- 2017年06月02日 09:36
やる気を引き出す 「最強ルーティン」をつくる - 堀田秀吾(明治大学法学部教授)
1/2「元気スイッチ」を入れるには身体を使え!
科学研究が教える「元気が出る」一日の過ごし方
新入社員も、ベテランも、経営者も、活気に満ちた仕事、日常、人生を送るために必要なのは「元気」です。しかし、その元気を出すためには、「元気になろう!」という気持ちだけではどうにもならないことも多いでしょう。ここでは、「元気スイッチ」を強制的にONにする「元気アクション」を考えていきます(ここでいう「元気になる」アクションは、ゼロが10になるようなものだけでなく、マイナスをゼロにリセットするようなものも含まれます)。
なぜアクションなのか? 「元気スイッチ」は脳にあります。脳は、頭蓋骨という暗い密閉空間に閉じ込められているので、それ自体に直接アクセスして動かすことはできません。外部から信号を送り込んで刺激を与えることが必要です。そのような外部からの信号の代表が体の動き、すなわちアクションです。体を動かすことで脳に刺激を送り込み、「元気スイッチ」を強制的にONにすることができるのです。
ここで紹介する「元気アクション」自体は、それほど実行が難しいものではありません。しかし、そういったアクションは自分で「やろう」と思わないことにはできないのも事実です。アクションの開始に強制力を持たせるためには、日々のルーティンを作り、それを守りながら生活することが有効です。
歯磨きは元来面倒なことですが、ルーティンになっているので自然にできます。そしてその結果、歯の健康が保てています。元気スイッチの入力アクションも、歯磨き同様、ルーティンにして、心の健康を保つようにしてしまえばいいのです。
朝の快調なスタートのために
では、具体的にどのようなルーティンをやっていくべきか、1日の行動プランとして考えてみたいと思います。ただ、ここで提案する「元気アクション」ルーティンを全て採り入れる必要はありません。みなさんの生活スタイルに合わせて、採り入れやすいもののみを採り入れてみてください。
まずは朝。朝は頭の働きが鈍くなるものです。特に、睡眠不足の時などは、なんとかしてシャキッとしたい。そんな時に有効なのは運動です。
脳が働くために必要なのは糖分と酸素です。糖分は食事で確保できますが、酸素はそうはいきません。脳への酸素は血液を通して送り込まれます。だから心拍数を上げて、血液を脳にドンドン送り込むために運動をすると良い、というのがハーバード大学医学部のレイティ准教授の主張です。
2015年に行われた山口大学の佐々木らの実験でも、被験者にまずラジオ体操をさせ、そのあとにボールのドリブルやジョギングをさせて(心拍数120‐140拍/分)、計算をやらせたところ、解答数と正答数において良い方向への変化が見られたという結果が報告されています。つまり、運動してから仕事をした方が、頭がよく働いている状態でできるということなのです。
村上春樹さんは毎朝1時間ほど必ず走り、それから午前中に仕事をするというルーティンを持っているそうです。こういう自分独自のルーティンを持っているからこそ、高い生産性で小説を書き続けられるのでしょう。ランニングのために1時間早く起きるのは、日常的に夜遅く帰宅するタイプの仕事ではなかなかハードルの高いことかもしれません。そんな場合は、10分くらいの筋トレはいかがでしょうか。これは筆者自身も実践しています。腕立て伏せやスクワットなどの自重トレーニングなら、自宅で手軽にできますし、一定の心拍数の上昇が期待できます。
さて、運動して一汗かいたらひとっ風呂浴びるのも有効です。千葉大学のリーらは、朝、お風呂に入ったり、ミストサウナに入ると、α波が出やすくなるという研究を発表しています。α波は、リラックスした時に出る脳波で、脳を活性化させ集中力や記憶力の向上につながると言われています。朝、シャワーを浴びても、その後、数時間ごとに課題をさせてみると、パフォーマンスの向上が見られたそうです。
お風呂もシャワーも血行を良くしてくれますので、頭をシャキッとさせてくれます。運動の場合もそうですが、血液の巡りが良くなると、脳にもちゃんと酸素が行きますし、肌に与えた温冷の差が刺激として脳に送り込まれるから、脳も活動を開始し、シャキッとするということなのでしょう。
とにかくやり始める
さて、朝の運動、入浴を終え、身だしなみを整えたら、通勤中は、胸を張って歩いてみましょう。
これは、まだまだ発展途上の研究ですが、背筋を伸ばすこととその効果について、近年いくつか研究が発表されています。たとえば、2016年に公表されたオークランド大学のウィルキーズらによる予備調査ですが、軽度・中程度の61人のうつ患者に、胸を張ってもらったところ、肩をすぼめていた人たちよりも、よく話し、ポジティブな気持ちになり、不安も減少するという結果が出ました。また、うつの人たちは、肩をすぼめる傾向があるといいます。
そして職場に着いたら、「よし、今日も頑張るぞ!」とテニスの試合で勝った時のように、ガッツポーズをしてみましょう。
エルサレム大学のアヴィゼールらの研究によると、被験者に勝利した時の顔と負けた時の顔をしてもらい、それに勝利のポーズと負けた時のポーズをつけてもらったところ、被験者は、表情にかかわらず、勝利のポーズをした時にポジティブな反応を示したのです。脳は体の動きに、より騙されやすいということです。ですから、ガッツポーズのような勝利のポーズをすることで、「元気スイッチ」をポジティブに持って行くことができるのです。
なにはともあれ、そうやって得られた元気と共に仕事を始め、活動開始の合図が脳に送られると、脳はその信号を受け、作業するモードに入ります。一度、きっちりスイッチが入ってしまえばこちらのもの。あとは自動運転状態に入ります。
例えば、気乗りがしない時に掃除を始めたらそのまま我を忘れて取り組んでしまうことがあると思います。この、やり始めたらいつのまにかノリノリでやってしまう現象は、「作業興奮」として言及されるものです。脳の研究で著名な東京大学の池谷裕二教授も「やる気スイッチ」のひとつとして挙げている作用です(『のうだま』 幻冬舎)。
身体的運動がパフォーマンスに大きく影響するような仕事をする場合は、そこにちょっとした「掛け声」をつけてみるのも一つの手です。リヨン大学のラバヒらは、ジャンプするときに「ジャンプ」と言いながら飛んだら、平均で約5%ほどパフォーマンスの向上が見られたという研究結果を発表しています。
実はこうした「スイッチ」は、私たちも普段から活用しています。たとえば、立ち上がる時に「よいしょ」、力を入れる時に「ふんっ!」、「おりゃ!」などと言ったり、綱引きの時の掛け声なども全く同じ原理と言えます。ですから、自分の仕事のパフォーマンスを上げるための掛け声みたいなものを一つ用意しておくと良いかもしれません。
- 文藝春秋SPECIAL 2017夏
- もっと言ってはいけない脳と心の正体



