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TPPで国益を守る可能性ゼロの野田政権 - 岡留安則

沖縄の地元紙が一面トップと社会面トップを使って興味深い記事を掲載していた。沖縄タイムスは「軍属4割米(国)で不処分」「06年~10年日本人への公務中犯罪 法務省照会 初の統計」、もう一つの地元紙「琉球新報」は「公務中は軍法会議ゼロ 在日米軍06年~10年 軍属の事件・事故」「4割処分なし」という記事である。
 
 これは、共産党の井上哲士参議院議員が法務省刑事局に問い合わせ、同省が米軍当局に照会して初めて明らかになった新事実だ。軍属というのは、軍人以外で軍隊に所属する、総務、会計の専門技術者や福利厚生に従事している人々を指す。今回の調査では、過去5年間に公務中の在日米軍軍属の軍事裁判はゼロで、処分なしの結果が4割にも上っていることが明らかになったのだ。

 米軍の軍法会議においては、1960年に米国連邦最高裁判所が、平時に軍属を軍法会議に掛けるのは憲法違反という判決を出している。そのこともあって、米軍は軍属に関しては軍法が適用されないために、刑事罰を科すことができずにせいぜい行政処分くらいのレベルなのだ。その行政処分も4割しか科せられていないとは驚きだ。

 今回明らかになったのは過去5年分だけだが、それ以前の期間も入れれば、さらに犯罪を不問にした案件は数限りないはずだ。米兵による事故、事件は特に沖縄では多発している。沖縄に対しては、旧植民地の感覚であり、やっても罰せられないのでやり得という軍属たちの思い上がりもあるのではないか。公務中ということになれば、軍属が交通事故で日本人をひき逃げしても、刑罰を科せられないという事態がありうるのだ。

 これも、結局は日米地位協定の不平等さを長年放置し、改定ではなく運用面での改善で十分としてきた日本政府の怠慢である。今回の米軍側の情報公開に対して、沖縄県民はやり場のない怒りを感じている。特に、遺族の思いを考えれば、当然の事だろう。

 最近、発覚した米軍の杜撰なやり口においても同じ問題が横たわっている。かつてのベトナム戦争時代、米軍はジャングルに潜んでいたべトナムのゲリラ戦士をあぶりだすためにダイオキシンの入った枯葉剤を徹底的に散布していた歴史がある。その結果、障害をもつ子どもたちもたくさん生まれた。まさに米軍は非人道兵器の使用を確信犯として行っていたのだ。

 最近になって、このベトナム戦争時代に、沖縄の米軍基地では枯葉剤が大量に保有され、それを使った訓練が行われていた事実が、外国人ジャーナリストによって告発された。当時、沖縄の基地で働いていた複数の米兵たちによる証言で明らかにされたのだ。しかし、当の米軍当局は問い合わせに対して、「当時の資料は残っていない」と門前払い。軍の機密を盾にした米国の情報隠しは悪名高い東京電力とまったく同根なのだ。

 そんな中、野田総理は米国とのあらゆる関税を撤廃することを目的としたTPP(還太平洋パートナーシップ)への参加に向けて関係国との協議に入ることを表明した。ハワイでのAPEC(アジア太平洋経済協力会議)に大慌てで参加したものの、TPP参加国のオブザーバーとの立場は与えられなかった。新しく参加の意思を打ち出したカナダやメキシコと同等の扱いである。日本が参加の意思を見せたことに対しては、米国などが好意的姿勢を見せているが、「例外なき関税撤廃」に対して日本の覚悟のほどを試している側面もあるようだ。

 しかし、民主党はおろか、野党も「みんなの党」以外は反対の姿勢を打ち出しているように、TPP参加は、単に農業崩壊などの経済的損失をもたらすだけでなく、国の形や伝統文化にまで多大な影響を与える。そこまでのリスクを冒しても参加する価値があるのか疑問だらけである。というか、先に述べたように、軍属の犯罪や枯葉剤の事実関係に関しても米軍との間で対等な交渉力など望むべくもないことは自明である。
 
 極論すれば、戦後一貫して、日本は「戦勝国」米国のいいなりの対米追従外交しかやってこなかった。TPPの交渉も実務レベルになれば、担当するのは霞が関の官僚である。TPPにおいては経産省や外務省を中心に交渉が進められることになる。もはや、日本の外交は戦わずして米国に敗れるみたいなものだ。

 米国とオバマ大統領はこのTPPを財政赤字と雇用不安から脱却するためのウルトラCと位置付けている。関税や規制を撤廃してアメリカンスタンダードで各国から外貨を収奪し、企業の海外進出によって雇用も創出することを臆面もなく公言している。その最大の餌食になるのは、米国に次ぐ経済大国である日本であることは間違いない。米国は以前から、日本政府に対して「年次改革要求書」なるものを突きつけてきた。米国資本が日本に自由に進出しやすいように規制を取っ払えという、恫喝的介入である。それでも、まだ日本にも突っぱねる多少の余裕はあった。

 しかし、今回のTPPにおいては米国も財政赤字で追い込まれた挙句、日本に対してとうとうシビレを切らしたことがよくわかる。野田総理はハワイでのオバマ大統領との会談で、TPP参加と辺野古新基地建設を自ら申し出た。当面の米国の二大要求なのだ。

 メディアの世論調査は、世論操作の面が強いというのが筆者の持論だが、さすがに今回のTPPに関しては国民もあまりにも先行き不透明なままの政治決断に不信感を持ったのだろう。各社の世論調査で、野田内閣の支持率は軒並み低下して40パーセント前半まで落ち込んだ。
 
 自民、民主の支持率もほぼ横並びになった。国内での議論はあいまいかつなおざりで、海外に出ると消費増税をぶち上げたり、TPP参加に意欲を示したり、辺野古新基地建設を約束したりと、小賢しいやり口のパターンが見えてきたせいではないのか。

 特に、沖縄においては県知事以下、県民の8割が反対する辺野古新基地建設のために、外務大臣から防衛大臣まで入れ替わり立ち代わり押しかけ、環境アセスを通告し、最終的な強硬手段の意志も隠さなくなった。基地問題ですら米国とまともな交渉ができない日本政府が、TPPで国益を守るような外交交渉力を発揮できる可能性は限りなくゼロである。野田政権の亡国政治の本質を沖縄県民はとっくに見抜いている。

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