- 2017年05月26日 12:20
新大統領マクロンはフランス「脱原発」を加速できるか - 杜耕次
2/2欧州の「肩代わり」を務める「東芝」
ムーアサイドでの原発新設プロジェクトの事業主体として、ニュージェンが発足したのは2009年。当初の株主構成と出資比率は、スペインの電力大手「イベルドローラ」と仏エンジーの前身である「GDFスエズ」(社名変更は2015年)がそれぞれ37.5%、英電力大手「スコティッシュ&サザン・エナジー(SSE)」が25%となっていた。
しかし、フクイチ事故の半年後の2011年9月にSSEが「計画当初から乗り気でなかった」と撤退を表明し、保有株を大株主2社に売却。この時点でニュージェン株の持ち分はイベルドローラとGDFスエズともに50%となったが、さらに2013年12月にはイベルドローラも、プロジェクトの先行きを見切って撤退を決めてしまう。
欧州の電力大手が相次ぎ逃げ出した後、肩代わり役を務めたのが東芝である。イベルドローラの保有全株に加え、翌2014年1月にはGDFスエズから10%のニュージェン株を追加取得する。一連の株式取得に投じた費用は、1億200万ポンド(約143億円)。この結果、東芝はニュージェンの発行済み株式の60%を保有する筆頭株主となった。
ただ、この時すでにGDFスエズは事業継続への不安感を強めており、プロジェクトに関係するデフォルト(債務不履行)問題などが発生した場合に保有全株の買い取りを請求できる契約を、東芝との間で締結していた。つまり、将来の情勢変化に備えてリスク・ヘッジを行っていたのだ。今回WHのチャプター・イレブン申請を機にその権利を行使したわけで、東芝は4月4日、契約に従ってエンジーが保有するニュージェン株(発行済み株式の40%)を約153億円で買い取ることになったと発表している。
エンジーのムーアサイド計画からの撤退は、これまで懸念材料の多かった英原発リニューアルプロジェクトを何とか支えていたフランス勢までがついに逃げ出した、と受け止められている。前述のように、エンジーは旧フランスガス公社(GDF)とエネルギー・環境大手の仏スエズが2008年に合併して誕生したGDFスエズが前身。電力事業では石炭火力をはじめ化石燃料依存度が高く、さらにベルギーで手がけている原子力発電を含めて施設の老朽化が進んでいる。
「世紀のM&A」実現か
そんな状況に加え、さらに再生エネ発電の普及拡大による価格下落が欧州電力市場を直撃したことから、エンジーは2015年12月期に46億ユーロ(約5680億円)の巨額赤字に転落する。その結果、2008年の合併以来同社を率いてきた会長兼CEOのジェラール・メストラレ(68)は辞任を余儀なくされ、昨年5月に後任のCEOに就任したのが、2011年からCFOなどを歴任していたイザベル・コシェール(50)である。
売上高699億ユーロ(約8兆6300億円=2015年12月期)のエンジーを率いることになったコシェールは、「フランス経済界史上最も高位についた女性」とされ、マスコミの脚光を浴びた。就任早々、2018年までに総額150億ユーロ(約1兆8500億円)の資産売却を進めるとともに、事業の軸足を再生可能エネに移すと表明。実際、インドでの太陽光発電やメキシコでの風力発電への投資を昨年決めたのに続き、今年に入ってドイツ第2位の電力会社「RWE」の再生可能エネ部門子会社「イノジー」の買収に動いている。イノジーが昨年10月にフランクフルト証券取引所に上場した際の時価総額は、約200億ユーロ(約2兆4700億円)に達しており、実現すれば「世紀のM&A」と騒がれることは間違いない。
三菱重工も苦境に
とはいえ、エンジーは、運転開始から40年以上が経過してトラブル頻発で悪評の高いベルギーのティアンジュ原発の稼働を継続するなど、必ずしも「脱原発」を鮮明にしているわけではない。ただ、コシェールは報道機関とのインタビューで、「100%再生可能エネルギーの世界は可能だ」などと、路線転換にしばしば言及。「イザベルは原発嫌い」との観測が欧州のエネルギー業界関係者の間に広がっている。
その流れで、昨年末には仏有力紙『フィガロ』が、「エンジーがトルコのシノップ原発計画から撤退する」と報じる一幕もあった。シノップ原発には、三菱重工業と仏アレバが共同開発する次世代型中型原子炉「アトメア1」が納入される予定だが、現在トルコの政情不安や稼働後の電力価格を含む事業採算の問題がクリアできず、プロジェクトが暗礁に乗り上げている。エンジーの撤退はシノップ原発計画の「命取り」になりかねず、破綻に瀕している国営企業アレバやそのアレバグループに計700億円の出資を表明している三菱重工業を一段と苦境に陥れる可能性もある。
そんなコシェールに対し、新大統領マクロンがどう出るかが今後の焦点の1つだ。2008年のスエズとの合併前、仏政府はGDFの80%の株式を保有していたが、いまやエンジーへの出資比率は34%。だが、オランド前政権が2014年に制定した「フロランジュ法」(株式を2年以上持つ株主に2倍の議決権を与える)によって、エンジーのような大企業は雇用問題などで政府の影響力を無視できなくなっている。
原発が作る「現行価格の数倍」の電力
ただ、現実は止められない。英NG社の100マイル送電線計画中断はムーアサイド原発だけでなく、ヒンクリーポイントC計画にも大きな逆風になりかねない。ヒンクリーポイントCが「世界で最も高価な原発」と揶揄されるのは、180億ポンドという総事業費だけでなく、原発完成後35年間にわたり、1メガワット当たり92.50ポンド(約1万3000円)と「現行の市場価格の数倍」で電力を買い取ることが固定価格買い取り制度で定められているからだ。
「なぜ、そんな高い電力を買い続けなければならないのか」
英国民のこんな疑問が高じれば、プロジェクトが見直されるのは必至。欧州の電力市場はいま大きな転換期に差し掛かっている。(敬称略)



