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米国がとるべき対中経済政策 - 岡崎研究所

 サマーズ元米国財務長官は、4月10日付の英フィナンシャル・タイムズ紙で、トランプ政権の対中貿易政策は大して重要ではなく、中国とは長期的視野で経済対話を行うべきである、と述べています。要旨は、以下の通りです。

 ドナルド・トランプと習近平による最初の首脳会談が終わった。この会談は米中間の経済関係がどこに向かい、米国がこの関係をどこへと導きたいのかという疑問を残した。特定の問題の解決と同様に重要なのは、直面すべき真の課題は何かである。それは今後の経済外交の焦点となるものである。私(サマーズ)は先日、中国での主要な経済フォーラムに参加し、政府高官数名と会ったが、多くのアメリカ人が関心を寄せている問題は、根拠のないものであるか、さして重要でないものであり、他方、中国による最も重要な経済的挑戦には、それに値するよりもずっと低い関心しか示されていないことを確信した。

 米国は中国が為替操作をしていると言っているが、それは、地政学的な領域における「一つの中国」政策を変更する議論と同様、よく見ても非建設的であり、おそらくは危険である。2005年以降の10年間については、中国が為替を非合理的な方法で操作してきたといえるだろうが、今日の中国が競争力を高めるために人民元を下落させる操作をしているとは言えない。

 さらに、米国経済の将来は、北京よりもワシントンの政策によって形作られる。中国の貿易が、米国内に混乱を引き起こしたとすれば、それは、中国の著しい成長と生産能力の増進の結果であり、不公正な通商政策の結果ではない。

 もし通貨問題に根拠が無く、通商外交が米国経済により良い効果をもたらしそうにないとすれば、米国の対中経済政策はどこに焦点を充てるべきか。

 1月のダボス会議における習氏のスピーチは、リンカーンを引用し、米国が内向きになりつつある時代におけるグローバルな経済システムのための中国のビジョンを展開したが、これは中国の組織的な戦略の一部である。

 無論、中国とヨーロッパを繋ぐインフラ投資と対外援助を標榜した習氏の「一帯一路」構想が存在する。AIIBでは、世界中で投資をすると言っている。すでに南米やアフリカにおける中国の投資は米国や世銀、そして地域開発銀行よりも多い。そして中国は、クリーンエネルギー技術の輸出先導者となるだろう。

 この投資は、いずれ原材料へのアクセスを保証し、中国企業に規模の利益を与え、中国が友好国を獲得することに寄与する。米国はAIIB不参加を選択し、ブレトンウッズ体制の財政基盤強化の足を引っ張り、気候変動における地球規模での協力を傷つけ、そして対外援助を減少させることを選択した。そうすることで、米国は名声と影響を得るための国際競争における卓越した地位を急速に失いつつある。

 グローバルな経済協力の目的と、米中それぞれの役割は、真の戦略的経済対話のテーマである。そのような対話が早期に始まることは非常に重要であるが、そのためには特定の短期的な事業利益ではなく、歴史家たちが1世紀後に記憶することになるであろうことに、より焦点を当てるべきである。

出 典:Lawrence H. Summers ‘The US must work on its economic relationship with China’(Financial Times, April 10, 2017)
https://www.ft.com/content/abbeb10a-1b85-11e7-a266-12672483791a

 米国の対中大幅貿易赤字を背景に、トランプが選挙中から中国に対する厳しい批判を繰り返していたので、一部に米中貿易戦争を懸念する声もありましたが、先般の米中首脳会談では、「100日計画」が合意され、100日間で米中の懸案事項を検討することとなり、貿易戦争は回避された形になりました。

 しかし、サマーズは、トランプの批判する中国の為替操作については、今や中国は元を支えるために介入しているのであり、トランプの批判は的外れであると言っています。また、輸出補助金などの中国の非関税障壁については、その影響は大したものではないと述べています。サマーズの言う通りでしょう。

「100日計画」でどの程度の合意が達成されるか

 「100日計画」でどの程度の合意が達成されるか分かりませんが、かなりの成果が上がったとしても、米国の対中貿易赤字の解消からは程遠いものでしょう。

 そもそも、米国の対中貿易赤字の原因が、中国政府の不公正な経済政策によるものであるとの考えが間違っています。

 サマーズは、米国の対中経済政策でより重要なのは、中国といかにグローバルに協力するかであると述べています。その背景には、トランプ政権が米国の世界経済における指導的役割にあまり関心がない間に、中国がAIIBの拡充や、気候変動の重要性の指摘などで、グローバルな経済システムでの地位を着々と強化しているという事情があります。それを最も象徴するのは、1月のダボス会議における習近平の演説でしょう。習近平は「世界に開かれた自由貿易圏のネットワークを作る」と述べ、自由貿易の発展の堅持と保護貿易への明確な反対を強調しました。従来米国が言っていたようなことを述べたのです。

 もちろん中国が米国に代わって世界経済のグローバル化の旗振り役を担うと考えるのは尚早です。中国経済自体、金融面をはじめ未だ自由化されていない部分がかなりあります。

 ただ、一方の米国では、トランプ政権が国際秩序やグローバルな経済システムにあまり関心が無く、米国の指導的役割には言及していません。トランプ政権には世界経済システムについての戦略がないようです。

 サマーズは中国といかにグローバルで協力するかが重要であると言っていますが、現在のトランプ政権にその用意があるとは思えません。

 しかし、グローバルな経済システムにおける米国の指導力は、そのシステムの維持、発展のため不可欠です。トランプは「米国を再び偉大にする」と言っていますが、グローバルな経済システムの指導者たらずして偉大ではありえないことを自覚すべきです。また、日本や欧州があらゆる機会をとらえて、トランプ政権に対し、そのような指導的役割を果たすよう働きかけるべきです。

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