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「過剰な社会保障が負の連鎖を生んだ?」在英ジャーナリストが語る英国暴動の正体

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移民の受け入れを制限しても効果はない?
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イギリスの主要都市では暴行、放火、略奪が行われた。(AP/アフロ)

―教育程度の低い自国民を雇うよりも移民を採用するというような動きも企業側にはあるのですか?

それも非常に大きな問題です。有色人種の移民は昔からいたんですが、2004年ぐらいからEUの拡大に伴い東欧からも移民が入ってくるようになったんです。特にポーランド系が多いのですが、みんな優秀なんです。以前は移民と自国民の対立というと有色人種と白人の対立という図式でしたが、今は白人同士の対立になっています。移民は、外国にくるぐらいですから教育程度も高い。そうなると国内の白人で貧しい人たちは不利な状況におかれてしまいます。こうした状況ですので、国内では英国国民党(BNP)やイングランド防衛同盟(EDL)という極右組織が支持を得ています。

また、現在の連立政権の中でも、右よりの人が支持を得ているように思います。現在はユーロが危機的な状態にありますから、この機会にEUから完全に離脱すべきだなんていう  意見も出ています。

―そういう動きの代表的なものとして、2010年に発足した保守党・キャメロン内閣成立後に行われた、政府主導の英国国境庁(United Kingdom Border Agency、学生、労働ビザの審査や発行を行う政府管轄の機関)によるビザの規制などがあるのでしょうか?

移民の抑制は、保守党が掲げていたマニフェストの一環なんです。本当の問題は、東欧などから入ってくる移民の存在なんですが、それは規制できないんです。だから、EU圏ではない地域からの移民を規制するようにしています。

―移民を規制すると、今まで移民が担っていた産業が手薄になるというデメリットもあると思うのですが

それも問題です。NHSという国民健康保険サービスには多くの移民出身者が働いています。それに先程も申し上げたように、EU圏外からの移民を規制してもあまり意味はないんです。実際に白人の自国民の雇用を奪っているのはEU圏内、あるいはかつて大英帝国の一部だったインド、パキスタンなどの出身者やその子孫ですから。しかし、保守党としては、そういう事実を公にしようとはしていません。ただ、一部の右派の国民に対するパフォーマンスになっているようです。

―お話をお伺いしていると、手厚い福祉政策が一部の人々の働く意欲を奪っているように思うのですが。

今イギリスでは10代のシングルマザーが増えているんですね。ボーイフレンドがいても、政府からの支援を受けるためにあえて結婚しない人もいます。そういう環境で生まれた子どもが同じように社会保障だけで生きていこうとする負のスパイラルに陥っています。
そのため、一部の社会保障を削減しようという動きも出てきています。具体的にはIncapcity benefit(障害者に対する社会保障)を減らそうとする動きです。また、本当に受給資格があるかどうかの調査にも力を入れるようになっているようです。

今保守党は法的に結婚しているカップルに有利な税制などを検討しているのですが、それに対しては賛否両論あるようです。難しいのは母子家庭あるいは父子家庭の場合、両方の親がいる状態を「正当」としてしまいますと、個人のプライベートな部分に踏み込むことになるので政治的には正しいといえないわけですね。あるいは、子どもは欲しいけれど結婚はしたくないという人のライフスタイルを否定するようなことにもなりかねません。今は、結婚しているカップルから生まれた子どもの数よりも結婚していないカップルから生まれた子どもの方が多いですし、"結婚を是"とするのであれば、多様な社会を否定することにもなりますから。

―根本的な問題解決を図ることが難しい中で、再び何かのきっかけから暴動に発展する可能性というのはあるのでしょうか?

常にあると思いますよ。暴動が起きた時の抑止力がないですから。警察官が銃を持ってるわけではないですし、若者もそれを知っていますから。常に鬱屈した欲求がありますし、"窃盗しても捕まらないならいいや"という軽い考えを持っている層は常に一定数いますからね。

ただ最近よく「日本でも同じようなことが起こりますか」という質問を受けるのですが、私は日本では起こらないと思います。教育の程度も高いですし、窓ガラスを叩き割って略奪するというような様子は思い浮かびません。

―キャメロン首相は、今回の暴動について「道徳の欠如だ」という発言をしています。

そういう意味では、日本はまだまだ安心だといえるでしょうね。「道徳の欠如」というと大層なことのように聞こえますが、根本にあるのは良心がしっかりと機能するかどうかといった非常に単純な問題ですから。

プロフィール


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小林恭子(こばやしぎんこ)。在英ジャーナリスト。新聞業界紙や朝日新聞社「Journalism」などに寄稿。ニュースサイト「ニューズマグ」(http://www.newsmag-jp.com/)を運営。著書に、『英国メディア史』(中央公論新社)『日本人が知らないウィキリークス (新書)』(共著、洋泉社)がある。

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小林恭子の英国メディア・ウオッチ



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