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電機メーカーが消えても日本人の創造のスピリットは死なない

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■復活のための留意点

ただ、再生について言えば、今の日本には若干気になる点がある。雄々しく復活することを可能とする材料はあり、人材もいるが、それをうまく生かしていくことができるかどうかという点では、まだ高いハードルが待ち構えていると言わざるをえない。その点につき、以下に申し述べておきたい。3点ある。

(1)金融経済化の罠に落ちないこと

バブル崩壊以降のいわゆる『失われた20年』の間中、日本的経営は、あらためて批判にさらされ続けた。その中には甘んじて受けるべき貴重な意見も多く含まれてはいた。ただ、日本の市場の仕組みを米国を真似て、金融経済化する動向を良しとする傾向には、否を唱えておきたい。米国では、80年代のレーガン・サッチャー革命以降、金融の徹底した自由化が進み、企業のステークホルダーとしては株主一強となり、企業経営者は、短期に収益をあげ、同時に株価時価総額を上げることばかり求められるようになった。その結果、今ではどの企業も、4半期収益を上げるために、長期投資をせず、従業員を育てようともしない。また株価時価総額を上げるために、余剰資金を投資に回さず、自社株を買い漁る。その結果、米国企業のイノベーションを起こす力は、全体で見ると、明らかに衰退してしまった。

 実際、今世界を席巻している米国のITジャイアントは、短期収益拡大を求める株主を押さえこめる力量のある企業ばかりだ。中でも、EC大手のアマゾンなど、徹底した顧客目線で、多額の長期投資を継続して行い、売り上げは増えても、収益は何季にも渡って赤字を続けた。Googleも株式公開にあたっては、『外部からの圧力に負けずに長期的な投資を続けるために、創業者が支配権を維持することが株主とユーザーにとっても最良と判断した』と説明し、一般株主向けの1株1議決権のクラスA株式と、経営陣が保有する1株10議決権のクラスB株式を分けた。アップルの創業者スティーブ・ジョブズに典型例が見られる通り、新しいことをやるためには、短期的(時には長期的にも)収益を気にせず、クレージーとも言える信念(世界を変える、火星に人類を移住させる等)を維持することが必要だ(維持できる体制も必要だ)。

(2)エクスポネンシャル(指数関数的)な技術の進化の本質を理解する

今後は、どの産業分野でも、デジタル技術の持つ特質である、エクスポネンシャル(指数関数的)な進化の意味するところ、その本質を理解できないのでは、経営の中枢を担うことはできなくなる。だが、今の日本企業の経営者にその理解が浸透しているようにはとても思えない。

この概念の一端を理解するのに、適切なガイドブックと言えそうなのが、エクスポネンシャル・ジャパンの共同代表を務める斎藤和紀氏の近著『シンギュラリティ・ビジネス AI時代に勝ち残る企業と人の条件』だ。*2斎藤氏は、シンギュラリティ大学*3エグゼクティブプログラムを修了して、その経営思想を伝えるエバンジェリストとして活動している。斎藤氏の説明はいずれもわかり易く興味深いが、シンギュラリティ大学の共同創設者の一人、ピーター・ディアマンディスが提唱する『エクスポネンシャルの6D』という部分は特にわかり易い(そして恐ろしい)。

ディアマンディスは、物事がエクスポネンシャルに成長するとき、多くのケースで『D』の頭文字を持つ次の事象が連鎖的に起きると述べているという。

1. デジタル化 (Digitalization)
2. 潜行 (Deception)
3. 破壊 (Disruption)
4. 非収益化 (Demonetization)
5. 非物質化 (Dematerialization)
6. 大衆化 (Democratization)

デジタル化により、エクスポネンシャルの軌道*4に乗った場合、初期段階ではほどんど上昇しないから、直線的な成長をイメージする人にとっては期待を下回るレベルにしかならない(潜行)。今この段階にある新技術の例は多いから、少し注意していれば、多くの人の幻滅の声を沢山拾うことができる。(『ブロックチェーンなど調べてみると使えないことがわかった』『電子書籍は所詮使えず本は紙にかぎる』『スマートフォンは日本人には馴染まず売れない』『デジタルカメラはオモチャにすぎない』等)ところが、ある段階から突如、直線的な成長予想を突破する(破壊)。そして、そうなると既存の市場はあっという間に破壊される。デジタルカメラをオモチャとしか考えていなかったコダック社は市場から撤退し、ガラケーはマイナーな製品の立場に追いやられた。そして、その次の非収益化、非物質化は、スマートフォンが飲み込んだ製品やサービスの数々を見ていればその意味するところはわかるはずだ。アナログカメラフィルム、高額な長距離電話料金、音楽プレーヤー、百科事典等々、いくらでも事例を指し示すことができる。今現在でも続々と数多くのサービスや製品がこの列に並びつつある。このようなことが起きることを理解できない人にとって、最後に訪れるDはDeath (死)ということになる。だが、物事がこのようなステップで進んで行くことを理解できる人にとっては、チャンスは無限に開けている。

シスコシステムズは2017年6月2日、『デジタル変革に向けたビジネスモデル』と題した説明会を開催して、デジタルディスラプター(デジタル変革による破壊者)の脅威について言及し、『既存のトップ10社の4社は淘汰される。破壊が起こるまでの時間は3年だ』と述べている。対象は日本企業だけではないが、日本企業に限ってみた場合、今のままでは淘汰される側の比率はもっと高いのではないかと思えてならない。*5 

(3)日本人の真の創造性に気づく

今の日本人の多くは、自分たちがイノベーションを担いでベンチャー企業を立ち上げることに不向きな、改善は得意だが創造は苦手な民族であると思い込んでいる。だから、創造性が勝利条件となるこれからの世界の競争で日本人は負けていくに違いないというような、悲観的な展望を持つ人が多くなってきている。だが、本当にそうだろうか。アドビシステムズによる、クリエイティビティに関する意識調査『State of Create: 2016』は、米国、英国、ドイツ、フランス、日本の18歳以上の成人約5,000人を対象とした調査だが、それによれば、最もクリエイティブな国は日本であり、最もクリエイティブな都市は東京、という結果となっている。そして、興味深いことに調査対象国のなかで自らをクリエイティブとする回答者が41%もいるのに対して、日本人は13%と極端に低いという。世界からは評価されているのに、日本人自身が気づいていない創造性が存在するということを意味している。今回はその創造性自体の分析には立ち入らないが、このギャップを深く分析して、自らの強みを認識しておくことは非常に重要だ。日本が起死回生をはかるには不可欠の要素といっても過言ではない。*6

■復活は可能だ

日本は、敗戦によって滅びることはなかった。むしろ、敗戦によって、過去の縛らみや、旧弊が瓦解することによって得た自由こそ、再生のための重要な要因だった。『日本の電機メーカーの敗戦』の暗黙のメッセージは、負けた原因をそのままにしておいたのでは、復活はおろか、電機業界での敗戦が他の産業にも波及していく恐れが大きい、というものだろう。だが、この『失敗の原因』に学ぶことができれば、再生できる余地はある。あるどころか、大きな可能性に満ちている。そのことを深く考えてみるべき時期に来ていることはいくら強調してもしきれない。極端に悲観的になる必要もないが、虚勢に満ちた自信過剰は破滅への道に続く。冷静に現実を見て、賢い対処ができる人には道は開ける。それは私の願望でも、妄想でもなく『現実』だ。私はそう確信している。

*1:

東芝解体 電機メーカーが消える日 (講談社現代新書) 東芝解体 電機メーカーが消える日 (講談社現代新書)

*2:

シンギュラリティ・ビジネス AI時代に勝ち残る企業と人の条件 (幻冬舎新書) シンギュラリティ・ビジネス AI時代に勝ち残る企業と人の条件 (幻冬舎新書)

*3:

*4:指数関数 - Wikipedia

*5:http:// http://itpro.nikkeibp.co.jp/atcl/news/17/060201573/?rt=nocnt

*6:http://http://news.mynavi.jp/news/2016/11/10/349/

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