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築地市場の豊洲移転問題の本質を整理してみるー都議選で本来問われるべきこと

6月23日に告示される東京都議会議員選挙、既に前哨戦が始まり、小池知事も遂に自民党に離党届を提出、地域政党「都民ファーストの会」の代表に就任し、着々と臨戦態勢を整えつつある。一方の自民党は、小池知事の人気は依然として高いものの、都民ファーストへの支持が思ったほど高くないことから、選挙戦は都連の仕切りにトーンダウンしたようで、余裕さえ見えるようになってきた。もっとも、それも現時点での話。事前の世論調査でまだ投票先を決めていない有権者が全体の半数近くいるところ、次なる小池劇場の中身によっては、それが大旋風となって都民ファーストが地滑り的勝利を収める可能性も否定できない。いずれにせよ、予断を許さない状況といったところだろう。

 さて、その都議選においても争点の一つとなるであろう築地市場の豊洲移転問題、筆者は拙稿やテレビ番組でのコメントにおいてその本質は土壌汚染紛争であると繰り返し述べてきた。豊洲新市場予定地は土壌汚染対策を行ったことになっているが、基準の100倍の汚染物質が地下水かから検出される等、その範囲と程度が把握できておらず、小池知事が都議会の所信表明演説で謝罪したとおり、豊洲の土壌は無害化できていない。そして、実はこの豊洲の土壌の無害化、豊洲移転予算可決の際に附帯決議に規定された移転・開場の条件であった。つまり、都知事も認めた土壌の無害化未達の状況下では、豊洲移転は不可能ということになるのだが・・・

 ところが、実は問題は土壌汚染だけではないことが、これまでの専門家会議での検討や都議会百条委員会の審議で明らかになってきた。そこで、今回は築地市場の豊洲移転問題は何が問題なのかについて、改めて整理してみることとしたい。

 まず一つは移転予定先の豊洲市場の施設の規模が、現状の需要を反映しない過大なものとなっていること。生鮮食料品の卸売市場経由率は全国的に減少の一途を辿ってきており、そうした中で、市場開設者である各地公体は様々な活性化策を講じたり、中央卸売市場から自由度の高い地方卸売市場に転換して運営を民間に任せたりと、試行錯誤を重ねてきている。現在の築地市場に関しては、そうした市場経由率の減少を反映してか、築地で商売をしていた卸・仲卸事業者の廃業が相次ぎ、市場を利用する卸・仲卸事業者が往時の半分程度になってしまっているようである。

 これがために、仮に豊洲市場に移転したとしても、減価償却費を含めて年間100億円の赤字が発生してしまうことになると試算されている。市場経由率の減少傾向がさらに続けば、この額はさらに大きくなることも想定されよう。

 一方の築地市場、明らかとなった土壌汚染は基準値の数倍程度と、対策にはそれ程手間とお金はかからないものと思われるが、それよりも問題なのは移転せずに築地に残って改修する場合の費用と時間である。まず費用については最低でも800億円必要であると見込まれている。次に期間であるが、市場を使いながら改修工事を行うことになるので、完了までに20年は要すると見られている。しかしこれらはあくまでも様々な仮定を置いた現段階での想定であり、金額が上ぶれしたり、期間が長期化したりする可能性は否定できないだろう。

 巷では即刻豊洲移転だ、築地に残って改修だと引っ張り合いが続いているが、こうした問題を踏まえれば、まさに「(豊洲に)移るも地獄、(築地に)残るも地獄」と言ってもいいような状況というのが、実態ということであろう。(そうなると、現状は煉獄と言ってもいいかもしれない。特に事業者の方々にとっては。)

 しかし、そもそもなぜ豊洲移転という話になったのだろう?都議会百条委員会での審議を通じて明らかになったことであるが、話はバブル期の都の臨海開発事業にまで遡る。当時都は、旺盛なオフィス需要に応えるべく、いわば都の不動産事業として臨海部の開発を進めていた。ところがご承知のとおりのバブル崩壊で進出を予定していた企業は軒並み撤退、都が開発したオフィス予定地だけが残った。そこで、当時の鈴木都知事が都市博覧会を開催することでなんとか切り抜けることを考えたのだが、都知事選で無党派層に推された青島幸男候補に破れてしまう。(無党派層の投票行動が注目され始めたのもこの頃で、大学院進学直前の筆者は、指導教授の指示の下、大学院の先輩方と小雪まじりの雨の中、都知事選の投票行動についての事前調査を行っている。)この時の都知事選の争点の一つが都市博開催の是非であり、青島候補は中止を掲げていた。当選し、知事に就任した青島氏は直ちに都市博の中止を決定、臨海開発の赤字2兆円が残ってしまった。

 この巨額の赤字をどうするのか?そこから出てきた苦肉の策が築地市場用地の売却と豊洲移転であった。とまあこの辺りまでは、断片的ではあっても報道等でご存知の方もおられるだろう。しかし、最大の問題は、それに当たり臨海地域開発事業会計から中央卸売市場会計に巨額の赤字を付け替えたことであり、これが今日にまで至る築地市場の豊洲移転問題の本質と言っても過言ではないように思われる。(この付け替えについては、百条委員会での証言について偽証の認定を受けた浜渦元副知事でさえ承知していなかったようである。)

 つまるところ、豊洲移転問題は、築地市場云々の問題と言うよりも、バブル期の開発の失敗とその後の都知事や都の政策や判断の誤りが積み重なった結果であると言ってしまっていいだろう。それに振り回された関係事業者や都民からすれば、いい迷惑では済まない。

 さて、小池都知事、こうしたことを踏まえてどう対処するのか?ここへ来て俄かに現実味を帯びて浮上してきた第三の道がある。大田市場への移転である。この話は一部の関係者の間では現実的な解決策として以前から考えられていたようであるし、筆者も検討してしかるべきことを何度もコメントしてきているし、既に築地から大田市場に移転した事業者もいるようである。その大田市場、実はまだまだスペース的に余裕があり、更に、必要十分な施設の増設が可能な土地も残されている。(かつては水鳥たちが集まる水辺で保護されていたが、いつしか水鳥たちはいなくなり現在ではカラスの集積地になっていてそこを市場事業用地として開発し、関係施設を建設してもなんら問題はないと聞いている。)

 大田市場は羽田空港から至近距離にある。高級品を中心に、東京に空輸される生鮮食料品は多いところ、これは大いなる強みである。

 ただし、築地市場が大田市場に移転する場合、豊洲新市場への場合とは違って、市場が統合されることになるので、卸売市場の数が一つ減ることになる。土壌汚染の問題もないし、費用的にも万年赤字の豊洲や「ながら」改修で時間も費用もかかる(とはいっても最低額は豊洲の想定赤字額8年分だが。)築地に比べて圧倒的に優位のようなのだから、卸売市場が一つ減ろうがどうでもいいではないか、これが一般的な見解だろう。ところが、現在東京中央卸売市場としては、築地や大田を始め11の市場があり、それぞれに「利権」があるとのことのようで、数を減らすということはタブー視されているようなのである。「利権」の具体的な中身は何なのか、それは明らかではないが、これがために大田市場への移転、もとえ築地市場の大田市場への統合は検討の俎上に載せられることはないようなのである。

 いやはや都民にはなんとも複雑怪奇な話である。東京大改革を掲げる小池知事、この問題にどこまでメスを入れられるか?有権者は要注目である。

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