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- 2011年11月17日 10:57
「過剰な社会保障が負の連鎖を生んだ?」在英ジャーナリストが語る英国暴動の正体
2/3"家族全員が働いたことがない"という環境にいる若者をどう救うのか
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暴徒は警察と衝突し、多くの地域で店と乗り物に火を放った(AP/アフロ)
例えば日本などでは人種的な差別を受けているですとか、若者の失業率が高い社会が悪いといった、多少同情的な見方をされるようなケースもありましたが、国内ではほとんどそういうケースはなくて"怒り"の方が多かったように思います。背景にある社会問題を解決しようという思いよりも、面白半分で破壊行為や窃盗を行った若者に対する怒りが大きいようです。
―では、今回の暴動後に「若者向けの雇用政策に力を入れよう」といったような動きは起こらなかったのでしょうか?
そういう議論は出ましたが、それよりも純粋に怒りを表す人の方が多かったように思います。ただ、そういった社会問題は放置していいものでもないので、若年層の失業を何とかしたいという思いは政府にはありますし、暴動の原因究明のために調査も進めています。
しかし、現実的には今のイギリスは緊縮財政中で、公的部門の支出を大きく削減しています。今後数年間で非常に大きな規模の人員を削減する予定です。そこで、若者向けの支援策に対してもどんどんカットされつつあります。そして、支援するための予算が十分にはないんですね。
いま最も心配されているのは、暴動によって逮捕された人々が裁判の結果、刑務所に入るということになった時に、人数が多すぎて刑務所のキャパシティを超えてしまうんじゃないかということです。このため、刑務所に入れる代わりに地域でのボランティア活動のようなコミュニティサービスに従事させることにした方がいいんじゃないかという議論も出ています。
一部の左派系、ガーディアン紙のようなメディアでは若者が社会参加できない状態を解決するべきだという論調ですが、大半は"なんで、こんな馬鹿なことをしたんだ"という論調で、具体的に問題となっていることといえば、刑務所のキャパシティへの懸念です。刑務所にひと一人をおくだけで、かなりの額の税金を使いますし、一度刑務所に入った若者は出所後も犯罪を繰り返すという悪循環に陥ってしまう。そのため、若者の失業問題よりも、刑務所のキャパシティ、犯罪者の更正、こういったことに掛かる社会的コストといったものが問題になっています。
というのも、正直どこから手をつけていいのかわからない状態にあると思うんですね。例えば、おじいさんやおばあさんの代から、家族の中で誰も働いたことがないような環境で、読み書きも満足に出来ない。日本では、ちょっと想像できないかもしれませんが、若者でも読み書きが満足に出来ない人がいるんです、綴りがわからないですとか、本が読めないとか、しゃべり方もまともにしゃべれないみたいな。
そういう人たちを救い上げるには、まず親の世代から救わなければならない。先程申し上げたような緊縮財政の中で、そうした投資が出来るのかという問題がある。
現在は大学を卒業した人たちでも就職氷河期なんて言われています。大卒の資格を持っていても職が見つかりにくい状況です。大学に行く人たちは増えているのに、それを受け入れるだけの働き口はない。大卒の人たちですら働き口に困っているというのに、アンダークラスの人々を雇う経営者はほとんどいませんよね。
ですから、今回の暴動を契機にアンダークラスの人たちに対する教育だとか雇用という本当に深い議論があって、それが何らかの現状変革につながるということよりも、ロンドン警察の初期対応のまずさや刑務所のキャパシティなどが問題になっています。問題が大きすぎて決め手がない状況です。
一方でロンドンの市民は非常にショックを受けているように思いました。今までも反社会的行動が小規模で起きているのは知っていましたが、ここまで拡大して警察も止めることができない状況になるとは思っていませんでした。ですから、ロンドン五輪に向けて非常に危機感を募らせています。何らかのテロやちょっとした反社会活動が制御できない暴動に発展する可能性があるわけですし、政治家レベルでは非常に不安を感じているでしょうね。テロは警察が取り締まることができますけど、若者を全員監視するわけには行きませんから。
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- BLOGOS編集部の独自取材企画



