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トランプの「バイ・アメリカン」大統領令 - 岡崎研究所

 4月20日付のウォール・ストリート・ジャーナル紙の社説は、トランプの「バイ・アメリカン」や鉄鋼輸入調査命令は保護主義を引き起こし、雇用を救う以上に雇用を犠牲にすると批判しています。社説の主要点は次の通りです。

 「バイ・アメリカン」大統領令と鉄鋼調査命令は保護貿易主義という大失敗を引き起こすだろう。4月18日、トランプは「バイ・アメリカン」政策の再検討を指示した。トランプは「バイ・アメリカン」政策の例外措置の削減を狙っている。国内に必要な製品がないか、そのコストがひどく高い場合、「バイ・アメリカン」の適用例外が認められている。パイプラインに使われる高強度の鉄鋼の殆どは海外で作られている。必要な特殊な鉄鋼を供給するために生産施設を改変することはコストの増大等を招き、労働者の再訓練も必要となる。

 あるパイプライン建設事業に必要とされる品質の鉄鋼を生産する国内企業は5社しかなかったばかりか、いずれも必要量を供給することはできず、必要な直径のパイプは作ることができず、納期も守ることができなかった。別のプロジェクトでは米国企業で入札したのは1社だけで、価格は海外の2倍で、しかも必要な技術、安全要求を満たすことができなかった。

 NAFTAのお陰で米国やカナダの企業は供給チェーンを統合することができた。昨年カナダの鉄鋼業が使った原料の85%は米国から輸入されたもので、ラスト・ベルト地帯の鉄鉱石やアパラチア地域の石炭だった。トランプは、NAFTAは大失敗だと言うが、国境を超える統合は効率を高め公共事業者のコストや納税者のコストを下げる。更に米国の製造業や石炭、鉄鋼業の雇用も支えている。

 4月20日の鉄鋼調査に係るトランプ覚書は危険だ。トランプはロス商務長官に「鉄鋼輸入が米国の国家安全保障を害する惧れはないか」につき調査するよう命令した。もし、国家安全保障を害する惧れありとの結論になれば、関税導入等必要な措置を取れる。

 トランプは既に決心しており、輸入規制は確定的と思われる。輸入規制は鉄鋼価格を上昇させ、米鉄鋼業界が利益を得ることになる。2002年ブッシュ政権が鉄鋼関税を導入した時に起きたことが正にそれだった。経済学者たちは、鉄鋼価格の増大のために米鉄鋼業界全体の雇用を上回る労働者が雇用を失ったと報告している。失われた雇用の4分の1は金属製造、機械、運輸機器や関係部品関係企業で起きた。最悪の失業はトランプ支持地域で起きた。オハイオ州で1万553人、ミシガンで9829人、ペンシルバニアで8400人が失業した。

 トランプは、関税は政治だと考えているかもしれないが、消費者や鉄鋼を使用する者にとっては「反成長税」で、雇用を救う以上に雇用を犠牲にする。

出 典:Wall Street Journal ‘Teeing Up Trump Tariffs’(April 20, 2017)
https://www.wsj.com/articles/teeing-up-trump-tariffs-1492730494

 「バイ・アメリカン」政策の再検討と鉄鋼輸入調査開始という二つの措置について、ウォール・ストリート・ジャーナル紙の社説が極めて明快な批判をしています。関税を掛ければ鉄鋼価格が上昇し、消費者やそれを使う企業のコストが高くなり、国全体としては雇用を失うとの議論は明快です。

 措置の目的は、「バイ・アメリカン」の適用例外をできるだけさせないことであり、鉄鋼についてトランプは既に内々輸入規制を決めていると社説は述べます。調査結果は270日以内に出すことになっていますが、トランプは50日以内には出るだろうと述べました。セーフガード等ではなく安全保障を理由に輸入規制をやろうというのは少々問題でしょう。数値に基づく議論も難しくなります。安全保障と経済ナショナリズムが結びつくと厄介です。1989年のブッシュ政権発足時に起きた日米FSX(次期支援戦闘機開発)問題を思い出します。

 トランプが貿易の分野でも動き出しました。1月23日にはTPP離脱を通報しました。2週間以内にはNAFTAの報告も出すといいます。トランプ政権は4月29日で発足後100日を迎えましたが未だ主要な実績がありません。最近のワシントンポスト紙とABCの世論調査では、歴代大統領の中で支持率が最も低い新大統領となっています。国民は離反しています。このことも貿易分野で選挙公約を前に進め実績を作ろうとの動機になっているのでしょう。

 トランプの貿易経済側近の力関係がどうなるかも注目されます。バロンやナヴァロなどの強硬派に対してロスやムニューシン(財務長官)、コーン(NEC)、クシュナーなどが一線を画すのかどうかです。貿易政策も国防と同様に穏健化を強いられるのかどうかです。

今回の措置は中国を狙ったもの

 今回の措置は中国を狙ったものだと言われます。しかしトランプは、目下の米中関係を配慮したのか、中国を狙ったものではないと述べました。他方、ロスは「鉄鋼生産能力を減らすとの中国側の繰り返しの主張にもかかわらず」輸入は増えていると指摘しています。他方、韓国では、米国によるアンチ・ダンピングや相殺関税への警戒が高まっています。

 国家安全保障を理由に鉄鋼輸入規制が行われると、それは1995年のWTO発足後初めてとなります。WTOの紛争処理手続に提訴されるかもしれません。そうなればトランプ政権はWTOへの攻撃を強めるでしょう。そのような事態にならないように、日本は他の有志国と連携しWTOと戦後の国際貿易秩序を守っていかなければなりません。その意味で日本はEUとのFTA交渉妥結を図るべきですし、更に当面米国抜きの「TPP11」を進めることは極めて賢明な戦略だと考えられます。

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