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【日本解凍法案大綱】20章 鶴の恩返し

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今いるこのリビングの向こうにあるドアの奥は寝室だろうか?それとも、ドアの外には、エドワード・ホッパーの絵のように何もなくて、一歩を踏み出したとたんに空中に放り出される仕掛けなんだろうか。まさか。

いったいどんなベッドなのか。ダブル?セミダブル?カーテンは薄い紫ってところだな)

高野の妄想がひろがる。

「私、ずっと少数株主の方たちのことを考えているんです」

「そうでしたか。

私はてっきり、前の社長が持ち出したお金のことかと」

「ああ、あれはもういいんです。あの人はあの人なりの考えがあったんでしょうし。任せていた私がばかだったんです。まあ、手切れ金と思えばいいことです」

「でも、地獄に落としてやるってすごい剣幕でいらっしゃるって辻田が言っていましたよ」

「そのとおりです。くやしかった。 でも、もういいんです。すべて辻田先生にお任せします」

「それがいい。彼女なら大津さんに一番良いことをしてくれます」

「それよりも、このあいだ高野さんが話してらした少数株主のこと。私、気になってならないんです」

「身を切られるよう、って言われましたよね」

「本当にそうなんですもの」

「もちろんわかります。私はムコージマでは社外の取締役ですが、自分でも会社をいくつも持っていますからね」

「でも、どれも上場していらっしゃらない」

「とてもとても、そんな規模ではありません」

「それなのに、会社にはガバナンスがとおっしゃる」

「私自身、いくつもの上場会社の株主ですからね。コーポレート・ガバナンスの議論は多少はわかります。

非上場では、オーナーの他に株主がいるかどうかが分かれ道です。

大木がこんな話をしてくれたことがありました。

『親子上場していると、子会社の社長はたいへんな目に遭うことがある。

親会社が子会社の金に目をつけて貸せと言ってくるのさ。社長としては困ったことになる。断れば、親会社だ、クビになってしまうかもしれない。といって、貸してしまえば自分が社長をやっている子会社の経営に差し支える。親会社は担保なんて出しもしない。子会社の少数株主たちの顔が社長の目に浮かぶ」

「で、その社長さん、どうするんですか?」

「大木弁護士のところに助けを求めてくるそうです。親会社の顧問弁護士では味方になってくれないので話にならない、と言って。

大木は法律意見書を書きます。

『少数株主の立場があるので、親会社からの要求といえども子会社はそんな貸付はできない』、と」

「へえ、なんだか不思議な話」

「でも、それで親会社は引っ込みます。親会社は上場している立派な会社ですからね。

最近も似たことがいくつかありました」

「上場しているって、すごいんですね」

「そう。他人にいつも裸の自分をさらさなきゃいけない」

「まるで小説家」

「渡辺淳一さんがそう言っていましたね」

「裸で往来を歩くようなものだ、って」

そう声に出しながら、紫乃は高野の椅子の後ろに回って両腕を高野の上半身に預け、しなだれかかってきた。高野は一瞬体の動きを止め、立ち上がると全身で紫乃を受けとめた。

(ああ、また同じことが起きる。同じ?違う相手でもしょせん同じ?いや、起きようがない。今の俺は安全な身体だ。)

高野はそう思いながら、手を伸ばして紫乃の上半身をきつく抱きしめていた。

体を離し、唇で唇を探す。紫乃が目を閉じている。

(ああ、ここに15歳の少女がいる。初めて男を受け入れる少女が)

二人、手と手をつないだまま隣の部屋に歩いて行くとベッドに倒れ込んだ。下になった高野には天井の灯りがまぶしかった。

(19章「人はそれぞれのタデを食べる」の続き。21章に続く。初めから読みたい方はこちら) 

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