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【日本解凍法案大綱】22章 オーナーは少数株主に対してフェアに

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本当は、これは道義的な問題じゃないんだ。法律の不備だ。非上場の少数株主に会社に対しての買取り請求権がないのがおかしい。そう思う。そこまで行かなくっちゃいけないと自分に言い聞かせることがある。

その立法が実現するのか、するとしてもいつのことなのか、僕にはわからない。でも、僕は明日のために木を植え続けていくつもりなんだ。僕の生きている間には、実のなることもない、大きな枝を広げて木陰を作ってくれることもないだろうけどね。でも、僕はその光景を胸にくっきりと頭のなかに描き出すことはできる。

誰かが、道義を実現するべきなのかもしれない。昔、有島武郎が農場を小作人に分け与えたように。

とにかく、法律論じゃない。なにがフェアか、だと思っている」

「フェアかどうか、ね。

では、ウチの会社のフェアな解決策はなんですか、社外取締役さん?

有島武郎って、自分の農場を小作人にただで上げてしまった人よね。ずっと年下の女性と心中しちゃった人。

あら、私たち、有島武郎のようになるの?

私、彼のように会社を他人にあげなくてはいけないの?」

「そんなことはない。

彼は妻を亡くしていた男だ。

会社を従業員に上げてしまうなんてのは、だめだ。お金を尊敬しない人は、しまいにお金に軽蔑されて暮らしに困ることになる。

そんなことより、先ず会社のフェアな評価を知ることだ。

それに、譲渡承認請求があったって、なにも拒否して買取りを背負い込むばかりが能ではない。他人が株主に入ってきても、いっしょになって経営を良くしていけばいいのさ」

「あなたのお蔭で、ウチには怖いことはなにもない」

「だったら、株主が誰に譲渡するのも自由なはずだ。

でも、それは現実的には解決にならない。非上場会社の少数株など買う人がいないからね。買う人がいないのは、買ってもフェアなリターンが期待できないからだ。

だから、配当が第一ってことになるね。配当が会社の評価の10%なら買う人もでてくるかもしれない。そうなれば、非上場の会社の少数株も少しは取引きが盛んになる。

なんだか、上場会社のコーポレート・ガバナンス論、そのなかでもROEの話に似てきてしまったね。

ま、稼ぐ力には限界があるけどね。それに上場会社ほど開示義務がないから、どれだけの人が買い手になってみようと思うものか」

「ダンゴ屋さんだと借地権が15億の9割で13億5000万。それの49%で6億6000万。10%の配当だと6600万」

「資産は配当には回せないから、少し事情が違う」

「でも、いずれにしたって凄い額。串に刺したダンゴを一本々々売っていたのでは無理かもね。

ウチだと、資産100億でもディスカウント・キャッシュ・フローでの評価だと50億っておっしゃたわよね。その49%は24億5000万円。その10%分の配当だと年に2億4500万円にもなってしまう。

とても無理。

49%分自己株買いをするとなると、それだけのお金が要る。ビルをいくつも売って、法人税をたくさん払うことになってしまう。

2億円の純利益。みんなの給料もなにもかも経費を除いて残るお金だもの、配当ならもっとできる。

半分で1億の配当。49%の少数株主に4900万払うことになる。

沙織叔母さんは12%だから1200万。それなら、できなくはないかも」

「ヴォワラ!」

「でも私にも5100万もの配当収入が入ってきてしまう。配当は総合課税で55%取られてしまう。会社に置いておけば30%の法人税で済むのに」

「難しいところだね。

少数株主の株を種類株に変えてしまって、議決権、つまり経営権はあなたが保持し続けるけど、あなたへの配当は少なくても済むようにするとか、なにか適当な方法がありそうな気がする。

そういう小難しいことは大木に相談してみよう」

「大木先生が直ぐに答えを出しませんように。

私、あなたにお会いすることができなくなると思うと、恐ろしいの。

会社のことで相談することがなくなったら、あなたはきっといなくなってしまう。こんなちっぽけな会社の社外取締役よりもっと大切な仕事のある方ですもの。

日本中があなたを待っている。

あなたはおっしゃった。新しい法律を作って、非上場会社の少数株主が会社に株の買取り請求権を持つようにしたいって。

それでなくても忙しい方が、そんなこともしなくてはいけないから、ますます忙しいのよね。

私、もっと若いときにあなたに会っていれば良かった。そしたら私はあなたの奥さんになっていたかもしれない」

「僕が初めの奥さんとは別れたことを忘れているのかな」

「いやっ。

いい。だって二度目の奥さんになるから」

「そういう人生はあり得たかもしれないね。でも、僕たちは68歳と63歳になるまで出逢うことがなかった。

今も昔も、若い人たちは青春を歌う。自分たちが200万年に及ぶ人類の長い歴史で初めて青春というものを発見したかのように。それが人類にとってどれほど陳腐な歌でしかないかということなど想像もつかないで、なんどもなんども繰り返し歌う」

「私も歌った歌よ。心を込めて歌った。

でも今は違う。

私は、週に一回、3時間だけあなたといる、その間だけあなたを独り占めにしていられる。それでいいの、十分に幸せ。この世のどこかに信頼できる男が生きていることが、女にとって一番の幸せ。いつもいっしょにいることができるかどうかは別のこと。愚かな夢を見て、なにもかも無くしたりしないくらいの分別はあるつもり。これでも、いろいろな経験をしてきましたもの。

いえね、あなたが男と女の関係に入ることを避けたのは分かっているの。それでいいの。私、不安だったの。自分を安心させたかった。あなたがいなくなってしまうんじゃないかって、心配で心配で。びっくりしたでしょう?

あなたがそういうことはしないんだと知って、かえって安心した。

でも、やっぱいなんだか怖い。

もしあなたが病気になって入院でもしてしまったら、私はあなたに会いに行けない」

「じゃ、入院している間は社外取締役を辞任できないな。オーナー会長さんが入院中の社取締役に緊急の相談に来る口実がなくなってしまうから」

「いやっ、そんなこと言わないで」

弾かれたような声を出して、目の前の高野にしがみつく。

(これは過去にもあったことだ。デジャビュ。一度ではない。男と女はいくつになっても同じことの繰り返しだ。200万年も飽きずに動き続けている回転木馬だな)

高野は黙って紫乃の体を包んだ両腕に力を入れながら、独り天井をにらんでいた。

(21章 「紫乃の忍びの舎(や)」の続き。23章に続く。初めから読みたい方はこちら) 

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