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イラクを巡る米国とイランの攻防 - 岡崎研究所

米国とイランがイラクで影響力を獲得しようとしているが、トランプ政権の対イラク政策はまだ不明確であると、4月12日付の英エコノミスト誌が報じています。要旨は次の通りです。米国は、イラクで兵士5800人と複数の軍事基地を擁している。一方、イランは、公式には95人の軍事顧問を置いているだけだが、イランの勢力は米国の5倍はあると、アバディ首相顧問は言う。安全保障の専門家も、「イランの影響力は、イラクのあらゆる機関に浸透している」と述べる。

イランの関与は数十年前からで、アヤトラたちは1979年のイスラム革命後、サダム・フセインに追放されたシーア派亡命者を採用した。彼らはイラクとの戦いに動員され、2003年にサダムが米国に倒されると、イラクに戻ってバース党の非合法化で生じた空白を埋めた。2011年の米軍のイラク撤退とイスラム国(IS)の侵略がさらなる好機を提供した。ISが南に勢力を伸ばすと、シーア派民兵組織はhashad(大衆動員)を宣言し、何万もの志願者を徴集した。

これら民兵組織は、イラン革命防衛隊の助けを借りてバグダッド陥落を防ぐと、国を「守る」ため、残された国家機構の大半を事実上掌握した。既にバグダッドの大半は約100の民兵組織の間で山分けされている。ほとんどのイラク・シーア派は自国のシスタニ師に忠誠を誓うが、民兵組織の指導者の多くはイランの最高指導者ハメネイ師に従うと言う。一部の民兵組織は議会に代表がおり、2018年の選挙に向けて親イラン連合を結成する可能性もある。

もっとも、イラン支持の現実的利益は、一定のイラク、そしてアラブ・ナショナリズムによって抑えられてもいる。米軍の存在もイランへの依存の抑制に役立っている。2014年、ISとの戦いを支援すべく米軍がイラクに戻ると、ほとんどの民兵組織は歓迎した。

また、今のところhashadは、モスル奪還は米軍と米国人顧問に訓練された特殊部隊に任せ、後方に控えるようにとの命令に従っている。hashadは、シーア派中核地域を越えて北部に進出する中、排他性を薄め、スンニ派、キリスト教徒、ヤジディ教徒も採用するようになっている。また、米国の説得で、シーア派復活熱を弱め、よりアラブ的外交政策を採るようになったアバディを支持している。2月にはサウジ外相が27年ぶりにバグダッドを訪問し、イラクの代表団もサウジとの貿易復活の交渉のためにリヤドを訪れた。

しかし、こうした関係改善がモスルを巡る戦術的協力を越えてどこまで続くのか、関係者の誰もが危ぶんでいる。米国は大規模な軍事基地を4つ再建し、イラクを去る気配はない。一方、3月に訪米から戻ったアバディは、10万強のhashadの半分を廃し、残りをイラク軍の直接指令下に置く計画を発表した。憂慮したイランは、スレイマニ将軍の上級顧問でもある新大使をバグダッドに送り込んだ。

イランのプロバガンダで、一部の民兵組織は再び反米主義を標榜し始めている。あるイラク軍幹部は、米国の占領を容認しているのは政府であって、人民ではないと言い、米国ではなく、イランをイラク安定の最終的保証者と見ている。シリアと同様、イラクに対しても、トランプ大統領の明確な政策が必要である。

本年4月のバグダッドの様子は、1年前と比べ、モスル奪還の攻防戦は未だ続いているものの、イラク政治はIS後の情勢を見据えつつ、本年秋の地方選挙、来春の国政選挙に向けて動き出しつつあるように見えました。この論評が取り上げていることは、ポストISのイラクの中長期的安定と国の在り方にとって重要かつタイムリーなものであり、また内容も基本的に妥当なものです。

イラクにおける米国とイランの関係は複雑かつ微妙なもの

イラクとイランの関係、またイラクにおける米国とイランの関係は複雑かつ微妙なものであり、なかなか一筋縄ではいかないところがあります。今回の対IS戦において、シーア派民兵への支援を通じてイランの影響力が増したことは事実ですが、これは必ずしもイラクのイラン属国化を意味するものではなく、シーア派系政党、民兵組織の間でも親イランの度合いは様々であり、今後は来年の選挙に向けてイランに近いマリキ副大統領(前首相)派とイランとは一定の距離を置くアバディ現首相派との争いが一つの焦点となるでしょう。

米国については、オバマ前政権による米軍全面撤退により急激に影響力を弱めましたが、対IS戦において漸く本格的な支援、関与を強化した結果、影響力を回復し、アバディ政権の存続、政治基盤の強化に繋がっています。問題は、イラクにおけるIS戦が終了した後も、基地も含め一定の米軍の存在を維持するのかであり、またアバディ政権(或いは来年の選挙の結果生まれる政権)が米軍の駐留を望むのかにもかかってきます。

オバマ政権による全面的な撤退が、その後のイラクの分裂状況とISの台頭を許したこと、またイランの影響力増大をチェックし、スンニ派、クルド系の安心感を確保することが政治的安定にとって重要であることから、今回は何らかの形での駐留継続を行うことが望ましいですが、トランプ政権が如何なる政策を打ち出すか現時点では不透明です。トランプ政権発足後はマティス国防長官、最近ではクシュナー上級顧問がイラク訪問しており、この辺の意見が反映されれば駐留継続の可能性も出てきます。

なお、イラクにおいては、イスラム過激派の排除を含む中央政府の安定は、イラン、米国共に望むものであり、この点では戦略的利益は共通します。また、サダム・フセイン後のイラクがシーア派政権であることを前提にすれば、イランが強い影響力を持つことは避けられません。従って、今後もイラクにおいては、米国とイランは、互いの一定の存在価値を認めつつ、競合的な関係をマネージしていくという複眼的な視点に立った政策が求められます。

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