記事

不快感にこそ幸せのヒントがあった なぜ最貧国ボリビアのほうが日本よりも幸福感が高いのか? - 風樹茂 (作家、国際コンサルタント)

2/2

 その後、年月を経てその時のことをよくよく考えてみた。当時の筆者はまだ浅薄だったと気がついた。友人に感じた不快感にこそ幸せの源泉の鍵があった。

 どこからともなく、学生の頃に読んだ谷崎潤一郎の処女作『刺青』の冒頭の句が、天啓のように降ってきたのだ。

 其れはまだ人々が愚かと云う貴い徳を持って居て、世の中が今のように激しく軋み合わない時分であった。

愚かと云う貴い徳

 次に脳裏に浮かび上がったのは、不思議なことに渥美清演じる「フーテンの寅さん」だった。寅さんはふらりと柴又に戻り、マドンナに振られ、家族と喧嘩して、家を出る。その都度、家族は嫌な気分を味あわさせられる。不快だ。寅さんは愚かである。ところが何度喧嘩をしても家族は寅さんを受け入れる。

 なるほど、アマゾンの友人も愚かと云う貴い徳を持っていたのだ。

 すなわち、ボリビアはとてつもなく寛容度が高い社会だったのである。鉄道局(筆者は鉄道を作っていた)の中にはかつてゲリラだった人間もいた。それを悔いている彼は精神的に不安定でコカイン中毒だった。クーデターに失敗して国境の通関会社に勤務していた元大佐もいた。日系人の中には九州で人を殺してきたと嘯く人間もいた。結婚詐欺を働いて撃たれそうになり、酒代を踏み倒し、村から逃げた日系人もいた。知人女性はコカインの売人になり、刑務所に入っていた。

 寅さんどころではない。はぐれ者、失敗者、犯罪者を抱えてくれる懐の深い社会なのである。
日本人が昭和30年代を懐かしむのは、当時地縁や血縁がまだ保たれていたこともあるが、今よりも緩い社会だったからだろう。寄付行為などで社会の寛容度を測るのは、ピントが外れている。寛容さとは、ひとことでいえば、

 こんな自分でも生きられる。

あわせて読みたい

「幸福度」の記事一覧へ

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    BLOGOSサービス終了のお知らせ

    BLOGOS編集部

    03月31日 16:00

  2. 2

    なぜ日本からは韓国の姿が理解しにくいのか 識者が語る日韓関係の行方

    島村優

    03月31日 15:41

  3. 3

    「いまの正義」だけが語られるネット社会とウェブ言論の未来

    御田寺圭

    03月31日 10:09

  4. 4

    カーオーディオの文化史 〜ドライブミュージックを支えた、技術の結晶たち〜

    速水健朗

    03月30日 16:30

  5. 5

    BLOGOS執筆を通じて垣間見たリーマンショック後10年の企業経営

    大関暁夫

    03月31日 08:27

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。