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トランプが恐れる3つの敵 - 海野素央 (明治大学教授、心理学博士)

 今回のテーマは「トランプ初外遊に影を落とす『ロシアゲート疑惑』」です。ドナルド・トランプ米大統領はなぜ初外遊に中東を選択したのでしょうか。成果はあったのでしょうか。どのような思いで主要7カ国(G7)首脳会議に臨んだのでしょうか。本稿では、まずトランプ初外遊を分析し、次に選挙期間中にロシア政府とトランプ陣営が共謀していたのではないかという「ロシアゲート疑惑」に関して述べます。その上で、トランプ弾劾促進の3要素を紹介します。

異なった宗教に橋を架ける仲介者

 トランプ大統領の中東訪問は一言で言えば、関係修復外交でした。リセット外交とも言えます。オバマ前政権で冷え込んだサウジアラビア及びイスラエルとの関係修復が目的であったことは明らかです。

 選挙期間中トランプ大統領は「イスラム教過激テロ」と呼び、一部の有権者が持つ「イスラム教徒=テロリスト」というステレオタイプ(固定観念)に訴え成功しました。大統領就任後は例のイスラム圏7カ国入国一時禁止の大統領令に署名し、その後対象国を6カ国に修正して大統領令を発令したのです。イスラム教徒を標的にしているのは明確です。ところが、今回の「米アラブ・イスラム・サミット」における演説では、イスラム教徒ではなくテロリストを共通の敵にして「善対悪」にすり替えて関係修復を図ったのです。

 トランプ大統領は映像に訴える外遊も行いました。その代表がエルサレム市内にある「嘆きの壁」を訪れ、キッパというユダヤ人男性が頭に被る小さな帽子を被り、右手を壁に触れて聖地に敬意を示している姿です。同大統領は、壁の石の隙間に神への祈りを書いた紙を入れました。イスラエルのユダヤ教徒のみならず、米本土のユダヤ教徒の有権者も意識した行動と言えるでしょう。

 トランプ大統領は中東に加えてバチカンを訪問し、今回の外遊を通じてイスラム教、ユダヤ教並びにキリスト教といった異なった宗教に橋を架ける仲介者というメッセージを発信しました。ただその手法は選挙期間中と変わらず、対立構図を用いて融合を図るというものでした。今回はイランを敵にしたわけです。対立構図を利用する同大統領は、本当の平和構築者とはとても言い難いです。

6対1

 一方、G7ではトランプ大統領は「リーダーの中のリーダー」及び「首脳の中の首脳」という演出を行いました。貿易分野では「不公平な貿易慣例に断固として反対しつつ、開かれた市場を維持し、保護主義と闘うという関与を再確認した」という首脳宣言が発表されました。

 前半の「不公平な貿易慣例に反対」はトランプ大統領、後半の「保護主義と闘う」は6カ国首脳の主張を反映しています。今回の貿易分野における首脳宣言は、同大統領と他の首脳の意見を折衷した形になっています。その背景には、自由貿易か保護貿易かを巡って6対1(同大統領)の議論になったことが窺えます。ドイツのアンゲラ・メルケル首相は、地球温暖化対策におけても6対1(同氏)になったと語っています。 

 中東における関係修復は、トランプ大統領にとって困難な課題ではありませんでした。それに対してG7では、貿易分野や地球温暖化対策において各国の首脳から抵抗にあったわけです。同大統領は今回の初外遊の成果を「ホームラン」と自画自賛していますが、100%満足のいくものではなかったはずです。というのは、外遊の成果は米国民のロシアゲート疑惑から目を逸らすことができなかったからです。

トランプとコミーの不思議な握手 

 2017年1月22日ホワイトハウスでトランプ大統領とコミー前連邦捜査局(FBI)長官は、実に不思議な握手を交わしています。2メートル3センチのコミー前長官は、長いリーチを利用して同大統領と離れた距離から手を出して握手をしたのです。ところが同大統領は握手をした右手を使ってコミー氏を自分に引き寄せて、次に左手で同氏をおさえてハグをしています。同大統領の過剰型握手とハグに対して、同氏は消極的な反応をみせています。

 2017年3月にコミー氏と会食をした友人は、当時の同氏の心境について米メディアのインタビューに答えています。この友人によれば、上の出来事に関して同氏が情報機関の長官として大統領と適切な距離を保ち、ホワイトハウスが及ぼす政治的影響力からFBIを守ることを考えたと言うのです。

 コミー氏は今月30日以降に議会で証言を行います。公聴会ではトランプ大統領との会話をメモした「コミーメモ」が証拠として提出されるのか、メモと証言の内容の中に「司法妨害」と判断できる材料があるのか、ロシアゲート疑惑を解明する手がかりが見つかるか、がポイントになります。それらに加えて、公聴会で同氏が友人に明かした正直な気持ちを語るのか、トランプ大統領が忠誠心を求めた時脅迫じみた言い方をしなかったのかについても証言するのか注目です。

弁護士チームの結成

 トランプ大統領の外遊中に、米メディアは同大統領がロシアゲート疑惑の対抗措置としてホワイトハウスの外に私的な弁護士チームを結成したと報じました。チームの中心人物がマーク・カソウィッツ氏です。カソウィッツ氏は同大統領の離婚問題からカジノ倒産及びトランプ大学詐欺疑惑まで顧問弁護士を務めてきました。

 トランプ大統領の私的なチームですから、納税者ではなく大統領自身が弁護士費用を支払うことになります。ちなみに米メディアによりますと、カソウィッツ氏の時給は1500ドル(約16万7000円)です。大統領就任からわずか120日余りでこのような私的な弁護士チームが形成されるのは異例中の異例です。

 トランプ大統領にはロバート・モラー特別検察官率いる捜査チームが最終的に自分を捜査対象にするという読みがあるのです。今後、同大統領は大統領として統治に時間を費やすよりも、ロシアゲート疑惑の解決に時間を割くことになるでしょう。

トランプ弾劾促進の3要素 

 リャード・ニクソン元大統領は弾劾訴追されましたが、罷免される前に辞職しました。米世論調査機関ギャラップ社による辞職直前の同元大統領の支持率は24%でした。ギャラップ社が実施したトランプ大統領の週の平均支持率(2017年5月15-21日)は38%です。

 前回の「反面教師にしたいトランプのクビの切り方」で説明しましたが、同大統領の支持率が仮に30%以下に低下すると弾劾がかなり現実味を帯びてくるでしょう。

 弾劾の危機に直面したジョンソン、ニクソン及びクリントンの各大統領と比較しますと、トランプ大統領にはユニークな弾劾促進の3要素が存在します。第1はコミー解任によって生まれたFBI職員の結束、第2はフェイク(偽)とレッテルを貼られた米メディアの巻き返し、第3はトランプ政権内に残っているオバマ前大統領に指名された職員によるリークです。同大統領はこれらの3要素を止めることができないと筆者はみています。

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