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山口絵理子さんに会った!

僕は、報道の第一線にいるジャーナリストたちとともに、大隈塾をやっている。
「21世紀のリーダー、あるいは世界で活躍する日本人」の育成を目標として、各界の著名人を呼んで講義をする。非常に贅沢な授業だ。

先日、大隈塾に、山口絵理子さんが来た。
ちょっと前に『日経ビジネス』誌が「次代を創る100人」という特集をした。
そこで100人に選ばれた、数少ない女性の一人が山口さんだ。
彼女は、いま日本でもっとも元気な人なのである。

山口さんは、実は小学校のとき、一度も給食を食べたことがなかった。
男の子たちに取り上げられていたのだ。
いわゆる、いじめられっ子で、不登校にもなった。
彼女は、給食の味を知らずに卒業したそうである。
その反動から、中学で非行に走った。警察に何度もお世話になった。
ただ、すぐに、「こんなことしてはだめだ」「もっと強くならないといけない」と気づいた。

そこから彼女は変わった。学校の柔道部に入ったのだ。
柔道部には、女性は彼女一人。そこで懸命に練習した。
懸命に練習をして、大宮工業高校に進学したのである。
その柔道部は、埼玉県でいちばん強いといわれていた。
そこで柔道をするために、わざわざ工業高校に進んだのである。
ここでも唯一の女子部員として懸命に練習を重ねた。
そして、なんと埼玉県ナンバーワンを倒すところまで成長した。
全日本ジュニアオリンピックでも第7位になった。

そこで、彼女はまた考えた。
頑張って柔道に取り組み、ここまできた。でも、柔道だけでいいのか。
勉強もしたい。自分は小学校からろくに勉強をしたことがなかった。
大学ではちゃんと勉強したい、と。
高校3年生の夏のことである。
そして9月から猛勉強を始め、なんと慶応大学に合格する。
さらに、そこで竹中平蔵さんに出会う。
彼のゼミに入り、国際問題について学んだのである。

彼女はまた考えた。
世界になぜ豊かな国と貧しい国があるのか。
貧しい国は、なぜこんなに貧乏なのか、と。
いろいろ調べると、アジアでいちばん貧しい国はバングラデシュだとわかった。
ずば抜けた貧しさである。さらに政府の開発支援にも疑問を感じた。
その疑問を解くために、彼女は決心した。よし、バングラデシュに行こう、と。
22歳のことである。

最初は、最貧国とはどういうところなのか見てみよう、という気持ちだった。
ところが、実際にバングラデシュに足を踏み入れると、想像とはあまりに違っていた。
まず、空港に着くなり、そこに漂っている異様な臭いに驚いた。
物乞いたちに取り囲まれた。街には、手足のない人びと、泣き叫ぶ裸の赤ちゃん……。
「こんな世界があるなんて」
いままで自分が生きてきた世界があまりにも狭くて、小さなものであること。
そして自分が信じられないほど幸運な星の下に生まれたことに気づかされた。

なぜ、ここまで貧しくなったのか。私でもできることはないか。
そのためには、ここに住まなければ、と考えたのである。
そう考えたら彼女は早い。彼女は、やろうと決めたらすぐに実行する。
柔道を始めたときも、大学受験を決めたときもそうだった。
バングラデシュの大学院の試験を受けた。大学院に入れば2年間、滞在できる。
その2年間で、なぜバングラデシュが貧しいのかが、だんだんわかってきた。

バングラデシュの主要農産物はジュートである。
麻の一種であるジュートを先進国に輸出しているが、二束三文で買いたたかれていた。
先進国はそのジュートで鞄をつくったり、洋服をつくったりして高く売る。
先進国は、原料を途上国から安く買い、付加価値をつけて高く売る。
だから、途上国はいつまで貧しいままだ。
途上国が、現地で製品をつくるようにならなければ、貧困から脱出できない。

そこからが、彼女らしいところである。
「じゃあ、バングラデシュでバッグをつくろう」ジュートバッグをつくって日本で販売する。
日本だけではなく、台湾や世界に広げていこう、と動き出したのである。
ただ、彼女は20代半ばである。
工場をつくろうにもお金はないし、誰も信用してくれない。
そこを必死で口説いた。自分でデザインをして、そして苦労に苦労を重ねて、ようやく最初のバッグをつくった。
全部で160個のバッグを持って日本に帰ってきた。
次は、どうやって売るかが問題である。
そこで、1軒1軒お店をまわって、バッグを売ってもらうようにお願いした。
ルートもコネもないから、最初は「バングラデシュのバッグって何?」「それ売れるの?」と言われたそうである。
彼女は「マザーハウス」という会社を立ち上げた。
いま、日本で7つの店舗を展開している。

彼女はまだ30歳そこそこのとても小柄な女性である。
どこにこんなにエネルギーがあるのだろうか、と思うほど、彼女と一緒にいると刺激を受ける。
彼女の身近な人は、彼女のことを「突破力」だと言う。

彼女は、自分が見た夢をすべて叶えている。
夢を叶えるために、頑張り通す。
京セラの創業者、稲盛和夫さんが、僕にこう言ったことがある。
「田原さん、この世の中に失敗っていうのはないんだ。
失敗というのは、チャレンジを諦めたとき、それを失敗という。
100回でも200回でも続けていれば失敗ではない」

彼女は、まさにその通りの人である。
彼女の話を聞いて、僕は非常に刺激を受けた。
彼女がこんなに頑張っているのなら、僕ももっと頑張らないと、と思った。

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