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受動喫煙による死亡者数はどうやって計算しているのか

日本において受動喫煙が原因で一年間に1万5000人が死亡しているとされている*1。もちろんこれは推定なので誤差を含む。しかし、おおよその数字としては正しい。こうした数字が話題になるたびに「どうやって計算したかわからない」という意見が出る。極端な場合には「1万5000人も受動喫煙が原因で死んでいるなんて嘘だ。統計の数字を操作したのだろう」という反応すらある。

1万5000人の根拠については厚生労働省のサイトにある(■全て表示|厚生労働科学研究成果データベース MHLW GRANTS SYSTEMの「受動喫煙と肺がんについての包括的評価および受動喫煙起因死亡数の推計」)。受動喫煙によるリスク増加が明らかな肺がん、虚血性心疾患、脳血管障害(脳卒中)、乳幼児突然死症候群(SIDS)の4疾患について受動喫煙による死亡を計算し合算したものである。

具体的な数字で説明したほうがわかりやすいだろう。例として、日本人女性の家庭における受動喫煙が原因の肺がん死亡数を計算してみよう。細かい数字にこだわる必要はないので、大雑把にいく。大事なのは考え方。まず、日本人女性の肺がん死は年間あたり約2万人である。*2。

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日本人女性の肺がん死は年間に2万人。そのうち、どれぐらいが受動喫煙が原因なのだろうか?

この2万人の中には、能動喫煙が原因で肺がんになった人もいれば、受動喫煙が原因で肺がんになった人もいる。もちろん、他の原因で肺がんになった人もいる。受動喫煙を受けていても受動喫煙とは関係なく肺がんになった人もいるだろう(後述するが、むしろ割合としてはそういう人のほうが多い)。

まず、この2万人から能動喫煙者(自分がタバコを吸っている人)を除く。死亡診断書には喫煙歴は記載されないので、肺がん死亡者中の能動喫煙者の割合を正確に直接測定した数字はないが、一般集団の喫煙割合および能動喫煙による肺がん死の相対リスクから求めることができる。日本人女性の能動喫煙者割合はおおよそ10%である。日本人女性の10人に1人が喫煙者ということになる。また、日本人女性の能動喫煙による肺がん死の相対リスクは約2.8倍だ*3。言い換えると、タバコを吸っている日本人女性はタバコを吸っていない日本人女性と比較して、2.8倍肺がんで死にやすい。

能動喫煙者割合が10%ということは喫煙していない人の割合(非喫煙者割合)は100 -10=90%である。もし仮に、能動喫煙が肺がん死のリスクにならないなら、能動喫煙者が10人肺がんで亡くなるにつき、非喫煙者は90人亡くなる。実際には能動喫煙者は2.8倍肺がんで死にやすいので、能動喫煙者の肺がん死は10×2.8=28人である。肺がん死全体の中で能動喫煙者の割合は28÷( 90+28 )=23.7%である。

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肺がん死全体における能動喫煙者の割合は?

肺がん死数は2万人なので、能動喫煙者は2万×23.7%≒4700人である。残りの1万5300人が非喫煙者である。ちなみにこの能動喫煙者の肺がん死4700人のうち約3000人が能動喫煙が原因の肺がん死で、残りの約1700人が能動喫煙が原因ではない肺がん死である*4。

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日本人女性の年間の肺がん死2万人のうち、非喫煙者は1万15300人である。

次に、非喫煙者の肺がん死1万5300人のうち受動喫煙が原因の割合を計算する。日本人女性の家庭における受動喫煙の暴露割合は約30%で、肺がん死の相対リスクは約1.3倍である*5。受動喫煙が肺がん死と無関係だった場合に、受動喫煙を受けた集団から30人の肺がん死が発生するにつき、受動喫煙を受けていない集団からは70人の肺がん死が発生する。実際には相対リスクは1.3倍であるので受動喫煙者の肺がん死は30人ではなく30×1.3=39人である。

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非喫煙者の肺がん死における受動喫煙が原因の肺がん死の割合は?

ここで大事なのは、受動喫煙者の肺がん死39人のうち受動喫煙が原因であるのは9人だけであることだ。残りの30人は受動喫煙がなくても肺がんで亡くなった人である。たまに「受動喫煙を受けている肺がん死のすべてが受動喫煙が原因ではない」という主張がみられ、確かにその主張自体は正しいのだが、そんなことは十分にわかった上で受動喫煙による死亡者数は計算されている。

非喫煙者の肺がん死のうち、9÷( 70+30+9 )=8.3%が受動喫煙が原因である。非喫煙者の肺がん死は1万5300人なので、1万5300人×8.3%≒1300人が、家庭における受動喫煙が原因の肺がん死の数である。

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日本人女性の非喫煙者の年間の肺がん死1万15300人のうち、家庭における受動喫煙が原因の肺がん死は1300人である。

ちなみに非喫煙者の肺がん死のうち受動喫煙者の数は5500人で、非受動喫煙者の数は9800人である。受動喫煙を受けた肺がん死5500人のうち受動喫煙が原因であったのは1300人で、割合で言えば約23%である。100-23=約77%の4200人は、受動喫煙を受けていても受動喫煙とは関係なく肺がんで死んだ人である。

受動喫煙は家庭のみならず職場でも起こる。同様の計算で職場における受動喫煙が原因の肺がん死数を計算できる。また、虚血性心疾患や脳血管障害や乳幼児突然死症候群についても同様に計算可能で、それぞれの数字を合算すると約1万5000人になる。この数字を疑うのは、数字の算出の根拠を知ってからでも遅くはないと思う。

最近、2015年の能動喫煙が原因での死亡数は世界全体で640万人であるというニュースがあった。もちろん、単純に喫煙者の死亡数が640万人というわけではない。基本的には上記したような方法で計算されている。「■ピロリ菌は胃がんの原因の何%か?」で論じたのも同じ方法による。ポイントは、ある集団における暴露割合と相対リスクから、その暴露が原因でおこった疾病の割合が計算できることである。

*1:http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000130674.pdf

*2:平成26年(2014年)の日本人女性の気管、気管支及び肺の悪性新生物による死亡者数2万0891人

*3:元の報告書では喫煙割合10.7%、相対リスク2.79倍だが計算しやすいよう丸めた。どうせ誤差があるから細かい数字はさほど重要ではなく「だいたいこれぐらい」という相場観が大事

*4:能動喫煙者の中にも受動喫煙が原因で死亡した人はきっといるだろうと思うが、それは受動喫煙による死亡者数にカウントされていない

*5:元の報告書では非喫煙者における受動喫煙曝露割合が31.1%、非喫煙者における受動喫煙相対リスクが1.28倍

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