記事

最高裁判決を受けて〜人権後進国・日本(その2/3)

保険受給権確認訴訟原告がん患者
清郷 伸人
2011年11月15日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp
(その1/3より続き)

3. 判決の反響や影響

反響といっても私は判決翌日の各紙に載った厚労省の短いコメントと患者会の言葉しか知らない。私は長い訴訟を単独で闘った。支えてくれたのは家族、友人以外ではボランティアの弁護士と数少ない医師、病院関係者、遠くの患者会だけだった。それで十分だった。今も情報源はかれらとメディア、インターネットだけである。

患者会の反応は予想したとおり混合診療禁止が維持されて良かったというものである。その理由は、混合診療が認められれば平等に医療を受ける皆保険制度が壊れる、不当な費用負担が生じる、薬害の発生など安全面の懸念が広がる、必要な医療は保険で行うのが基本などである。私はもっともな意見であり、懸念と思う。ただ一つだけ疑問に思うのは、患者会の人たちは本当に混合診療の被害を受けたのだろうかということである。教科書でなく自らの体験や実感で発言しているのだろうか。私が多く聞くのは、逆にがんが良くならず、苦しむ患者が統合医療や代替・補完医療、東洋医学、自然療法、サプリメントを取り入れて、QOL が少しでも改善した話である。欧米ではそれらを併用するのは当たり前のことと聞く。それから必要な高度医療をすべて保険に入れたら財政はパンクする。気持ちはわかるが、保険はがん患者だけのものではない。高額な高度医療がなかなか公的医療にならないのは欧米でも同じである。

出たばかりの判決の影響について客観的に評価することは難しい。2つだけ述べる。
私の敗訴によって全国のがん患者、難重病患者に希望する医療を受けられる道が閉ざされてしまった。今回の判決で混合診療禁止が固定化した日本では、海外では受けられる先進医療も数年以上待たなければならず、明治の近代化のように黒船という外圧が押し寄せなければ何も変わらないのであろう。私は混合診療のおかげで転移後10年の今も元気だが、たとえば若いがん患者が、保険治療が尽きても海外の先進国で認められた薬や治療を受けられず、続々とがん死する日本は異常である。毎年30数万人ががん死という突出した常態は国家の大きな損失である。

また混合診療がなければ病院での医療は成り立たないといわれ、社会保険中央病院長や厚労省高官が裁判など起こさなくても病院の工夫で混合診療は行われており実害もないと発言するような現状に対して、お墨付きを得た行政権力はさらに強まり、病院の保険指定取り消しや患者の保険給付返還請求といった残酷で野蛮な処分を濫発する可能性がある。その対象となるのは腕がよく、先進医療に意欲的で患者に良心的な医師の多い病院で、理不尽な保険行政の圧力が高まることで、医療の萎縮を招く恐れがある。被害を受けるのは結局患者である。今でも私の周りには、患者のために行った保険外の医療によって処分の危機に曝されている病院は少なくないが、その実態は私の保険受給権取り消しと同様、不合理で中世の宗教裁判を想起させる。

日本医師会は条件反射のように今回の判決を歓迎するコメントを出している。しかし判決内容の持つ危険性には気づいていないようである。その危険性とは司法が、政策で必要ならば法律の明文規定がなくとも行政は趣旨解釈で法律を運用し、行政を執行できることを公認したことである。この行政の大幅な裁量性、恣意性の容認は、返す刀でどのような問題にも切り込めることになったのである。喜んでいる場合なのか。

(その3/3に続く)

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