- 2017年06月01日 13:43
台湾で同性婚が成立の見通し:司法院大法官の憲法解釈を読む - 福永玄弥 / クィア・スタディーズ・東アジア研究
2/2「違憲」判断の根拠(2):「婚姻の自由」
大法官の解釈文は、同性カップルを婚姻から排除する民法が違憲であると判断したもうひとつの根拠として、憲法第22条の規定する「婚姻の自由」を挙げている。解釈理由書いわく、
婚姻適齢にあり、配偶者のいない人民は結婚の自由を有しており、これには「結婚するか否か」および「誰と結婚するか」の自由が含まれる。この自己決定権は人格の健全な発展および人間の尊厳の保護に関する重要な基本的権利であり、憲法第22条が保障するところである。
そして、婚姻適齢にある同性カップルにも憲法第22条の規定する「結婚の自由」は保障されるべきであり、民法は「同性の二人が共同生活を営むことを目的とし、親密的かつ排他的で永続的な関係を形成することを認めていないが、これは立法上の重大な瑕疵である」としたのである。
近年の台湾において、同性婚の合法化をめぐるイシューは世論が二分されるほど社会の高い関心を集めており、合法化反対派による大規模な集会やデモが全国規模で発生している。解釈理由書では、同性婚反対派の主要な論拠に反駁するかのようにさらに踏み込んだ説明を加えている。いわく、
同性の二人が共同生活を営むことを目的とし、親密性かつ排他性を有する永続的な結合関係を形成することは、異なる性別の二人に適用される婚姻章第1節から第5節までの婚約、結婚、婚姻の効力、財産制および離婚などに関する規定に影響を与えず、また、すでに存在する異性間の婚姻によって作られる社会秩序に変化をもたらすものでもない。
同性カップルの婚姻制度への参入は、すでに婚姻関係にある異性カップルに不利益をもたらさないこと、また婚姻制度を基盤とする社会秩序に影響を与えることもないと付け加えたのである。
さらに、民法が婚姻の要件として「生育能力」を規定していない点にも言及されている。つまり、婚姻関係にある異性のカップルの場合、「子を産むことができない、あるいは未だ産まないことを理由に婚姻を無効とすることはできず、子を産むことが婚姻の本質的要素でないことは明白」であり、それゆえ、「子を産むことができないことを根拠に同性二人の結婚を認めないことは、明らかに合理的根拠を欠いた差別である」と述べている。
画像を見る(2016年に高雄市で開催された同性婚に反対する大規模集会。撮影筆者)
論争的な政治的イシューへの介入
憲法解釈の主要な論点は以上で検討したとおりだが、解釈理由書では同性婚をめぐる近年の政治動向についても言及されている。理由書に沿って要点を整理すると、まず、2004年に「同性婚姻法」草案が立法院に提出され、2013年にも民間団体が起草した民法修正草案が立法院で審議されたが、いずれも失敗に終わっている。2016年に入って複数の異なるバージョンの民法修正草案が立法院で審議され、同年12月に第一審を通過し、現在は継続審議を待っているところである。
だが、解釈理由書は「今後の審査過程にどれくらいの時間を要するかはいまだに不明である。立法院は10数年に及んで同性婚に関する法案の立法過程を完成させられていない」として、いわく、
本件は……きわめて論争的な社会的および政治的議題であり、民意機関(政府)は民情を理解し、全局の均衡を調整し、折衝協調をおこない、適切な時期に立法(あるいは法律の修正)を執りおこなわなければならない。だが、立法(あるいは法律の修正)が解決される時期はいまだに予測ができず、本件は申請者の基本的人権の保障に関わるものであるから、憲法の職責を厳粛に担う本院は、人民の基本的人権の保障および自由民主の憲政秩序などの憲法の基本的価値を維持するため、時機を逸することなく拘束力を有する司法判断をおこなわなければならない。
かくして、大法官は、異性間の婚姻に認められる法的権利を同性カップルにも保障するよう政府に対して2年以内という期限付きで必要な法的措置を命じ、仮にこの法的措置が取られない場合には、関係機関で婚姻の登記を済ませた同性カップルには配偶者としての法律上の効力が発効するという司法判断をもって政治に介入したのである。
最後に
今回の大法官解釈は、現行の民法が憲法違反であるとしただけでなく、政府に対して期限付きで同性パートナーシップの法的保障を命じるとともに政府が無策の場合の救済措置まで設けたという点で、きわめて画期的な判断であったと評価することができる。鈴木賢が論じるように、台湾では司法院に属する「大法官が非民主的、人権侵害的な法律を無効に追い込むことで、民主化や人権保障が進」んできた歴史があり(鈴木賢「台湾における『憲法の番人』:大法官による憲法解釈制度をめぐって」、今泉慎也編『アジアの司法化と裁判官の役割』アジア経済研究所、2012年)、今回のケースもその流れに位置づけることができるだろう。
ただし、解釈文および解釈理由書を注意深く読むと、民法改正がゆいいつの手段とは明記されておらず、パートナーシップ法の特別立法を含む何らかの方式が取られるべきであるとするに留めていることがわかる。この点を受けて、祁家威およびその弁護団は、特別立法は同性愛者を隔離する方策であり、婚姻制度の不平等が是正されないとして、あくまで民法改正を強く求める声明を発表している。
とはいえ、大法官が現行民法は違憲であると明確に述べている以上、民法改正による、いわゆる「同性婚」が2年以内に実現すると思われる。このことは、言い換えれば、同性カップルの法的保障に向けた同性婚以外の選択肢が不可視化されたと見ることもできる。
というのも、婚姻の平等化を求めて運動を推進してきた台湾伴侶権益推動聯盟が2013年に立法院へ提出した草案には、民法改正案や同性パートナーシップ法(特別立法)以外に、性別や人数を問わない2名以上によって構成される集団に対して共同生活者としての権利を付与するという草案が含まれていた。この最後の案は、「家族」を婚姻制度から切り離すという意味において政治的にラディカルな内容を含む草案であった。だが、そうであるがゆえに社会からも性的少数者のコミュニティからも支持を得ることはできず、今回の解釈を受けて、あらためて「同性パートナーシップの法的保障=同性婚」という図式が不動の位置についたと言うことができる。
さらにいえば、今回の憲法解釈によって、婚姻制度は同性愛者の包摂を通じて制度としての寿命を存続し、婚姻をめぐる規範はさらに強化されたと見ることもできる。実際、解釈理由書は、「婚姻の自由は人格の健全な発展および尊厳の保護に重大な影響を与えるものであり」、親密性かつ排他性を有する永続的な関係を求める欲望にとって婚姻制度は「不可欠」であり、「同性二人の婚姻の自由が法的承認を受けるならば、異性間の婚姻とともに社会を安定させる礎となるだろう」としている(引用部の強調は筆者による)。
この点に関連して付け加えるならば、大法官解釈が発表される1週間前の5月18日には姦通罪の廃止を目指す決議案が司法改革国是会議で採択されたばかりだが、その廃止までには時間がかかるとされ、婚姻制度それ自体が内包する問題を見落としてはならない。
最後に、今回の憲法解釈のニュースは日本でも関心を持って受けとめられた。日本のニュースメディアやSNS上の反応を観察していると、「台湾」のナショナル・アイデンティティが強調されて受容されていることに気がつく。つまり、日本では「反中(国)」の論陣を張る右派が、中国と切り離す形で台湾のナショナル・アイデンティティ(「台湾アイデンティティ」)を積極的に肯定してきた歴史があるのだが(たとえば「台湾は中国の一部ではありません!」運動)、今回のニュースもこのような文脈において、一方では「LGBTフレンドリーな台湾」を称揚しつつ、他方で「LGBTに抑圧的な中国」を批判する言説が多く見られた。台湾の「LGBT」に関する報道が日本の主流メディアでも取りあげられるようになったことを受けて、日中台のナショナリズムをめぐる言説に「LGBT」イシューが利用されるようになったと言えるだろう。
画像を見る 福永玄弥(ふくなが・げんや)
クィア・スタディーズ・東アジア研究
東京大学大学院総合文化研究科博士後期課程、日本学術振興会特別研究員。近刊に「『LGBTフレンドリーな台湾』の誕生」、「台湾におけるフェミニズム的性解放運動の展開:逸脱的セクシュアリティ主体の連帯」(いずれも瀬地山角編『東アジアのジェンダーとセクシュアリティ』勁草書房所収)など。



