- 2017年05月23日 14:11
合格点で妥協しておくか120点まで突き抜けるか。生産効率の性質を理解し、合理的な働きかたを選ぶこと - 「賢人論。」第39回山口揚平氏(中編)
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前編「モノへの欲求が満たされた21世紀、最も価値を持つのは人の“つながり”。豊かな老後のために大切なのは、学び続けること、健康であること」では、コミュニケーションという観点から健康、学び、老いについて語った山口揚平氏。物質的に充足しきった現代社会では、お金よりも「つながり」への欲求が最上位になるという説を展開した。中編では、不合理に満ちた“サラリーマン武士“社会への批判を皮切りに、独自の生産効率論を説く。
取材・文/佐藤 舜(編集部) 撮影/公家勇人
80点か、120点か。合理的な目標設定はそのどちらかしかない
みんなの介護 山口さんは今の日本の働き方に対して批判的な意見をお持ちなのですね。
山口 はい。根本的に、日本の現在のサラリーマン社会はすごく効率が悪くて不合理な仕組みになっています。イメージとしては武家社会に近いですよね、ちょんまげを結って、誰も来やしない土地の門番をずっとやって俸禄をもらっているという。特に大企業はその傾向が顕著です。小さい企業と比べると生産性が圧倒的に低く、3分の1くらいなんです。
みんなの介護 その無駄はなぜ生まれてしまったのでしょう?日本人のメンタリティに由来するのか、それとも制度から来るものなのか…?
山口 制度です。日本は島国なので制度が硬直しやすく、一度縦社会のヒエラルキーがつくられると長く続いてしまうんですよ。
武家社会からヒエラルキー構造の変化がないという意味で、日本のサラリーマンのネクタイは、武士の頭についていたチョンマゲを取り外し、首へ巻き付けただけのものとも言えますよね(笑)。これは冗談としても、そういう古風なサラリーマン武士みたいなものは、そろそろ「大政奉還」して終わるべきだと思うんですよ。
みんなの介護 そうですね。しかし、仮に生産効率の良い仕組みをつくり直し、8時間分の仕事が6時間で終わったとします。すると今の社会は「じゃあ12時間やればその倍できるね」という風に上へ上へと仕事を要求してくる雰囲気がありそうです。
山口 そのやり方では生産性は上がりません。生産性関数というのは緩やかに下がっていくものなので。6時間で急激に上げられたとしても、そこから先の増分はほんの少ししかないんですよ。
みんなの介護 生産性というと、どうしても単純な比例直線で考えがちになってしまいますが、違うんですね。
山口 人間は疲れていきますからね。仕事もそうですし勉強もそう、生産効率というものはおしなべてそのような下降曲線になっているんです。反対に、グラフの増率が大きい80点くらいまでは、適度な努力でわりと簡単に到達するものなんです。したがって、80点に到達したらそこでストップし、無理に100点まで上げようとしないことが合理的な選択であるということになります。
もう一つ効率が良いのは、逆に120点を目指すことです。100点から120点にかけて、再びグラフは急な上り坂に入っていきますから。あえて過剰な目標設定をすることで、異次元へ突き抜けてしまうというアプローチです。さくっと80点を取るか、突き抜けて120点までいってしまうか。正しい目標設定というのはそのどちらかしかないんです。

好きなことにだけ120点の力を注げばそれでいい
みんなの介護 その理論を、山口さんは仕事上で実践されているんですか?
山口 僕は前の会社のときに「120点ルール」というのをつくって、絶対にクライアントへ“お土産”を持っていけと社員を指導していました。つまり、完璧に仕事をこなすだけでなく、プラスアルファの付加価値を生み出すまでをゴールにする。そうすると、1つ上のレベルに到達することができるんですよ。
みんなの介護 単に何時間働け、という量的目標ではなく、質的に高い仕事を要求するのですね。他にはどんなことで「120点」を目指すのでしょうか?
山口 好きなことに対して、ですね。中でも僕は考えることが好きなので、貨幣論や論文、本の世界に対しては全力で取り組みました。自分しか競争相手がいないので、心置きなく120点を目指せるんですよね。で、本の中からまだ他の人が見つけてないものを探し出す、ということをゴールに置いて。
みんなの介護 本の内容を理解することが100点だとしたら、それにプラス、自分オリジナルの解釈を生み出すことが20点分なのですね。
山口 と言うよりは、120点を目指して研究しているとオリジナリティは勝手に出てくるものですよ。要は“フレーム“を超えることができるんですね。例えば数学オリンピックに出るような子供は、小学5年生なのに高校の理論方程式を解いていますよね。テストの「100点満点」という枠に囚われず、数学そのものの美しさを追い求めることで高いレベルに達しているんです。
みんなの介護 山口さんは反対に、「80点」のラインを目標に設定することもあるんですか?
山口 学校の勉強や仕事など、外部から与えられるたぐいのタスクは80点で済ますようにしています。興味がないですからね。実は、僕は受験勉強を3ヵ月しかやってないんですよ。しかも、合格最低点をぎりぎり取れるような楽な勉強の仕方をしていました。
みんなの介護 受験には興味が湧かなかったんですか?
山口 まったく興味がなかったわけではなくて、それ以上に釣りがしたかったんです。高校を出た後の数ヵ月、僕は働きもせず釣りばかりしていました。するとある日、知人がやって来て「揚平くん、プータローは良くないから」と言って受験を勧められたんです。その人は父の会社で勤めながら町田の予備校でアルバイトをしていたそうなんです。そんな彼が「勉強なら教えてあげるから」と言うので、言われるがままにその予備校に入って。
その時点ですでに受験まで3ヵ月しかなかったんですが、それでも釣りは辞められなかった(笑)。だから模擬テストで70点を切らないためのチェックをする、という簡単な勉強だけを続けたんです。もちろん点数はだんだん下がっていくので、なんとか合格点だけは割らないように注意して。で、そのまま入試を迎えたわけです。



