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台湾で同性婚が成立の見通し:司法院大法官の憲法解釈を読む - 福永玄弥 / クィア・スタディーズ・東アジア研究

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はじめに

5月24日、台湾で憲法判断をおこなう司法院大法官が、同性カップルの婚姻を認めない現行の民法を違憲とする解釈を布告した。さらに、この解釈文は異性間の婚姻に認められる法的権利が同性カップルにも保障されるよう政府に対して2年以内に必要な法的措置を取ることを命じた。仮にこの法的措置が取られない場合、関係機関(戸政事務所)で婚姻登記を済ませた同性カップルには法律上の効力が発効し、当事者には配偶者としての権利と義務が発生する旨が宣告されている。

台湾では2016年12月に、同性パートナーシップの法的保障の実現を目的とした複数の民法修正案が立法院で第一審を通過し、今秋以降、継続審議が予定されていた。また、蔡英文総統は2015年には同性婚を支持する見解を表明していたが(拙稿「『蔡英文は同性婚を支持します』: LGBT政治からみる台湾総統選挙」)、大法官が憲法解釈を布告した直後にも関連法の整備に向けて速やかに行動することをフェイスブックで宣言している。

本稿の目的は、大法官による憲法解釈(司法院釈字第748号解釈「同性二人婚姻自由案」解釈文および解釈理由書)を読み解くことである。さっそく、以下では必要に応じて台湾の政治状況に言及しながら、憲法解釈を通じて同性婚が承認されるに至った論理を見てみよう。なお、本稿の中国語から日本語への翻訳はすべて筆者による。

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(LGBTパレードで「婚姻の平等化」を要求する人びと。撮影筆者)

同性婚をめぐる30年の闘争

はじめに、憲法解釈の結論部にあたる「解釈文」を確認しよう。現行の民法を憲法違反と判断した論拠は次のように説明されている。

民法第4編親族第2章の婚姻規定は、同性の二人が共同生活を営むことを目的として親密性かつ排他性を有する永続的な結合関係を形成することを認めておらず、この範囲において憲法第22条の保障する人民の婚姻の自由および第7条の保障する人民の平等権の主旨に反する。

ここでは、まず民法が同性カップルの婚姻を認めていないことを指摘し、その上で、この点が憲法第22条の「婚姻の自由」および同第7条の「平等権」に反するとしている。本稿でも「解釈理由書」の論旨にしたがって「婚姻の自由」と「平等権」に関してそれぞれ詳しく検討するが、その前に「解釈理由書」の冒頭部を見ておきたい。

「解釈文」に続く「解釈理由書」冒頭部には台湾における同性婚の合法化を求める社会運動の歴史が記されている。その歴史は今回の憲法解釈を請求した祁家威の活動家としての足跡と重複している。

祁家威は、1986年に立法院に対して同性婚の合法化を求めた活動を皮切りに、裁判闘争や政府に対する異議申し立てを約30年にわたって続けてきた。だが、かれの主張はことごとく否定され、その根拠は「解釈理由書」にそって要約すると次のようになる。

まず、1986年に法務部(中央政府)が寄せた回答は、「婚姻の関係は、単に情欲を満足させるというものではなく、国家や社会に人的資源を提供する機能を備えており、国家や社会の存続と発展に関係し……、(それゆえ)同性間の婚姻は……社会の公序良俗に反するだけでなく、我が国の国情や伝統文化にもふさわしくなく、合法化するに及ばない」というものだった。また法務部は1994年にも、民法には「明示的な規定はない」としながらも「婚姻の当事者は一男一女でなければならない」とする回答を与えている。

2013年、祁家威は台北市の戸政事務所に同性パートナーとの婚姻登記を提出しようとして受け取りを拒否され、その後、行政訴訟を起こし、これが大法官の憲法解釈につながった。「祁家威による立法、行政、司法の関係諸機関に対する同性婚の権利を求めた闘争は、30年もの歳月を要した」ということになる。

1980年代から現在までに及ぶかれの闘争の歴史は、台湾が権威主義社会から民主社会へと転換を遂げた時代の変化と見事に重なっている。その30年の間に性的少数者をとりまく環境は劇的な変化を見せ、台湾ではLGBTを含む「ジェンダー平等」が新しい社会規範となりつつある(拙稿「『LGBTフレンドリーな台湾』の誕生」、瀬地山角編『東アジアのジェンダーとセクシュアリティ』勁草書房、近刊)。

以下では、憲法解釈が前提とする台湾社会の変化を確認しつつ、「解釈理由書」を読み進めよう。

性的指向や性自認を包摂した「ジェンダー平等」

台湾がアジアの中でも突出したジェンダー平等な社会であることはよく知られるが、台湾における「ジェンダー平等(性別平等)」は(少なくとも)法の領域においては性的指向や性自認を包摂するものとして推進されてきた。

事実、2004年に制定されたジェンダー平等教育法(性別平等教育法、Gender Equity Education Act)は、性別だけでなく性的指向や性自認などに基づく差別的待遇を教育領域において禁止している(同法の成立過程については、拙稿「私たちが欲しいのは「理解」か、「人権」か?」を参照)。さらに、職場における性別に基づく差別的取り扱いを禁止する法律として2002年に成立した男女労働平等法(両性工作平等法)は、2008年の改正を受けて名称をジェンダー労働平等法(性別工作平等法、Act of Gender Equality in Employment)へと変更し、内容も性的指向や性自認を含む「ジェンダー」に基づく差別を禁止する法に変わっている。

また法制度以外の事例を見ても、台湾の徴兵制は1994年には「同性愛は疾病ではない」としてオープンリーなゲイ男性の包摂へと舵を切っている。つまり、徴兵制度は(オープンリーな)ゲイ男性にも国民の義務として「男性」に課された兵役への参与を義務づける方針を打ち出し、性的指向に基づく差別的待遇を禁止したのである(拙稿「同性愛の包摂と排除をめぐるポリティクス:台湾の徴兵制を事例に」『Gender and Sexuality』12号、近刊)。

「違憲」判断の根拠(1):「平等権」

以上を整理すると、台湾では1990年代から2000年代にかけて性的指向や性自認に基づく差別を禁止する制度が段階的に整備されていったのであり、その意味において同性愛者の婚姻制度からの排除を「差別」と判断した大法官の憲法解釈はかならずしも突飛なものでなかったと見ることもできる。

実際に「解釈理由書」を読むと、性的指向については憲法第7条の規定する「平等権」との関連で次のように言及されている。

憲法第7条は「中華民国の人民は、男女、宗教、人種、階級、党派の別を問わず、法の下に平等である」と定めている。本条文は差別禁止の事由を5つ示しているが、これらはただの例示であって、そのすべてではない。その他の事由、たとえば心身の障害や性的指向などに基づく差別的待遇も本条文の平等権の規範が及ぶ範囲とする。

続けて、同性愛者が人口構成上だけでなく「政治的マイノリティ」でもあることが説明されている。まず、性的指向は「変えることが困難な個人の特徴」であり、医学的にも疾病とされていない点を確認したうえで、いわく、

これまで、我が国では、性的指向が同性に向かう者は社会の伝統や慣習によって受け入れられず、長期にわたってクローゼットの中に閉じ込められ、さまざまな実質上あるいは法律上の排斥や差別を受けてきた。また、性的指向が同性に向かう者は人口構成の要因から、社会で孤立し、隔絶された少数派である。さらに、ステレオタイプの影響から、久しく政治的マイノリティとされ、一般的な民主(政治の)過程を通じて法的に劣位に置かれたその地位を覆すことは困難であると考えられる。

ここで「マイノリティ(弱勢)」という言葉の用いられ方に着目したい。「マイノリティ」とは1990年代に流行語となった言葉で、その背景のひとつには台湾における多文化主義への関心の高まりがあった。

台湾では1987年に戒厳令が解除され、1990年代を通じて民主化を背景とした政治改革が進められた。日本の植民統治から解放された1945年以降、国民党政権下でエスニック・マイノリティは政治的に周縁化されていたが、90年代には「族群融和(エスニック・グループの融和)」が主要な政治課題とされた。そして1997年には第4次改憲によって多文化主義の理念が憲法に導入され、「マイノリティの承認」が社会統合の新しい理念として共有されるに至った(若林正丈『台湾の政治:中華民国台湾化の戦後史』東京大学出版会、2008年)。

同性愛者も「政治的マイノリティ」であり、そうであるがゆえに民主主義的政治過程を通じてその劣位を覆すことが困難である。だからこそ性的指向を理由とする差別的待遇は憲法に照らし合わせてその合理性を厳格に審査しなければならないのであり、その結果、同性カップルの婚姻制度からの排除は憲法7条の「人民の平等」に反すると大法官は判断したのである。

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