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陰謀渦巻く“カタールいじめ”2022年ワールドカップに暗雲 - 佐々木伸 (星槎大学客員教授)

 ペルシャ湾岸の小国、カタールが大国のサウジアラビアやエジプトなど中東やアフリカの8カ国から断交されるなど激しいバッシングに遭っているが、背景には大きな陰謀論が渦巻いている。この対立が続けば、2022年のサッカー・ワールドカップの開催や日本の天然ガスの輸入にも影響が及びかねない。

根底に3つの不満

 カタールはペルシャ湾に突き出た小国。人口は230万人しかいないが、豊富なエネルギー資源のおかげで名だたる富裕国の1つである。特に天然ガスの埋蔵量は世界第3位で、最大の液化天然ガス(LNG)の輸出国だ。同国にとって日本は最大の輸出相手国でもあり、日本のLNG輸入の16%を占めるという関係にある。

 カタールを知らしめているのはこうした経済的な面からだけではなく、その独自外交にある。同国はサウジアラビアを中心とするペルシャ湾岸協力会議(GCC)の一員ではあるが、アラブの宿敵イスラエルに国内に代表部を置くことを許すなど他のGCC諸国とは違った道を歩んできた。

 2011年の「アラブの春」以降はとりわけ独自外交に磨きが掛かった。1つはイスラム原理主義組織「ムスリム同胞団」を支援したことだ。同組織が最大の勢力を持っていたエジプトではムバラク独裁政権が倒れた後、1年間政権の座にあったが、現在のシシ政権にクーデターで取って代わられた。カタールはこの同胞団に資金援助をしたのだ。

 このほか、パレスチナ自治区ガザを支配する原理主義組織「ハマス」への援助を拡大。ガザの公務員2万4000人の1カ月分の給料を気前よく払ったこともあった。ハマスの指導者ハリド・メシャルをカタールに亡命滞在させて政治活動を容認した。

 2つ目は「アラブの春」でぼっ発したシリアの内戦で、反体制派のイスラム原理主義勢力に肩入れしたことだ。やはり「アラブの春」で政権が崩壊したリビアで散逸した武器・弾薬を買い漁り、輸送機を送り込んでシリアの反体制派に供給した。

 3つ目はイランと良好な関係を維持してきたことだ。カタールの天然ガス資源はペルシャ湾を挟んでイランと通じており、こうした面からも、強大なイランと対立するわけにはいかない事情があった。無論、GCCの盟主であるサウジアラビアがイランと断交するなど敵対関係にあるのを十分に知った上での行動だった。

 カタールは独自政策を進めるに当たって、中東の衛星ネットワーク「アルジャジーラ」を設立し、イスラム原理主義寄りの報道を続けさせた。しかし、こうした行動は「ムスリム同胞団」などイスラム原理主義組織の勢力拡大を脅威とし、イランのシーア派革命輸出を恐れるサウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)の強い懸念を招いた。「アラブの春」以降、カタールへの不満がふつふつと続いていたわけである。

引き金になったタミム首長発言

 こうした中で事態は急展開する。カタールのタミム首長が5月23日に行った軍士官学校の卒業式での演説だ。カタール国営通信QNAによると、首長はこの演説で、「ハマス」をパレスチナ人の正当な代表と指摘し、イランについても「湾岸地域の安定のための大国」と呼んだ。

 またカタールがトランプ米政権と緊張した関係にあると述べ、トランプ氏が“短命大統領”であるとの見方も披瀝したという。サウジやUAEのメディアがこの発言を連日、大々的に取り上げて反カタール・キャンペーンを展開する事態になった。

 しかしカタール側は翌24日になって演説を伝えたQNAのウエブサイトが何者かにハッキングされ、ねつ造された記事が掲載されたものと発表。首長の発言を真っ向から否定した。カタールはその後に国連事務総長に出した書簡で「でっち上げで非難の標的にされた」と主張した。

 カタールはこのハッキングを証明するため、米連邦捜査局(FBI)に捜査を依頼。FBIの捜査官がカタール入りして調査を行い、近くこの捜査の結論が出るとされている。ハッキングの真偽は不明だが、「カタールがはめられた」などとする陰謀論も渦巻き、サウジやUAEのカタールに対する深い不信感を浮き彫りにしている。

トランプのお墨付き

 今回の動きは引き金がタミム首長の発言だったにせよ、トランプ大統領の5月のサウジ訪問の直後に起きたことと無縁ではない。トランプ氏はサウジでイスラム世界の指導者を前に演説し、テロとの戦いでの結束とイランの脅威を強調した。

 ベイルート筋は「サウジやバーレーンはこのトランプ氏の姿勢を反カタールの動きを容認するゴーサインと受け取った。米国のお墨付きをもらったというわけだ」と分析した。バーレーンはトランプ氏のサウジ訪問の直後から反体制シーア派への弾圧を始め、5人が死亡する事態になっている。

 トランプ氏は6月6日「アラブの指導者らが過激主義への資金提供に厳しく対処すると宣言した。それはカタールのことを指している」とツイートし、サウジなどによる断交を支持する姿勢を示した。

 トランプ政権はサウジが反カタールの攻勢を開始することを事前に知っていたのだろうか。サウジを現在、実質的に取り仕切っているサルマン国王の息子、ムハンマド副皇太子とトランプ氏の娘婿ジャレッド・クシュナー大統領上級顧問の2人が極めて近い関係にあることを考えると、少なくとも示唆されていたのは間違いあるまい。

トルコは制裁に反対

 しかしティラーソン国務長官、マティス国防長官が事態を憂慮し、調停に乗り出す姿勢を示していることを見ると、知らされていたのはホワイトハウスのほんの一握りだったと見るのが妥当だろう。

 米国の過激派組織「イスラム国」(IS)への空爆作戦の司令部はカタールのアルウデイド空軍基地に置かれており、今回の反カタールの動きが大詰めを迎えた対IS作戦に支障になる懸念もある。

 またトルコのエルドアン大統領がカタールへの制裁に賛同しない、と批判するなどアラブ世界の分裂と分断が深まる様相を示している。こうした混乱が拡大すれば、2022年にカタールで開催されるFIFAワールドカップをボイコットする動きも出てくるかもしれない。影響は計り知れないほど大きい。
 

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