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睡眠と覚醒の間から生まれる創造性

「とりとめのない夢想」と創造性(WIRED)

カリナ・クリストフとジョナサン・スクーラーらの研究チームが「とりとめもない夢想」と「創造性」に関連があるという研究成果が紹介されている。

ここでの「夢想」は、「睡眠時の夢と、覚醒した意識の中間にある、境界的な空間に存在」する「起きてはいるが、十分に現在に焦点をあててはいない」状態を指している。つまり、「睡眠と覚醒の間」である。

スクーラーらは、実験により「夢想」のタイプを、「他人に指摘されないと夢想状態である事に本人が気付かないタイプの夢想」と「夢想状態を本人が自覚するタイプの夢想」に分けている。このうち、被験者は後者の「自覚的な夢想」の時に「創造性が高い」という。

記事では「創造的である状態」がどのような状態であるかは明らかにされていないが、少なくとも「音楽」に関しては「創造性」を高める効果がありそうだ。実際、「夢想」状態の脳波を見るとα波が多く観察される事がわかっている。真島(1974)によると、人の覚醒状態を5つ(「ハッキリ目覚め状態」、「ぼんやり目覚め状態」、「うとうと状態」、「浅い睡眠」、「深い睡眠」)に分けて脳波を測ると、「ぼんやり目覚め状態」において最も「α波」が多く分布している。この「ぼんやり目覚め状態」は「夢想」そのものに違いなかろう。

個人差はあるが、音楽を聴くと脳波において「α波」が多く見られるようになる。「α波の観察=創造的」とは必ずしも言えないが、創造活動に何らかの関係があるのは確かだろう。スクーラーらの研究成果は、これと関連性がありそうだ。

更に時代を遡ると、レナード・バーンスタインが”1957年”に「夢想と創造性」の関係について講演を行っている。バーンスタインは主に指揮者・作曲家として名を残している。(レコード芸術の指揮者ランキングでは3位に選ばれている。)彼は、スクーラーが言う「夢想と創造性」について50年以上前に経験的に気付いていたのだと考えられる。

バーンスタインは、「創造的な仕事」をするには「夢幻状態」になる事が重要であると述べている。この夢幻状態は、スクーラーらが「夢想」と呼ぶ状態のように、覚醒と睡眠の間の状態である。この経験は、独創的な仕事をするか否かに関わらず「誰でも起こる現象」であり、「この幻想を知覚し、操る事が出来る状態が望ましい」としている。夢幻状態に陥っても忘れてしまう人が多く、ましてやこれを「伝達出来る形」に変える事が出来る人は極めて少ないようだ。

これだけでもスクーラーの話と極めて似ているが、更に、バーンスタインは「夢幻状態」が「内的」・「狂気的」な状況と似ている事も指摘している。スクーラーらが言う「デフォルト・ネットワークの非活性化に問題がある状態」と同様のものだろう。要するに、「天才と狂気は紙一重」と言いたいのだろう。

さて、この「夢幻状態」やら「夢想状態」で知覚されるものだが、バーンスタインによると、音楽では大きく分けて5つある。以下に挙げると、

1)概念
2)全体的な雰囲気
3)一つのテーマ
4)旋律
5)断片的な和声進行・修飾など


である。詳細は省くが、1や2の方がより抽象的で、かつ、創造的なものである。こうしたものの方が「発展性」があり、より創造的な仕事が出来るという。これは経営で言うなら「理念」のような高い位置に置かれるものだが、「知覚出来ると幸運」なものであるという。

だから、よく「急にこの曲が思いついた」みたいな話があるが、バーンスタインの議論の枠組みで見れば、「既に完成した曲」を思いついただけであり、そこまで創造的ではないという事になる。無論、思考が創造的ではないと言っているだけで、曲が創造的ではないと言っているわけではない。

さて、スクーラーはどのような状況を「創造的」と定義しているのかは分からないが、バーンスタインが経験と研究から気付いていた事が最近になって実証されたかのように思えたのだ。あと、何が凄いかと言えば、バーンスタインは、この講演を行った後に指揮活動において休暇を取り、ブロードウェイで極めて有名な『ウエストサイドストーリー』を作曲している事である。

参考文献
Jonah Lehrer『「とりとめのない夢想」と創造性』WIRED,2011年11月9日
辻陽一「音楽刺激によるα波周波数と振幅ゆらぎの変化」『臨床脳波』33(9), 629-632, 1991
真島英信『生理学』文光堂,1974年
レコード芸術『名演奏家ランキング&名盤選 指揮者編』音楽之友社,2011年9月号

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