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生き残りを懸けたTBSラジオのネット戦略 目指すは「真のターゲットメディア」 【入江清彦社長インタビュー】

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radikoプレミアムの売上は権利者に分配している

ーradikoはエリアフリー(全国どこのラジオでも聞ける)を有料サービスとして開始しました。でもradikoは放送局がお金を出し合って運営していて、経費的にはマイナスですよね。その売上で協賛金が安くなったりしないのですか?

入江:協賛金というか「配信委託料」というやつですね。radikoは運営コストを皆で出し合うという発想から始まっています。元々はラジオの難聴者対策で、マンションの中の聴取環境を整える為の必要経費だったんですよ。

radikoのユーザーも増えてくれば、配信サーバーの維持費だとか経費も余計にかかるでしょうから、それは変わらないですね。

ーradikoやラジオクラウドは番組の「再配信」になります。芸能事務所などの権利者側ともよくお話する事があるんですが、その部分のギャランティに関してはどのようにお考えでしょうか。

入江:もちろん再放送も含め、全てについて権利が発生するという認識は放送事業者ならみんな持っていると思います。ただ、今はまだ実証実験の段階なので、それがどれぐらいに成長するか、もう少し様子を見させていただきたい。分配しても「メダカの切り身」ぐらいのレベルなので。

そもそも、radikoは無料じゃないですか。エリアフリーはプレミアム会員として月額350円で始めてますけど、エリアフリーにしろ、タイムフリーにしろ、IPアドレスで制御したりするのにシステム費用がかかっていて、radikoとしては350円の収入はシステム改修にあてています。

残りは微々たるものなんです。その中から権利者にはお支払しています。

FMサイマル化はアピール不足

ーそうだったんですね。ノーギャラだと思っていました。電波についてもお聞かせください。AMラジオがFMでも聞けるようになった「FMサイマル化」の手応えはいかがでしょうか。

入江:一番インパクトがあったのは、サイマルを初めた時なんですよ。東京では2015年の12月に、TBSラジオ、文化放送、ニッポン放送の3局が始めました。もちろん今は、日本全国でやっていて、都道府県でいうと5つのエリア以外ではサイマル放送がおこなわれています。

受信に必要なワイドFM受信機も徐々にカーラジオに搭載されつつある。ただまだ、AM・FMどちらの波で聞いてるのか、きちんとアンケートが取れていないんです。

AMと同じものがFMの良い音で流れている事の周知徹底というか、それがまだ十分に行き届いていない。

サイマル開始時にはお金もかけて、TBS、文化放送、ニッポン放送が一緒に協力してキャンペーンもやり、随分話題にのぼりました。

その時には聴取率もグッと伸びていったんですが、その話題がひとしきり終わってしまったら、またジワジワと下がってきている。

音質の良いワイドFM対応ラジオに買い替えて、新しいラジオの楽しみ方をFMで覚えてくれているとは実感として思えないですね。

ただ、FMの方が音も受信環境も良いというのは確かなので、ユーザーファーストで考えれば、AMよりもFMで聞いてくれる方が増えてくるとは思うんですが、劇的に変わるかと思ったら、そうでもないですね。サイマルを粘り強くアピールしていくことが重要です。

「6-4-3のダブルプレー」はもう伝わらない

ー私がニッポン放送で番組制作をしていた頃(2000年〜2008年)「TBSのリスナーは高齢者中心だから、10年したら聴取率調査対象から外れる。待っていればそのうち勝てる」みたいなことを言っていたんです。

あれから10年以上が経ちましたがTBSラジオさんは15年8ヶ月連続首位。新規リスナー獲得のためにどんなことをされているのでしょうか。


入江:僕は「新規リスナーを獲得しないと将来がないぞ」と言い続けているんです。聴取率調査は12歳〜69歳が対象なんですが、12歳から59歳までで取れている数字がだいたい10年後の数字になります。

今のTBSラジオの12歳から59歳は0.5〜0.6ぐらい。(12歳〜69歳は0.9)。

ということは、放っておけば10年後にはそうなるってことなんですよ。だからやっぱりちゃんと新しい人をどの世代も増やしていかないと。特に若い人ですけど。

新規リスナーっていうのは今までラジオを聞いていない人ですから、どうやったらラジオを聞いてもらえるかっていう努力をしなければいけない。

若者のテレビ離れなんて言われていますけど、映像コンテンツはテレビではなくても、ネットでもスマホでも見ているわけじゃないですか。だから映像離れではないわけですよね。

でもラジオはラジオ以外にないんですよ。そもそも今の人は音声コンテンツ自体を聞いていないので、最初にラジオに触れてもらって理解してもらって楽しんでもらうというのは並大抵の努力じゃできない。

ある種のラジオに対してのリテラシーというか、こうやって聞いたらおもしろいですよというか、こうやって楽しんでくださいというものを説教臭くない形で分かりやすく伝えていく努力が求められていると思うんです。

交通情報なんかもラジオ局側は当たり前のように流していますけど、早口で言われると実はなんだか分からないんですよね。どこどこを先頭に何キロ渋滞っていうのは、どういうことなのかとか、通過に何分というのはどういうことなのかと。それをこの前ウチの番組で說明していたんですよ。

それは、僕はすごいいいことだと。そうやってラジオの楽しみ方をレクチャーしていく。そういうことをやっている番組が4月スタートの新番組の中にあったんです。具体的に番組名を言うとスタッフが図に乗ったりするからよしておきますけど(笑)。

野球中継も、昔で言えば「6-4-3のダブルプレー」って言えば分かったんですよね。でも今の若い人は絶対分からないですよ。そういう言葉を放送で使うんだったら、丁寧に說明しないと中継そのものがリスナーに届かない。

ラジオはそういうことをちゃんとやらないと新規リスナー獲得には繋がらないんじゃないかなと。

ー10年後のラジオはどうなっているでしょうか。

入江:分からないですね。多分僕は影も形もないでしょうから(笑)。だからといって無責任に「どうでもいい」とは言いませんが、絶対消えるメディアではないですし、ニーズはあるはずです。

今でもお年を召した方はラジオしか無かった時代のラジオを知っているから、ずっと聞いていただいているんだろうと思うんですよ。だから良さが分かればね、必ずラジオは面白い、楽しめるメディアだと。

ラジオは、アイズフリーといって目は奪われないので、車の運転のように同時に作業も出来ます。受験勉強の時も数学はラジオを聞きながらできるらしいんですよ。国語と英語は言語中枢が邪魔してダメらしいんですが、数字や図形は邪魔しないみたいで。

あるいは理髪店とか漫画家さんの作業は邪魔しないらしいんです。うちの人事でも昔、給料の計算をしたりする作業はラジオを聞きながらのほうが作業効率が上ったらしいです。

「ラジオがそばにいると役立つよ」というものをうまく作れないかなと。「ラジオを聞いたら1ヶ月に3キロ痩せる」と言ったら爆発的にみんなが聞いてくれると思うんですけど、そうはいかないですからね(笑)。

◇プロフィール


入江清彦
1957年生まれ。1980年東京理科大学理工学部卒、東京放送入社。ラジオ本部ラジオ局放送部などで技術職を担当。2000年TBSラジオ&コミュニケーションズ企画局制作部長、2004年編成局長、2006年取締役、2012年4月代表取締役社長。東京放送(TBS)ホールディングスの執行役員を兼任。59歳。

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