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最低賃金、平均823円の現実(雨宮処凛)

4月、埼玉県のマンションで火事があり、留守番をしていた0歳から5歳の子ども3人が重症を負った。そのうち、4歳の女の子が死亡。この家庭は母子世帯で、30代の母親は仕事で家にいなかった。

この母親がどんな仕事をしていたのか、昼も夜も仕事を掛け持ちしていたのかなどはわからない。しかし、シングルマザーが0歳から5歳までの子どもを残して夜も働きに行かなければいけないというこの国の現実に、「ただの悲劇で終わらせてはいけない」と強く強く、思った。

この家族が住んでいた市には、24時間預けることのできる認可保育園はなかったという。シングルマザーたった1人に家計の担い手と子育て、家事負担がのしかかれば、このような事件が起きないことが「奇跡的な幸運」でしかない。毎晩、子どもだけを残して働きながら、母親はどれほど不安だったろう。

そんな事件が起きる数日前、「最低賃金1500円」を掲げるAEQUITAS(エキタス)の「上げろ最低賃金デモ」に参加した。

デモの前、そしてデモ中のスピーチで、最低賃金(最賃)全国平均823円のこの国の「現実」が紹介された。それは、エキタスがネットで呼びかけた「最低賃金が1500円になったら?」という問いへの回答だ。

一番多かったのが「病院に行ける」だったという。それ以外にも「ブラック企業をやめられる」「ダブルワークしなくて済む」「もやしと鶏肉以外の料理を食べられる」「薬を処方通り飲める」「貯金ができる」などの切実な声が紹介された。

もし、最賃が1500円だったら。

フルタイムで働いても年収300万円には届かないけれど、シングルマザーが子どもを置いて深夜働きに行くような、「綱渡り」の生活をしなくて済むかもしれない。

だけど、今の最賃823円では1日8時間、月に20日働いたとして13万1680円。一人暮らしだってギリギリの額だ。

最近、ダブルワークをして1日15時間働いているという女性に会った。

朝9時から夕方6時までラーメン店で働き、夜8時から深夜2?3時までキャバクラで働くという女性は、「どっちかをクビになってももうひとつあると思うと安心だから」とダブルワークの「利点」を話してくれた。

それくらい、「クビ」が当たり前の環境に生きているのだ。「保険」としてのダブルワーク。だけど、年を重ねれば1日15時間働くことはできなくなっていく。その時に、私たちに「保険」はない。

最賃823円の今を生きる多くの人が、「綱渡り」の現実を生きているのだと、改めて突きつけられた。

(あまみや かりん・『週刊金曜日』編集委員。5月12日号)

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