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やる気を引き出す 「最強ルーティン」をつくる - 堀田秀吾(明治大学法学部教授)

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ボーッとするとアイディアが

では、頭脳労働をしている方の場合はどうでしょう。頭脳労働で一番困るのは、煮詰まってしまった時です。アイディアがどうにもこうにも湧いて来なくなり、八方塞がりになってしまうことがあります。

そんな時に有効なのが、意外にも、何も考えずにボーッとすることです。ボーッとしている時は、意識的に行動している時の15倍〜20倍も脳のエネルギーが消費されているとする研究もあります。

ワシントン大学のレイクルらのブレインイメージングを使った研究では、ボーッとしているときと何らかの行動をしている時の脳の活動部位を計測して比較したところ、ボーッとしている時は、記憶や価値判断を司る部位が活発に活動していたという結果が出ています。

脳が意識的な活動をしているときは、それぞれの活動の種類に応じて特定の領域にエネルギーが集中します。一方、ボーッとしているときは、次の活動に備えていつでも活動できるように、脳全体を準備状態に持っていこうとします。この状態では、脳の様々な部位がネットワークとして繋がります。この状態の脳のネットワークを、デフォルト・モード・ネットワークと言い、新たなアイディアなどが生まれやすい状態になっていると考えられています。

確かに、アイディアを出そうと頑張って、煮詰まってしまい、その時は何にも浮かばなくても、ボーッとしていたり寝ぼけ眼で脳が活動していなさそうなときに、突然アイディアや解決策が浮かんできたりすることがあると思います。あれこそ、まさにデフォルト・モード・ネットワークによって、脳の各領域が相互作用して、創発的に考えが生まれてくる時なのです。

エネルギーが特定の場所に集中していると、新しい情報も刺激も入って来にくいと考えられます。しかし、デフォルト・モード・ネットワークで全体がつながっている状態では、いろいろな情報のやりとりが行われるため、これまで見て来なかったものが見えてくるのです。

煮詰まっている時にこそ、考えなければならない時にこそ、あえてボーッとする。ボーッとするための自分のスイッチも考えておくといいでしょう。コーヒーを飲む。空を見つめる。タバコをゆっくり吸う。自分がボーッとできるアクションを見つけてみてください。

半日前後を会社で過ごす日本の働き方は、ある意味、持久戦のようでもあります。この長丁場を高パフォーマンスで過ごすために、取り入れたいのが昼寝です。NASA(アメリカ航空宇宙局)のローズカインドらの研究によると、パイロットたちに平均約26分の睡眠を取らせたところ、パフォーマンスが34%も向上したとのことです。寝ることにより、セロトニンとドーパミンの分泌のレベルが正常に戻るためです。

最近では、厚生労働省も昼寝を推奨していますから、お昼休み、午後の休憩時間に積極的に軽い昼寝をとるようにしてみてはいかがでしょうか。ただ、寝過ぎは禁物です。本格的な睡眠に入ってしまうと、起きた後も頭が働かない状態が続いてしまうからです。

ヤケ酒は逆効果

さて、仕事と言えば、チームで取り掛かることもしばしば。あるいは、社員が個々の仕事をしていたとしても、同じ部署のメンバーであれば、お互いに元気にやる気を高めていきたいものです。そんな時に有効なのが、お互いに声を掛け合うということです。プリンストン大学の研究チームの実験ですが、脳の活動をモニターしたところ、少し集中力が落ちて来た時に、「集中力が落ちている」と指摘されると集中力が戻る傾向があることがわかりました。つまり、誰かに自分の活動状態を知らされることが大事だということです。

ただ、これを実行する際には、声の掛け方には工夫をしないと、人間関係の面で角が立つこともありそうです。対人コミュニケーションの訓練では、アサーションといって、相手を大切にしながらこちらの伝えたいことを伝える方法が重視されています。まず労いの言葉や褒め言葉を述べて、承認欲求を満たしてから、自分の伝えたいことをやんわりと、時にはっきりと言う方法です。

自分の仕事での元気を取り戻す方法も考えてみましょう。ひとりで黙々と作業をするのは、仕事が捗る場合があるのも事実ですが、同時に心のモヤモヤも溜まって来たりするものです。そんな時、誰かと会話することで心がリセットされた経験があると思います。

これは人と会話をすることで、心身の安定に影響する物質、セロトニンも分泌されるからなのです。その際には相手の気持ちを考えながらコミュニケーションをとることが肝要とされています。相手のことを考える、つまり思いやりです。好意の返報性といって、人は、好意的に接してくる相手には好意を抱く傾向があるという心理学的な原理があります。

周りにやる気を出させるという意味では、残り時間などを示すというのも有効な方策だと考えられています。たとえば、理化学研究所の水野敬氏の研究によると、45分間の作業記憶課題をやらせ、脳の活動を記録する実験を行ったところ、時間経過と共に脳は疲労を示していたのですが、残り時間を提示したところ、報酬感と関わりの深い脳の部位の活動が活発になっています。つまり、残り時間を示すと元気スイッチが入るということです。これは、当然他人に対しても有効です。

そして、退社後、飲みの時間が始まる人もいるでしょう。飲みと言えば愚痴ですが、これが意外にもみなさんの元気をなくす原因になっているかもしれないのです。

東京大学の野村・松木の研究ですが、ネズミに電気ショックによるストレスを与えたあとにアルコールを注射したところ、かえって電気ショックへの恐怖感が増し、より臆病になってしまったとのことです。お酒を飲んで忘れるどころか、嫌なことの記憶が強化されてしまうのです。

しかも、アイオワ州立大学のブッシュマンらの研究によると、怒りを発散させるためにパンチング・バッグを殴らせた被験者たちは、怒りがおさまるどころか、関係ない人にまで攻撃的になってしまったそうです。仕事の怒りや不満は、お酒で忘れようとしたり、表現したりするのではなく、別の形で解消した方が良さそうだということです。

さて、1日のゴールは睡眠です。やはり良質な睡眠なくして、翌日の元気は生まれません。早めに床について、しっかりと寝て、次の日に備えましょう。

 朝、布団から出られない。ルーティンをやらなくてはならないのにやる気が起きない。そんなときは、「あとでやろうはバカヤロウ!」(だから今やろう!)と自分を叱咤してください。そして、とりあえず体を動かし始めてください。前脳の側坐核にあるとされる元気スイッチを強制的にONにするのです。


1 佐々木光流、塩田正俊(2015)「朝の運動が加算作業成績や記憶テスト成績に及ぼす影響」
2 deBettencourt, Cohen, Lee, Norman, & Turk-Browne (2015). Closed-loop training of attention with real-time brain imaging.
3 Wilkes, Kydd, Sagar, & Broadbent (2016). Upright posture improves affect and fatigue in people with depressive symptoms.
4 Aviezer, Trope, & Todorov (2012). Body Cues, Not Facial Expressions, Discriminate Between Intense Positive and Negative Emotions.
5 Rabahi, Fargier, Sarraj, Clouzeau, & Massarelli (2013). Effect of Action Verbs on the Performance of a Complex Movement.
6 Raichle, MacLeod, Snyder, Powers, Gusnard, & Shulman (2001). A default mode of brain function.
7 Rosekind, Graeber, Dinges, Connell, Rountree, Spinweber, & Gillen (1994). Crew factors in flight operations:IX: Effects of planned cockpit rest on crew performance and alertness in long-haul operations.
8 水野敬(2012) 「報酬感と疲労感の脳内相互作用メカニズムの解明」
9 Nomura & Matsuki (2008). Ethanol enhances reactivated fear memories.
10 Bushman, Baumeister, & Stack (1999). Catharsis, aggression, and persuasive influence: Self-fulfilling or self-defeating prophecies?
ほった しゅうご 1968年生まれ。シカゴ大学大学院言語学部博士課程修了。ヨーク大学ロースクール修士課程修了。著書に『科学的に元気になる方法集めました』(文響社)、『なぜ、あの人の頼みは聞いてしまうのか?』(ちくま新書)など。

<もっと言ってはいけない脳 と心の正体>
「自分」「心」「生きる意味」―これまでの常識は通用しない

●言ってはいけない新幸福論 橘玲

×安藤寿康 「心」はどこまで遺伝で決まるのか
×大竹文雄 経済学は人を「幸せ」にできるか
×池谷裕二 脳の「無意識」を鍛えろ

<明日からできる 脳力10大活用術>

●中野信子 サイコパスだけじゃない 危険な脳の扱い方

●一万人の脳画像でわかった 四〇歳からの脳の鍛え方 加藤俊徳

●脳科学的に正しい「もの忘れ」予防術 澤田誠

●「やる気脳」で中年の危機を脱出せよ 澤口俊之

●やる気を引き出す「最強ルーティン」をつくる 堀田秀吾

●「うつ」になる前に 5分でストレス自己採点 夏目誠

●宇宙飛行士に学ぶストレス対処法 緒方克彦 

●メンタル・トレーニングがスポーツを変えた 生島淳

●テンションが上がる心理学 妹尾武治 

●行動経済学が教える 損しない感情コントロール術 友野典男

●「感情」が鍵を握る モチベーションを高める経営学 入山章栄

●通勤中にもできるマインドフルネス実践講座 川野泰周

●グーグルが本気でマインドフルネスに取り組む理由

●アドラー心理学でうつと戦う 岸見一郎

●なんで勉強するの? 「勉強の哲学」VS.「七回読み勉強法」 千葉雅也×山口真由

●進化論から考える「心」の誕生 長谷川眞理子

●日本人よ、「びくびく」生きるのはもうやめよう 山岸俊男

●ホロコーストの謎に挑んだ心理実験 岡本浩一

●腸と脳の密接な関係 福土審

●性戦略とヒトの進化 坂口菊恵

●実は合理的!?ゲーム理論で解くトランプ戦略 吉野太喜

●ポスト・トランプ時代の政治 堀内進之介

●ナショナリズムが「狂気」を生み出す 土佐昌樹

●山内昌之×佐藤優 大日本史⑥ 二・二六事件から日中戦争へ

●特別講義 土地を知れば日本史がわかる 本郷和人

●テロ対策の権威が警告! 北朝鮮危機の本質 ボアズ・ガノール×佐藤優

文藝春秋SPECIAL 2017年夏号

文藝春秋 (2017-05-26)

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