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パリ協定離脱、トランプが愛する炭鉱の行く末は? - 山本隆三 (常葉大学経営学部教授)

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石炭産業復活は夢物語

 大統領選勝利の原動力になった石炭関係労働者への感謝を忘れないトランプ大統領は、選挙期間中に約束した石炭復活支援策を次々と打ち出した。まず「米国第一のエネルギー政策」により、エネルギー自給率向上を掲げたが、自給率の対象に明白になっていたのは、石炭、石油、天然ガスの化石燃料だけだった。再エネと原子力については触れられなかった。

 オバマ政権末期に、大統領交代による政策変更を予想した多くの省庁は、法の改正を次々に行った。例えば、環境保護庁は自動車の排ガス規制値を決定し、内務省は石炭の剝土(採掘のために除去した土砂)を湧き水、小川などに廃棄できない改正を行った。これらの規制強化も次々と葬られた。

 米国では、法改正を議会が一定期間以内に不承認とする議会評価法がある。大統領が拒否権を持つことから、議会が不承認にしても大統領が覆すことが予想されるため、実効性はなかった。しかし、大統領が交代したことから、政権交代後、議会評価法による不承認が行われることになった。湧き水への剝土廃棄を禁じた法改正は、議会評価法により無効となり、これを承認する大統領の署名には、炭鉱労働者、産炭州の両党議員が立ち会った。

 米国の二酸化炭素排出量の37%を占める電力業界の排出量削減のため、オバマ大統領が2015年に導入したのは発電所からの二酸化炭素排出量を規制するクリーン・パワー・プランだった。トランプ大統領は、大統領令によりこの規制を見直すことを環境保護庁に指示した。

 米国の石炭生産量は、大きく落ち込んできている。2008年に11億7200万ショートトンあった生産量は2016年には7億3900万トンまで減少した。その理由は規制ではなく市場での競争のためだ。シェール革命により価格が下落した天然ガスとの競争が激化し、シェアを奪われている。電力における石炭火力の発電量シェアは、昨年史上初めて天然ガスに抜かれ2位となった。図‐1の通りだ。石炭消費量の9割以上を占める発電部門での使用量の減少は石炭生産数量減に直ぐに結びついた。

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 生産量の減少が規制ではなく市場での競争にある以上、トランプ大統領の環境規制見直し政策により石炭の生産が復活することもなさそうだ。

 いまの予測としては、図‐2が示すように、最近上昇を始めた天然ガスの価格が上がるならば、石炭消費量と生産量の増加もあり得るとされている。

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 ただ、最大でも年産10億トンを再度超えることはないと予想されている。石炭生産量の復活はトランプ大統領の規制緩和政策ではなく、市場に委ねられている。

ガスと再エネの2強時代は未だ先の話

 シェール革命により生産量が増え、価格が下落した天然ガスによる発電量は石炭に代わり発電量第一となったが、天然ガス価格の上昇によりこのままシェアを増やすのか不透明になってきている。それでは2強と言われる再エネの時代は到来するのだろうか。

 米国における、再生可能エネルギーによる発電量推移は図‐3の通りだ。

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 風力が大きく増加しているが、その発電量は漸く水力発電と並ぶ程度。発電量を落としている石炭火力の5分の1程度しかない。水力を除くすべての再エネによる発電量の合計も8%しかない。図‐4の通りだ。

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 今後再エネが大きく伸びるかどうか見通しは不透明だ。いつも発電ができない再エネから発電された電気を使うためには、バックアップ電源あるいは蓄電装置が必要だ。さらに、送電線の増強も必要になる。国際エネルギー機関の試算では、米国で風力発電のシェアが10%になった時には、発電と送配電の費用に加え1kWh当たり2.05セントの安定化の費用が必要になる。この安定化費用を懸念したペリー・エネルギー長官の指示により、現在エネルギー省では安定化費用に関する検討が行われている。結果次第では、連邦政府の再エネ支援政策、投資税額控除制度の見直しなどが検討されるかもしれない。

 パリ協定離脱が米国のエネルギー政策に与える影響は大きくはなさそうだが、途上国支援資金の約3割を負担していた米国が拠出を中止すると、第2位の拠出国、日本には資金負担面で先ず直接的な影響がある。米国の離脱はパリ協定上2020年11月までは実行されない。4年近くの間には、まだ紆余曲折がありそうだ。

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