を発見できるわけではない。例えばガバナンスの仕組みという点では、東芝は明らかに先端的な取り組みを行っていた。それでは立派な経営を行っていたかといえば、現在は投資家の期待を大きく裏切っている。だから、外形的な基準でガバナンスを云々することにはあまり意味がない。

 企業の行動原理は、当然のことながら会社の内側に求めなければならない。そのヒントは得てして会社の歴史の中に隠れている。間違っても会社の方針を、投資家や有識者などの外部の意見に求めるようであってはならないと思うのである。

●米国がパリ協定から離脱する理由

 などと冒頭から延々と私見を述べてしまったが、それというのも筆者が別子銅山に登っている間に、「米国がパリ協定から離脱!」が大騒ぎになっていたからである。  このことに対する非難はまことに喧しい。ただしここでも筆者は大勢に逆らいたくなってしまう。トランプ大統領にとってパリ協定からの離脱は予定の行動であろう。そもそも本誌は 2016 年 11 月 18 日号「ドナルド・トランプ氏勝利!の謎を解く」で、下記のように指摘している。
トランプ政権は、おそらくパリ協定から離脱するか、気候変動問題を極端に無視する態度を取るだろう。もう一度、州ごとの選挙結果をご覧願いたい。ケンタッキー州やウェストバージニア州など、石炭産業の盛んな州で共和党票が伸びていることが分かる。トランプ次期大統領にとって、「化石燃料復活」政策は炭鉱関係者など典型的なトランプ支持者への絶好のプレゼントとなるはずだ。同時にそのことは、新興国への援助額を減らし、オバマ大統領のレガシーを台無しにし、中東に対するエネルギー依存度を低くすることにもつながる。つまり保守派にとって、いいことづくめの選択ということになる。
 そんなことよりも驚くべきなのは、米国がパリ協定から脱退するためには 3 通りの方法があった。そのうち、①協定の規定に則って離脱する、というシンプルな策を取ったことである。この場合、加盟各国は協定発効の日から 3 年間は離脱できないことになっている。 その後の手続きにも 1 年を要するので、米国の離脱は最速でも 2020 年 11 月 4 日となる。これでは次期大統領選挙(2020 年 11 月 3 日)に重なってしまい、次に民主党の大統領が誕生した場合はひっくり返されてしまうだろう。

本気でパリ協定を否定したいのならば、②国連気候変動枠組条約から離脱する、という手も考えられる。が、さすがにそこまで大胆なことを検討した形跡はない。

 そこで頃合いの手口として、③わざと批准に失敗する、というシナリオがあった。すなわち、「パリ協定(Paris Agreement)は、国家の行動を縛るから実質的に条約(Treaty)である、ゆえに連邦議会による批准が必要だ」と主張して、上院に賛否を問うのである。そうすれば 100 議席中 52 議席を共和党が占めているので、批准に必要な 3 分の 2 の賛成はほぼ確実に得られないはずである。結果として、「米国は最初からパリ協定に入っていなかった」ことになる。この方が、はるかにスマートな政治手法ではないだろうか。

ところがトランプ大統領は、上院議員たちにゲタを預けることを潔しとしなかった。そこで「自分はパリではなく、ピッツバーグ市民に選ばれた」と大見得を切ってみせた。重要なのは、実質ではなくて外見なのであろう。この間にも米国のグローバル企業は CO2削減を進めるだろうし、カリフォルニアなど州単位で気候変動に取り組むところもあるはずだ。他方、途上国への支援やエネルギー省の予算などは、最初から削減するつもりであった。今さらパリ協定から離脱すると言っても、実質的な意味は乏しいのである。

 つまりはトランプ大統領お得意の「プロレス流」である。互いに受けるダメージは小さいし、自分がいいところを見せると同時に、相手側にも見せ場を作る機会を与えている。実際に民主党議員や環境重視派、米国を代表する企業トップなどが、遠慮なくトランプ批判を繰り返している。マスメディアでも、「こんな愚かな決定をするトランプは、早晩、国民から見放されるだろう」といった声が少なくない。

 ところが今の状況をコアなトランプ支持者たちから見ると、「ああいう『意識高い系』の連中は、俺たちの暮らしよりも地球環境といったキレイごとの方が大事なのだろう。やっぱり俺たちのことを理解してくれるのはトランプだけだ」という受け止め方になる。かくして米国内の思想的対立は、ますます深まっていくことになるのだろう。

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