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「文春対新潮」情報入手のどこが悪いのか

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■情報のためにはあらゆる手を尽くす

この週の文春の中吊りは池上の件には触れていない。だが、新聞広告には「『池上彰』朝日連載中止へ『謝罪すべき』原稿を封殺」のタイトルがあり、「記事中の池上氏のコメントはわずか6行で、急遽差し挟まれたような不自然な印象を読む者に与えるのだ」(新潮)。

池上も、新潮の取材に対して、文春から電話があったのは新潮の取材があった後で、校了日の午後5時半だったと話している。文春の新谷学編集長は最近、『「週刊文春」編集長の仕事術』(ダイヤモンド社)という本を出した。その中で、

「池上彰さんのコラムを朝日新聞が掲載拒否した件では、同日発売の週刊新潮も同様の記事を掲載していることがわかったので、校了日である火曜日の夜に『スクープ速報』を配信した」

と書いている。そのほかにも、文春に中吊りが流れている疑惑があると考えた新潮は、文春側に「不正を止めろ」と通告するのではなく、漏洩ルートを突き止めるための調査を続けた。

新潮が誇る調査力で、漏洩しているのは新聞広告ではなく中吊り広告。新潮の中吊り広告の画像データから、そのPDFファイルがコピーされたのは、文春編集部にあるコピー機であることが判明した。

さらに、漏洩元はどこかを突き止めると、出版取次会社「トーハン」(東京)が、文春の人間に渡していることがわかった。文春の30代の男性が、受け取った中吊りをコンビニでコピーを取っているところを「激写」されている。

しかし、週刊誌といえども編集部員の数からして中規模企業ぐらいはある。梶山季之が書いた『黒の試走車』ではないが、ライバルが何をやっているのか、どんな情報を持っているのかを探ることは雑誌の浮沈、そこで生活しているフリーの記者、筆者たちの生存にかかわるのだから、あらゆる手を尽くして情報を取ることが一方的に悪いといえるのだろうか。

新聞も昔は、抜いた抜かれたで一喜一憂したものである。ここで私の『週刊現代』編集長時代の経験を話してみよう。

こんなことがあった。ライバルの『週刊ポスト』に大物女優のヘアヌード写真集が独占でグラビアに載ることが校了日にわかった。ネタ元は某印刷会社の人間。こういう時のために、その人間とは酒を飲み、ゴルフをやり、親交を深めていた。

ポストも同じ印刷所だった。私はくだんの印刷所の人間に電話して、その写真集が手に入らないだろうかと頼んだ。何とかしましょうといってくれた。

■大スクープを見過ごすわけにはいかない

数時間後、写真集が手に入った。だがその時間からグラビアに入れることはできない。写真集の版元との交渉もしなければならない。そこで考えた。活版の自社広告を2ページ落とし、見開きに写真集を開いて見ている(顔は出さない)人間を、後ろから撮った写真を大きく載せる。

キャプションには「○○女優のヘアヌード写真集が凄い話題!」。中吊り広告は間に合わないので、新聞広告を差し替えてもらって、左トップに「これが女優○○のヘアヌード写真集だ!」と特筆大書する。

当時、ライバルだが、ポストの編集長とは気が合ってよく飲んだ。私より少し下で人柄の素晴らしい温厚な人物だった。その週末も、夜、2人で飲んだ。人の悪い私は、ポストの編集長に「あんたんとこ何かでっかいスクープでもあるんじゃないか?」。彼は「そんなのがあったらいいですけど、ないですよ」ととぼける。

翌週の月曜日、新聞広告を見た彼から怒りの電話がかかってくる。「元木さんひどいじゃないか」。私はこう答える。「怒るのはもっともだけど、こちらも普段から企業努力をしてきて、あんたんとこに大スクープが載るのを黙って見ているわけにはいかないんだよ」。

彼とはしばらく会わなくなるが、そのうちまた銀座の場末のバーで飲むことになる。彼は編集長を辞めて50歳の若さで亡くなってしまった。「ライバルは憎さも憎し懐かしき」である。

文春のやり方に違和感があるのは、自分のところのスクープでもないものを、速報として流してしまうことだろう。それはやってはいけない。私のような週刊誌のすれっからしには、まあ、バレたんだから中吊りを手に入れていたことは認めて、だが、これからもあらゆる手段を使って必要な情報は取りにいくとでも発表したらどうか。

冒頭書いたように、編集長は大胆なだけではだめだ。万が一を常に考える繊細さも要求される。新谷編集長はそれができる人だと思う。

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元木昌彦
1945年生まれ。講談社で『フライデー』『週刊現代』『Web現代』の編集長を歴任する。上智大学、明治学院大学などでマスコミ論を講義。主な著書に『編集者の学校』(講談社編著)『編集者の教室』(徳間書店)『週刊誌は死なず』(朝日新聞出版)『「週刊現代」編集長戦記』(イーストプレス)などがある。

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(ジャーナリスト 元木 昌彦)

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